第14話「魔法学園・ギルド」
「さて、アーヤ、ギルドに行く前に、魔力を抑える訓練をします」
「おさえる?」
朝食後、クレアが唐突に言いだした。
「ええ、アーヤは魔力を垂れ流してるわけで、そんな状態は、魔獣にとって餌をぶら下げているようなもの。魔獣から寄ってくるので、魔力を抑えなければなりません」
「・・・」
とりあえず、気配を断ってみる。
「・・・魔力は抑えれてないけど?」
「まじか・・・」
「まず、手本を見せるわ」
・・・わからん。
「何か薄くなったような気がしますが・・・」
妖精の眼で見れば一目瞭然。確かに、クレアを覆っていた魔力が少なくなっている。
「完全に消すことは出来ないんですか?」
「消すんじゃなくて、体に留めて置くかんじ?」
「なるほど」
体を覆うようにイメージをする、そして少しずつ体を覆う薄い膜になるようにイメージする。まぁ、漫画で制御するうんぬんは見てたしどうにかなると思うが。
「・・・あっさり、出来ちゃうのね」
「そうですか?」
「そそ、まぁ、しばらくはそれで過ごして、あと、左目はこれを」
眼帯を渡される。
「これは?」
「妖精の眼が発動中は瞳が赤く変色してるから、それを隠すためよ」
「・・・妖精の眼って珍しいんでしたっけ?」
「まぁ、殺して目を奪う位するわね」
無言で眼帯を付ける。・・・が、問題なく見えるな。
「見えるんですけど」
「え、何が?・・・下着」
「違うよー?」
「まさか、内臓まで透視出来るの!?」
「残念、左目閉じてるのに普通に視界が両目で見てるの変わらないんですよ・・・」
「そりゃ、そうでしょ。妖精の眼だもの」
常識というか、もういいや。
「・・・シーナさん早く服持ってきてくれないかなー」
「呼ばれてじゃっじゃーん!ドキ!ワク!アーヤちゃんファッションショー開催」
「いえーい!」
服をいくつか、魔力と交換でシーナに頼んでおいたので、服が届けられた。狙ったようなタイミングなのはスルーしよう。
「しないよー?」
「ちえっ!」
小石を蹴る動作をするクレア。
「一応ご注文通りに普通の男性用持ってきたけど?女者もあるよ?両者兼用もあるよ?」
確かに日本にいた時は女もののズボンもはいてはいたが。幼馴染が初売り!初売り!と正月に福袋で買った服を交換したりしたわけだが。決して自分の意志で買ったわけではない。あえて言おう、自分の意志ではない。
「ぜひこれを」
メイド服を押すクレア。僕に何を期待しているんだ?
「遊んでる暇があるなら、帰還のための魔法をお願いします」
「しかたないなー、シーナ、あとよろしく!イロイロな意味で!」
イロイロってなんだよ!と思うが、突っ込んだら負けだ。
シーナはシーナでスカートを広げる。が、無視して装備を確認。魔杖短剣4本を見る。・・・これかなりの上物じゃないか?刀身の装飾が過度な気がするが。
「ああ、それは魔杖剣の試作品を作っているとこからもらってきた。使用した感想聞かせてもらえればいいって」
「よくそんなの手に入りましたね・・・」
「作れても使えないから使用者探してるのよね」
「・・・なるほど」
コートを見る。真っ黒のコートは多少の汚れでも平気だろう。
「・・・さて、魔力でいいんですよね」
「この魔石に魔力補充してくれれば」
懐から白い石を取り出す。
「・・・魔石なんですか?」
見たところ特に変わった感じはしない。右手で握り魔力を込める。
報酬の魔力を提供したので着替えてから学園を出てギルドへ向かう。といっても、学園の方の敷地が街よりも大きい。学園は北にある山を背にして立っている校舎、資料室、研究室、室といっても一つの建物丸ごとなので館といった方がサイズ的には近い。さらに闘技場などがあり広さでいえば一つの都市といっても過言ではない広さだった。
学園の南にある正門。そこより南に人が集まり、街が出来たそうだ。街は中心を走る十字路に分かれている。基本的に学園内部で十分に生活できるらしく、学生はあまりに街に出ない。しかし、冒険者ギルドや魔法師ギルドなどの正式な支部は学園内部にないため手続等は街のギルドでしなければならない。学園長の説明だとカードを作って終わりかと思ったが、カードの登録は街のギルドでしか行えないんだと。
「ふむ、迷ったな」
人に道を尋ねるのもいいが、いかんせんみな足が速い。交通手段が馬か徒歩なので考えれば当然か。魔法による移動も可能だが魔法が使えない人には関係ない。
「・・・」
壁にもたれてメモを広げると、路地裏から犬が出てきた。毛並みは白く珍しいと思える。
というか、このメモ、「正門からマッスグ!」としか、書いてない。ギャグかっ!
「・・・グググ」
「・・・食べるか?」
お弁当に食べるようにとシルビアから貰ったパンをちぎって置く。
「グググググ」
「面白い鳴き声・・・」
「ググ」
犬の全貌を見て、納得する。後ろ脚が折れている。
「なるほど、誰かに折られたのか、もしかしたら喉も潰されたか・・・?」
特に首周りに外傷は見られない。片方の脚だけだったのでここまで逃げてこれたが、自分が近づいたことで警戒していたと。影鬼に命令を下す。命令は二つ。木を探してくる事と犬の捕縛。
『ヒーリング』
犬に直接触れる事はせずに少し離れてから治療する。
「!」
内臓をやられていたら手の施しようがないが、外傷なら何とかなる。数秒と立たずに足はもとの状態に戻る。
同時に犬の足ものと影から影鬼が姿を現す。
突然の事に暴れだすが影鬼に完全に捕えられ、身動きできない。
「・・・」
パンを包んでいた紙を切り、影鬼に拾ってこさせた木の枝を添木にして折れた足に固定する。
犬の前にパンを置いて頭をなでる。
「もう、つかまるんじゃないぞ?」
犬を残してその場をさる。
「まったく、動物虐待だなんてこっちの世界でもあるのかよ・・・」
犬の事を頭から追い出して、ギルドに向かう。通りを歩けばすぐに見つかる。といわれていたが、その通りだった。あれくれもの。までいかないまでも、大分ゴツい連中がいる一角がある。扉は開放されていて中の様子もすぐにわかる。
ギルドの内部はほぼカウンターが占めている。そしてテーブルがいくつか置かれている。ギルド内部でも軽食くらいはとれるようになっているのだろうか?そんなことを考えながら、空いた受付のお姉さんに声をかける。
「すいません、魔法学園で登録したのですが、正式な登録はこちらでないと出来ないと聞いたのですが」
「魔法学園の生徒さんですか?」
「はい」
「では、学生証とギルド証をお願いします」
カードを二枚見せる。
「お預かりします・・・確認しました、間違いないようですね。正式な登録を行いますので、あちらの部屋によろしいですか?」
「はい」
言われた通りの部屋に入る。中は狭く水晶?が置かれている。
「・・・お待たせしました、焼き付け用水晶の前にどうぞ」
言われた通りに水晶の前に立つ。
受付にいたお姉さんがギルド証とドッグタグらしきものを水晶の横にある台座に置く。
「手を乗せてください」
どこに?と聞きかけたが、水晶に右手を乗せる。
「・・・はい、タグへの焼きこみも完了です。こちらを付けておけば、街の出入りの際、無料になります」
なるほど、このタグはギルド製で魔法学園では無理なわけか。
「ありがとうございます」
「次はギルドについて説明ですね」
冒険者ギルドについて。ギルドが行っているのは税金の管理と仕事の斡旋仲介。まず、税金だが国によって違うが、ギルド所属の場合、基本的にギルドが国ごとに治めているらしい。年間の出入りを調べてそこから算出すると。国にしてみれば冒険者が来て、魔獣を狩ればそれだけ国が潤うので冒険者ギルドに対してはだいぶ手厚い保護がなされているらしい。ただし、上級の冒険者に限る。当然だな。
冒険者ギルドのメンバーであればギルドでの治療も受けられると。ギルドには前線に出られなくなったものの中で治癒魔法を使えるものがいて、格安で治してくれると。
そして最後に、ギルドで受けられる依頼について。お約束か?納品と討伐、雑用がメイン。あとは護衛など。
納品は依頼されたものを納品するだけ。特に、どこに行っても回復薬と回復薬の素材は常に納品依頼が途切れないと。回復薬の素材は薬師でも欲しがるし、ギルドでもある程度の数を常に保管しておきたいと。特に回復役は薬草のみで作った回復薬、薬草と魔力で作った回復薬、魔力のみで作った回復薬。と三種類もあるらしい。むしろ、魔力だけでどうやって作るんだよ?という疑問が浮かぶ。
脱線した。他には、何々の素材が欲しい。という依頼は素材の難易度と数によって変わるので、珍しく、入手難易度の高い素材はかなり高額になると。
次に討伐。どこどこで危険な魔獣が確認されたので、討伐してくれ。という依頼。こちらは強さの証明が出来ない場合受けれないので、自分はこちらの依頼は受けれないとのこと。試験で戦闘能力を見せれば受けれるらしいが、今は見せる気がないのでスルーする。
そして雑用。主に、街の中の問題解決に求められるらしい。解決といっても内容はベビーシッターのようなものから、決闘の仲裁。はっきり言って、利益は少ないため、煙たがられる。そりゃそうだろ、庭の木をどけてくれ。とか。自分でしろ。と、言いたくなる。
護衛はその通りだが、わざわざ護衛を雇うなら自分の子飼いにさせた方が安上がりだ。特に大手の商人になれば信頼できる護衛が必要だし、貴族様は自身の兵隊がいる。ので、護衛は主に乗合馬車の移動や、採取に向かう人達の護衛らしい。のどかなもので、そうそう強敵には出会わないために、あまり高くもない。
「稼ぐには討伐か、珍しい品の納品が一番。というわけですね?」
「ええ、といって、依頼が出ていないものは相場でしか買い取れませんので」
珍しい品でも、倉庫の肥やしになるしかない可能性もあるわけか・・・。難しいな。
「質問はございますか?」
「物品を街の商人に直接売りつけるのもありですか?」
「もちろん、そうしてくださって構いません。ですが、何かを持ってきて欲しい。という話は気を付けてください。ギルドで依頼。として請け負った分は既にこちらで報酬をこちらに預からせていただいているので問題はありませんが、直接交渉になると、・・・よくないこともありますので」
言いよどんだ。と、いうことは既にあったのだろう。話すか迷ったのは理由はわからないが。まぁ、しなければいいだけの話だし。
とりあえずの説明は受けて、部屋を出る。
依頼を張り付けた掲示板は自分がいた時よりも人が引いている。いくつかの依頼内容が記された紙じゃなくて羊皮紙か?パピルスなら知っているが、違うからたぶん羊皮紙なんだろう・・・。魔導書物はパピルスだったと思うが・・・。もっと確認しておくべきだった。
「・・・おい、嬢ちゃん、お前さんみたいなのが来るところじゃねぇぞう?」
ふむ、依頼内容が翻訳されて見えるのは十全だな。
「聞こえてんのか?」
肩を掴まれたので、反射的に蹴りを放つ。
「うおっ!!!」
肩を掴んだ男はかろうじで蹴りを防ぐ。
「ふん!」
男がこちらを確認する前に距離を詰め、掌底を叩き込む。
「なろっ」
「おいおい!ガキ相手に芝居がうまいなっ!」「嬢ちゃんにやられんなよ!」「おいおい朝っぱらから喧嘩すんなよっ」
ギルド内の軽食?コーナーは観客席となり、男どもがヤジを飛ばす。
「ああ、すまない、急に触れられたので、つい、怪我はないか?」
「ふざけんなっボケェ!」
男は腰の片手斧に手をかける。
「止めなさい、ギルド内で争う場合は資格剥奪ですよ?」
先ほどの受付のお姉さんが割り込んでくる。
「そいつが先に手を出したんだぜ?」
「いきなり人の背後から肩に手を掛けるからでしょう?」
「おいおい、嬢ちゃん、そっちが討伐依頼書なんて読んでるから忠告してやろうと思っただけだぜ?」
「悪いが、嬢ちゃんではないからな」
「・・・ウソだろ?」
「悪いが男だ」
「おいおい、男のくせに髪飾りかよ、なよっちいなぁ?えぇ?」「男のフリしたいんだろ、もしくはナメられるとでも思ってんじゃねぇの~?」
外野が五月蠅いので、腰の魔杖短剣を見せる。
「悪いな、魔法要素のための装備だ。そんなこともわからない程低レベルの人間どもか?」
「・・・一人で四本の魔杖剣だと?」「扱えるわけがない」「最低でも奴は四属性の魔法が使えるのか?」「英雄クラスじゃねぇか」
「・・・四種類使えるだけですごいのか?」
「同時に四種類使えるならばです。・・・魔法師でしたよね?」
「ええ」
「お使いになられる属性は?」
「得意なのは風ですよ?」
「他の属性や種類は?」
「・・・何故、ここで自分の情報を晒す必要があるのですか?」
「失礼、好奇心のあまり・・・」
頭を下げるお姉さん。
「いえ、こちらこそ、すいません言い方が悪くて」
「ふん、気が抜けた、帰る」
「おい、仕事どうするんだよ!」「知らん、てめぇらでやれっ!」
数人の男が去った男を追い、出ていく。
「すいません、彼らはここらでは高ランクのパーティなので」
「いえ、こちらこそ、無用な争いをしてしまい・・・依頼を受けても大丈夫でしょうか?」
「構いませんよ」
幾つかの候補の中から、一つ選ぶ。
依頼の内容は「数日前から、森の様子がおかしく、人の気配がするので原因の調査」
お姉さんにはオススメ出来ないといわれたが、これを受ける事にした。
オススメ出来ない理由としては、「調査」の名目だが実際には「討伐」になりそうだな依頼だかららしい。報酬は「調査」と「討伐」では全然違うからだ。
「調査」は原因を調べて、解決出来ないと報酬が支払えない。もし、魔物が巣を作っていたらその排除も含まれる。排除した後に調査から討伐に変更するように依頼人に言ったとしても、変わることがないし、報酬も追加で払われる事がないからだ。
村としては問題を解決したいが、もし、大規模な討伐を依頼すればそれだけ金がかかる。討伐ならそれなりの戦闘もしなければならず、討伐した際の魔物の所有は討伐者になる。すなわち村から支払われる報酬+討伐対象で儲ける事が出来るが、村としては不測の事態の脅威が去るだけで、一銭の得にもなるどころか、マイナスになる。
しかし、調査名目で出せば、討伐に比べて、安くすみ、なおかつ、調査対象も原因究明の為に、村の所有になる。つまり、害獣が現れたら安く討伐してもらえて、さらに害獣も自分たちの物に出来る。村にしてみればわざわざ討伐で出すより、調査で出して知らんぷりして討伐させる。という。
なので、ベテランはこの手の依頼を無視して、新人などが引っかかり、大けがをして引退。最悪、村が魔物の餌になる。なんてことも普通らしい。まぁ、村人全員食べつくす。なんてことはないから全滅はほとんどないらしいが。「討伐」程の報酬が出せない理由で「調査」で出すしかないらしい。
「調査」でも対象を討伐者に渡せばいいと思うのがだ、村にしてみれば急に周辺に魔物が増えた理由も知らなければならない。とか言って村の物だと言い張ることも出来るので、敬遠されると。
「さて、お仕事しますか」
シーナ「次回予告!調査の名目でとある村を訪れるアーヤちゃん!調査した先に見つかったのは伝説の防具・聖女のローブ!舞え!踊」
アーヤ「調査内容に不審人物ってあるだろっ!」
シーナ「不審人物から剥ぎ取る?」
アーヤ「普通に強盗じゃないですかソレ」




