閑話・王国の勇者
斧の勇者、工藤修護は迷っていた。やる気のない人間がいればそれだけで集団の能力は下がる。ラグビー部の部長として部を見ていた彼の認識からすれば、魔王討伐に意欲を出さない杖の勇者は出来るだけ遠ざけておきたい存在だった。自分自身もやりたいかやりたくないか問われればやりたくはない。という選択肢を選ぶだろうが、やらなければ死んでしまう以上。やる。という選択肢しか選べなかった。
しかし、やらない。という選択肢を選ぶことも決断がいるのだと。死んでもいい。という。杖の勇者、霧崎綾人の意志に少なからず気概を感じてもいた。
「選択肢がないように見えて、実は自分自身で選べないと思いこんでいただけなのかもしれない」
夜の帳に包まれた森はいかんせん視界が悪い。クレアから時間を稼いで欲しい。と言われなくとも、時間を稼ぐつもりであった。既に国王から国に入り込んだ人間のスパイの話は聞いている。おそらく奴らは国の保護から離れた杖の勇者を国に引き込むために行動するだろうということも。既に国王の中では決めていても、貴族の声を聞かなければならない以上、勇者に判断を任せるとして、事実上杖の勇者だけではなく、全ての勇者に自由に決めていいと密かに言われている。しかし、ここで生きると決めた以上世界の存亡にかかわるのなら力を振るうことも決めていた。
戦闘に関する知識、技術など、欠片も持ち得ていないため、力任せに斧を振るう。見た目ほど重くはないが手になじむ斧は思い通りの線を描き、木々をなぎ倒しながらスパイたちの精神にし死の恐怖を植え付ける。
「死神というものは、大鎌を持った骸骨だと思っていたが・・・」
鎌の勇者、間宮楓を見て、自分はまだまだだなとひとりごちる。
「はぁぁ」
一閃。大鎌を器用に操り、木々など障害物にもならないと身を翻す。鎌なんて死神見たいで嫌だわー。と最初こそ不満を漏らしていたが、使ってみると自分にあっていることが理解できた。
全身を使い相手を懐へおびき寄せる。スパイ達は狩られてかなわないと、距離を開けるが、大鎌には愉快な機構が仕込まれていた。柄が伸びる。初見殺し。事前情報がなければ間合いを測ったと油断したところに本来届かないはずの距離で攻撃を受ける。仮に回避、防御が出来たとしても、精神的な衝撃はすぐには拭い去れない。
「あら、残念、今のは確実に当たると思ったのだけど・・・?」
笑いかける楓の笑みにスパイたちは背筋を凍らせる。
「私は楯で攻撃手段がないからって、不用意に近寄ると危険ですよ?」
「いや、それ、攻撃する前に言うべきでしょ?」
楯の勇者、時雨由紀。彼女の楯は攻撃を跳ね返す。という手段で攻撃している。受動的な方法だが、相手を引き付ければ楯でも殴れると、意外と好戦的に物事を進めている。
「・・・ここにいると女子力と縁遠くなりそうよね」
「楓ちゃんはそんなんだから好きな人にも振り向いてもらえないんだよ?」
「ひ、酷い、親友が、異世界にきてまで酷い」
「そんなんだからあの魔法召喚士さんに綾人さんとられちゃったわけだし」
「大丈夫、ダイジョウブ。まだ、挽回のチャンスは、ある」
「どこに?」
「トドメ刺しにキター?」
「お前ら、ちゃんと警戒してくれよ・・・?」
適当に木々を切りさいたら、スパイたちはかなりの距離をとってこちらを伺っている。距離を詰めようとすれば逃げられるし、一定の距離を保っている。
「・・・脅しすぎたか?もしくは、こちらの魔法が切れるのを待っているのか?」
「毒はやばそうですけど、・・・あ、メイドさんから受け取った解毒薬、綾人さんに使えたんじゃ・・・?」
「「!」」
二人そろって顔をそらす。
「・・・まぁ、魔法召喚士さんがどうにか助けてくれますよね!私たちは、私たちのするべきことをしましょう」
「まぁ、時間稼ぎもこちらにとっては好都合だしな・・・」
弓、杖、以外の勇者で二班に分かれて行動している。書、槍、剣で弓の回収。斧、楯、鎌で杖の回収。が目的だったが、作戦は修正せざるおえない。杖は召喚師と国から出ていった。召喚師が出たのは痛手だが、勇者に備わっている加護で能力は全体的に向上していることを考えれば召喚師は足手まといになる可能性もあるため、戦力から外れたのは杖だけといえるだろう。
「こ、この人、達が、スパイ・・・?」
斧、楯、鎌を囲んでいた人間たちのさらに外側から魔導書の勇者、黒野百合が魔導書を片手に既に魔法を展開。
『影よ、縛れ、敵を、縛れ、何人たりとも、影から逃れること能わず』
使役者の足元を中心にし、魔法陣が拡大される。魔法陣に触れた影がスパイたちを拘束する。
「ありがとー、ゆりっちー」
「う、うん、さ最初に、よ、予想した、ととと通りだから」
「弓の方はどうなってる?」
「ふ、二人が、は運んでる」
「そか、杖はこの国から出ていったし、一段落か」
「い、いったんだ・・・」
さて、七人の勇者がいるわけだが、国民はどう思うのかね・・・?兵士たちにスパイを引き渡してから勇者たちはそれぞれ与えられた部屋に戻っていった。
*
「で、なんでここに?」
場所は妖精の森。妖精たちの家にクレアは、アラクネのレイラと言葉を交わしていた。
「ごめん、レイラ勇者たちの動向を聞きたくて」
「どうかしたの?」
「勇者の召喚に成功して気を失うまでは覚えているんだけど、その途中が分からなくて」
「杖の勇者が帰りたいって言いだしたから弓の勇者がキレて杖をボコろうとして返り討ちにされたの」
「簡潔すぎてわからない!?なんで勇者が勇者ボコるの?」
「知らないわよ、自分で聞きなさいよ」
「・・・私は国王に言い寄られてるから・・・」
「マジ?」
「宮廷魔術師になっ」
「そっちの意味か!」
「そっちってどっち?」
「何でもない。続けて」
-しばらく脱線しながらようやく現状を理解するクレア-
「うん、わかった。とりあえずは、杖の勇者の帰還方法を探すのが優先かな、学院の図書室探せば転移の魔法に関係した情報あるし大丈夫だと思う」
「そ、じゃ、私寝るから、寝させて?」
有無を言わさずに部屋からクレアを追い出し、眠りにつく。
「・・・弓の勇者が怖くないといいなぁ・・・」
そんなことを呟きながら、研究室に戻る。




