第2話「王国王城2・魔法の技術」
―――『ヒーリング』
とりあえず、姫の模倣してみるものの、妖精に何も起こらない。
そもそも、姫が魔法陣を展開しているのに対して、自分は何も展開できていない。
「・・・使えないなのね?」
「みたいですね」
盛大にため息を吐く。露骨に残念がられても使えない以上どうしようもない。姫様の目が厳しい。
「ため息を吐くと幸せが逃げるって言いますよ?」
「適当に包んでとっておいて、私は妖精が回復するように魔法をかけ続けるから、ミリアが戻ってくるまで待っていてください」
「ええ」
ベッドの横にある椅子に腰かける。
「勇者は魔法適正もあるはずだから使えるハズなのに」
「・・・勇者じゃないからじゃないですか?」
「何をバカなことを」
「勇者の条件とか知りませんし、可能性としてあるのでは?」
「勇者召喚の陣は二千年前以上にだけど確立された技術ですよ?」
「わー、中国並に古そうな歴史ですね」
「中国ってなにかしら?」
「古い国の名前ですね、滅んでますけど」
「・・・そんな国と同じに扱われたら実験材料にされますわよ?」
「それはやだなぁ・・・」
「召喚魔法自体は昔から存在しています。それを安全な技術として確率させたのは魔法学院ですけど」
「魔法学院ですか?」
「ええ、魔法学院の教師には魔王討伐もこなすほどの魔法師もいるし、学園長は天才といわれるエルフが代々勤めているから失敗がある可能性は低いと」
「その不確かな低確率を引き当てたのではないでしょうか?っていうか、魔法学院が討伐できるならそこ中心に編成すればいいじゃないですか」
「・・・難しい。召喚陣の使い方は全ての国で使えるように調整されているから、詳しいことを調べるなら魔法学院に直接行かなければならなくなるし、魔王を討伐できるといっても、魔法師にも戦闘できるものと出来ないものがいますので」
「どっちも、面倒ですね」
「・・・勇者が必要なのですよ、どこの国も。魔王を倒せるのは勇者だけだから」
「勇者以外では無理なのですが?」
「・・・相手の生命を削るなら可能といえます。傷を与え、血を流させ、筋肉を断ち、骨を折る。それが可能な相手なら」
「・・・実態を持たない魔王もいるのですが?」
「魔王にも種類がいますわ」
魔王に関する情報が長いのでまとめて。
1・人型。人と同じ構造。武器使用、魔法使用。人を倒す方法で討伐可能。基本的に人類生存権の近くにいるものはこれになる可能性が高い。
2・半人型。人と組み合わさったもの次第で変化。獣などなら1と同じ対処が可能。魔物と組み合わさると武器、魔法などありえない組み合わせの能力を保有することとなり討伐難易度は跳ね上がる。
3・魔物型。ベースとなっている魔物の強化種と考えて討伐可能。ただし、強化されてるだけあり、一筋縄ではいかない。
4・幽体型。魔法でしか討伐不可能。極端に魔法よりの能力を保持しているため、並の魔法は効果がない。魔法学院が討伐を得意とするタイプ。
5・幻獣型。存在の不確かな生物ベース。ユニコーンやケルベロスといった存在等が例に上がる。幻想の存在であるため、情報不足により被害が大きくなりやすい。また、見たことのない形が多いため、判別しにくい。
6・魔王型。物理、魔法どちらの能力も高く保有し、異常事態の元凶。勇者しか倒せない。
「・・・魔王って複数いるんですか?」
「一定以上の能力を保有していると普通の人間や冒険者には手におえないの。だから魔王と認定された場合は勇者の出番に」
掃討も兼ねてるのか。まぁ、保有戦力の確認も必要だし、いきなり魔王ぶったおせも難しいか。
「・・・うわー、面倒この上なくて帰りたい」
「なぜ、帰りたいのかしら?」
「ここにいる理由がありませんし。必要もないですし。名前も知らないすべての生命よりも、一人の家族の方が大事なんですよね」
「・・・そう、残してきた家族がいるのですね」
「ええ、永遠に目覚めることないでしょうけどね」
「そ」
はっ、と笑う。
言葉を紡ぐ前に控えめなノックと共に、ナイフのメイドが入ってくる。名前はミリアだったか、覚える気ないけど。
「失礼します」
姫に言われた通りの物と、姫の着替えを持ってきている。
「ありがとう」
「いえ、当然の事です」
そしてメイドはこちらに顔を向ける。
「・・・どうかしましたか?」
「はぁ、姫がこれから着替えるのだ、部屋の外に出るのが紳士ではないか?」
「ああ、気が付きませんでした」
失礼、と扉を開けて部屋の外に出る。
先ほどから魔法が出ないかといろいろ考えているが、出ない。
科学技術の中にいたわけで、いきなり魔法が使えるなんてありえないと思うのだが・・・。
「使えないと、あの妖精が死ぬ。武術だけで自分の身を護れるかと言われれば否」
おそらくそこに付け込んで勇者として契約が交わされるのだろう。
勇者召喚の陣により、拉致してきた人間。
科学技術がない中で放り出されれば魔獣のエサに直行。
「考えろ・・・現代でも魔法のようなものはなかったか・・・」
ブツブツと一人思考に没頭していたために、呼ばれたことに気が付かなかった。
「おい?」
後ろから肩をつかまれて反射的に腕をつかみ、投げる。
「なっ」
メイドだった。このままでは背中を強打させることになると、慌てて手を引っ張ろうとするが、ほどかれ、メイドは華麗に着地する。
「何の、真似だ・・・?」
負のオーラというか、殺気だろうか、体を強張らせた一瞬を突かれ、距離が迫る。
「いっ」
「はっ」
気合と共にメイドのナイフが振るわれる。挟み込むような左右からの斬撃。左右は無理、上下も無理。後ろしか逃げ場がないが、下がっても距離を詰められる。
『頼む、腕よ、ナイフを止めてくれ・・・!』
左右から振られるナイフを腕で受ける。痛みが走るが、ナイフは止まる。
「いっーたぁぁ」
蹴りを顔に向けて放つが後退であっさりと回避。
近接戦闘能力だけ見ても、メイドの方が数段上。
「いきなり、ナイフはないのではないですか・・・?」
「貴様こそ、何のつもりだ?声をかけたのに無視したあげく投げ飛ばすとは」
「あー、思考に没頭して気が付かなかったかったんですよ?投げたのは反射です。いきなり体に触れられたので」
「・・・本当か?」
「ええ」
「よし、信じる必要ないな」
「ええっ」
両腕は痛いし、使い物にならないし、使いたくない。このままいけば確実にご臨終だね。・・・死ぬことで帰還できるならいいんだけど、失敗したらどうしようもないし。試したくない。
「ミリア、やめなさい」
扉の前で着替えた姫に、般若を背負っている幻想を覚える。
「・・・勇者様、ミリアが」
「ああ、気にしないでください。こちらにも非はありますし」
「ですが、刃物を使い傷を負わせるなど」
「治せません?」
「ええ、大丈夫ですよ、治しますので部屋に」
「す、すいません姫様」
ナイフのメイドは仔犬のようにうなだれている・・・。えらく態度が違うんだけど?
「ミリアは過剰に反応しすぎなんですよ」
「で、ですが・・・!」
「何の為に下着の着用させてないと思っているのですか」
「ぶっ」
この姫様何言ってんの!?
「さ、勇者様腕を出してください」
言われるままに腕を上げる。・・・あれ、傷が思いのほか浅い。血もそこまで出ていない・・・というか、すでに治り始めている。
「ひ、姫様っ!下着つけてない事は内緒にしてくださると」
「・・・いや、下着付けないから余計に気を張ってるんじゃないですか・・・?」
「この娘は油断するとすぐ飛ぶ、跳ねる、登るで仕事をこなすのですよ?もう少しスカートを翻さない動きを身に着けるように言ったのに、もう1週間言っても聞かなかったので。
勇者様を召喚するための儀式もするわけで、勇者様ならミリアも少しはお淑やかに見せられると思ったのに」
「はぁ・・・」
「先ほども、あなたの蹴りを回避するために後退しましたが、普段はあそこで回転しながらナイフを投げるのですよ、そうなったら丸見えではないですか」
「ノーコメントで」
「ミリアに惚れさせる予定でしたのに」
「き、聞いてませんにょ!?」
噛んだ。
「ええ、言ったら絶対に逃げるでしょう?・・・あら?」
「どうしました?」
「勇者様、回復の魔法使いました?」
「使えなかったではありませんか?」
腕をつかむ。
「い・・・たくない・・・?え?」
先ほどメイドのナイフを受けた傷口が治っている。
「なんで・・・?」
「回復魔法使えるみたいですね?」
「ええ・・・?」
でも、どうやって?なんでまた?
先ほどまで、魔法は確かに使えなかったのだけど・・・?
防衛本能?
「怪我の功名といったところでしょう、出来ればミリアの事は赦して欲しいのですが、もちろん腕の怪我もありますし、お風呂から、夜伽まで万全の態勢でサポートさせますし」
「ひ、姫様、さすがにそれは・・・!」
「いや、いらないんで」
「なぜですか・・・?まさか、ヤオイビトですか」
「何ですかそれ」
「男性にしか劣情を」
「あ、わかったんでいいです」
「抱かずにい」
「いいって言ってるでしょ!」
「最後まで言わせてくださっても良いのでは?」
「メイドさん、この人こんなのですが」
「いや、そういうわけじゃ・・・たぶん、勇者殿を懐柔するために出汁にしただけだと思いたいのだが・・・夜伽・・・風呂・・・」
一気に壊れたな・・・。まぁ、殴り合いして勝てないしこのままポンコツでいてくれた方が楽だしいいか。
「さて、ミリアを弄った所で、勇者様、回復魔法が使えるので、魔法が使えない。ということはないと思われますわ」
メイドを無視して話を進めおった・・・。
「魔力はあり、魔法の知識もある。後は多分ですが、魔力の使い方がよくわかっていないのではないかと思われます」
「どうすればいのですかね?」
「簡単ですわ。私が魔力を流しますので、それを感じてください」
姫が立ち上がり、背中に回る。おもむろに服をめくられ、背中に姫の両手があてられる。あらやだ、意外といい身体。とのつぶやきは聞かなかった事に。
・・・これあれだ、健康診断かなにかで聴診器当てられるような・・・。
「どうですか?」
「内臓にお湯を流し込まれる感じですね」
「でしたら、それをゆっくりと指先に集めて、指先から魔法陣を描くように念じながら出してください」
「魔法って、指先から出るんですか?」
「最初はみなそうやってイメージを掴むのですよ」
魔法は魔法陣という円の中で構成を決める。
まずは陣を描き、その中に決まった命令を書き込む。
回復魔法なら癒し。傷の修復など。
最初はそれらを行い、徐々に陣をイメージだけで作り上げるようにする。
魔法陣を書き込むのは誰でも使えるようにしたため。その例が勇者召喚の陣。
特異な魔法や高位の魔法はほとんどが門外不出。師匠から弟子に受け継がれていくのみ。
そのために、魔法使いは詠唱をとなえ、陣をイメージだけで作り上げ、魔法を使う。
陣を見られたら自分の目のように相手に覚えられる可能性があるから。
それでも、発現時だけは少しばかり陣が見えるため、その一瞬を狙い魔法を盗むものもいるらしい。
・・・相手の発動を見ただけで魔法を覚えられるのはある意味チートか。
「さぁ、勇者様、今なら回復魔法が使えるはずです」
「・・・了解」
―――『ヒーリング』