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第1話「王国王城1・勇者召喚」

 人間はいつ死んでもおかしくない。

 道を歩くだけで0.2%の確率で死ぬ。

 誰かが言っていた。幼馴染か、先輩か、親友と呼べる友人だったか。

 幸運をつかみ取るためには顔を上げ、前を向き、自らの手でつかみ取らなければならい。

 しかし、不幸は、当然のように、降りかかる。


「こぉぉぉぉぉぉ!」

 肺に空気を溜めながら気が付いた時にはすでに動き出していた。

 持っていたカバン、友人と分け合いながら食べていたクレープを捨て、走り出していた。

 背後から友人達の声が上がるが何を言っているか判別できない。

 踏切を押しのけ、線路に侵入。

 目指す先には、子供。

 常識を無視して前傾姿勢で駆け抜ける。

 子供を拾い上げ、勢いを殺さずに抜けようとするが、残念ながら鈍ってしまった体では無理だった。


 迷いは一瞬、線路に入ろうとし、周りに止められている女性にむけて、子供をほうる。

 年齢的には4,5歳くらいだろうか?

 怪我しなければいいなと思いながら、電車に轢かれて死ぬ。

 と、いう、人生で一度きりしか試せないような死を受け入れることにし、目を閉じた。


 ・・・ああ、借りたゲームとか、全部返したよね・・・?

 まぁ、部屋から持っていってくれるだろう。幼馴染もいるし。そこら辺はキッチリしてくれると信じて。



 来るべき衝撃に少しでも痛くしないほうで死なせて欲しいなと思っていたが、

 衝撃は来なかった。

 耳を打つ歓声。

 疑問をもち、目を開ける。時刻は昼前か、昼過ぎだろうか・・・?太陽が少し傾いた位置にいる。

「・・・ここ、どこだ・・・?」

 体を起こし、周りを確認。

 コロッセオというのがしっくりくる。楕円形の観客席に、土で踏み固められただけの場、そして、その中心に自分はいる。

 自分以外に7名学生服を着た人間が、白い枠線内・・・。

『召喚陣』

 ・・・白い枠線を見てみたら、頭に文字が浮かんできた。

「召喚陣って何だ・・・?」

 周りの人間を見てみる。

 白い装束に包んだ女性たちがこちらを見ている。

 とりあえず、一番近くにいて、こちらを見ながら立っている女性に話しかけようと立ち上がりかけたが、女性が覆いかぶさってきた。

「どうし・・・?」

「ご、めん、な、さ・・・」

「どうした?・・・おい!おいっ!しっかりしろ、意識を・・・!」

 よみがえる、死の恐怖。

 慌てて手首をつかみ、脈を確認。

 胸に耳を当てて鼓動も確認。

 少し弱いが、生きてはいる。しかし、不吉な結果しか思い浮かばない。

「・・・状況も理解できないが、・・・そもそも、言葉が通じるか・・・?」

 観客席にいる人間は総じて日本人には見えない。

 そもそも、髪が黒くても、日本人以外では言葉がうまく伝わるかも怪しい。

 周りにいる白装束の女たちも似たような状況だと、役にはたたない。

「誰か!人が倒れたんだ、救急・・・あるのか・・・?・・・おちつけ」

 深呼吸。

「医術に関する知識を持っている奴はいないのか!?」

 大声で叫ぶ。

 効果があるかわからない。

 そこへ、鎧を着た人間が2人近づいてきた。おそらくは兵士だろう。

「すいません、勇者様方、少し遅れて」

 言葉を遮り、女性の容体を告げる。

「唐突にこの女性が倒れた。原因はわからない。脈は少し弱いが」

「ああ、大丈夫ですよ勇者様、魔力枯渇でしょう」

 兵士のほうはあっけらかんとして、慌てる様子もない。

「魔力、枯渇・・・?」

「はい、ここにいる女性は全員召喚魔法師です。おそらくはその魔法師は魔力が少なかったのでしょう」

 ・・・魔力、召喚魔法師、魔力が少ない・・・。

「・・・ええと、魔力枯渇の場合、どうすればいいのですか?」

「寝れば回復しますよ。そこにおいておいて構いません」

 ・・・どうしよう、こいつは好きになれないタイプだ。

 人間を物扱いするような人間とはできるだけ距離を置きたい。

 ため息を吐くが、解決策が自分にはない。

 いきなり闘技場の真ん中でこれだもんな。

「勇者様がた、国王のもとへ案内いたします。ついてきてください」

 兵士がほかの学生を起こしている間にほかの召喚師とやらに声をかける。

「すいま」

「ひっ」

 女性たちは、身を縮めて慌てて逃げていく。

 ・・・いや、この女性介抱してほしいって言いたかっただけなのに・・・。

 他の女性も同様に目が合うだけで逃げていく。

 さすがにここまで逃げられるとヘコむんだが・・・。確かにイケメンじゃないが・・・。

 安静に寝かせるのが得策だが、ここに寝かせても誰もベッドまで運ぶとは思えないし、連れて行こう。タイミングをみて抜け出せればいいのだが。

「・・・勇者様、何をしておられるのでしょうか?」

 お姫様抱っこで女性を抱き上げ、兵士についていこうしたが、兵士に止められた。

「どこか、横になれる場所に寝かせないと。地面に置き去りは無責任では?」

「勝手な行動は困ります!私は国王陛下に、勇者様方を連れてくるように命じられたのです!」

「でしたら、医務室の前を通っていただくだけで構いませんよ?」

「それでは、困るのです!」

「・・・何が、困るのか、説明を求めても?」

 苛立ちを隠すのを躊躇う。

「国王陛下に速やかに連れてくるように命じられています、余計なことは控えてください」

「・・・余計なこととは、何か理解できるように、おっしゃっていただけますか・・・?」

 いや、確かに下心ありますよ。ごめんの意味聞いてないし。唯一逃げなかったし。逃げられなかっただけかもしれないけど。

 それを差し引いても、兵士の行動はおかしい。

 召喚陣。というのがあるわけだから、召喚魔法師が召喚したのだろう。国にとって召喚魔法師は有益な人間だと思うのだが。

「それらは平民の召喚師です、ろくな魔法知識もなく、ただ、ただ、召喚魔法が扱えるだけの存在です」

「だからぞんざいに扱うと?」

「そこに置いておけば、誰かが回収しますよ!」

「誰かが、ということは、誰もしない。という可能性もありますよね?」

「勇者様!」

「お待ちください、勇者様」

 闘技場の出口側から女性が入ってきた。

 銀の髪をアップにし、少しばかりたれ目、どことなくおっとりした雰囲気をまとっている。比べて、体は強烈に女性と主張している。青いドレスをまとい、胸はかなり大きい、腰のラインは細く、スカートは土で汚れないためか少し短い。まぁ、靴がブーツだからそう思ったのだけど・・・。

 後ろにメイドが2人。女性に比べれば劣るが大半の人間が美人というだろう。

 兵士もそれなりのイケメンだし、美男美女率高い。

「その召喚師殿をどこへ連れていくつもりでしょうか?」

 兵士が口を開こうとしたが、止められる。

 質問の対象者は自分ですか。とりあえず、片膝ついてみる。騎士の作法とか知らんのでこれで勘弁してくれると助かるな。

「怪我をしているのではないかと思い、治療できる場所まで運ばせて欲しいと提案したのですが、断られまして」

「・・・わかりました。シーリン。陛下に怪我の治療のために遅れると伝えなさい」

「かしこまりました」

 片方のメイドが兵士と会話し、兵士を国王のもとへ行く列に加わる。兵士はこちらを睨んでいるが無視。

「さぁ、勇者様。部屋へ案内いたしますわ」

「感謝します」


 青いドレスの人に連れられて兵士たちと別の道を行く。兵士に命令できるし、メイド2人を連れているわけだし、階級でいえば上の方の人間なんだろうけど。

 なるべくキョロキョロしないようにしながら後をついていく。でも珍しいので仕方がないとソワソワした気持ちに蓋が出来ない。

「あれ・・・?」

「どうかなさいましたか?」

 メイドが振り返り、こちらの顔をキッツイまなざしで睨む。

 何か怒らすようなことしましたかね・・・?

「あ、え、え、と・・・そこの花壇で光を反射しているものがあるので何かなぁ~?と」

「まさか、刺客・・・!」

 いうが早いがメイドはスカートの中からナイフ2本を取り出して光に近寄る。

 いや、刺客て・・・。

 メイドが光のもとへナイフを突きかけて止めた。

「・・・どうかしましたか?」

 はたから見れば花壇にナイフを向ける危ない人だな。よく見て花を採取だが、ナイフ2本はないわ。

「妖精だ」

「は?」

「妖精が・・・誰がこんな酷い事を・・・!」

 メイドの怒りに反応して、青ドレスの彼女も唇をきつく噛みしめる。

 妖精の状態は酷い。

 殴られたのであろう顔や腕が痣だらけ。腕は本来ならば稼働領域を超えた方へ曲がっている。服?は千切れ、ところどころ破れ、赤く染まっている。

 中でも酷いのが、羽。

 おそらく何もしていなければ美しく陽光を浴び光を反射していたのだろうが、今は血で赤黒く染まり、羽には無数の穴があけられている。

 これでは飛ぶことすらままならない。

 青の女性が唐突に胸元を開き、そこに妖精を押し込む。

 少しばかり妖精の苦しそうな声が聞こえたが・・・。生きていたことに安堵を覚えながら酷い事をする奴がいるのだと、黒い感情があふれ出てくる。

「姫!?」

「・・・傷を負ったものを見捨てるわけにはいきません」

「ですが、姫が」

「あなたの服に隠すスペースがありますか?胸元にも武器が仕込んであるでしょう?スカートの内側に吊り下げるのですか?」

「・・・すいません」

「いいのです、あなたが私の為に全力を尽くしてくれているのですから」

「ありがたき、お言葉です」

「よろしい、勇者様も、」

「ええ、決して口にしません」

 食い気味で肯定する。それよりも懸念があるからだ。

「早く離れましょう、妖精を傷つけた奴に気づかれる前に」

「・・ええ」

 なるべく迅速にでも、妖精に負担を与えないようにと姫は歩いている。

「貴様、姫様の胸を凝視すると」

「妖精がつぶれないかと思いまして」

「卑猥な・・・!」

「静かに」

「「すいません」

 コントも少なく客室にたどり着く。

「勇者様、召喚師殿はベッドの方へ、ミリア、お湯と布、妖精が着れるような何かと、隠すものをお願いするわ」

「はい、直ちに」

 姫は言うが早いが、妖精を胸元から出して、テーブルに寝かせる。

「あら、私の着替えをいうのを忘れてしまいましたわ」

「え?」

 姫様の声に反応して姫様を見てしまう。

 ドレスの胸元が血で汚れている。

『ヒーリング』

 姫様が魔法を使うとすぐに脳内に魔法の解析が頭に入ってくる。召喚陣の時もそうだつたが、何故か魔法らしきものを見るとそれが見える。内部構造といえばいいのか、魔法の効果が解かる。チートといえばいいのだろうか?それとも、勇者はすべからく魔法が解かるのだろうか・・・?

 これが勇者の効果とか言われたらかなり嫌なんだが・・・。

 ・・・『ヒーリング』上位回復魔法。

 効果は、傷の結合のみ。

 姫のヒーリングでは、妖精の傷は治っても、失われた血や、穴というか乱雑に千切れている羽まではもとに戻らない。

 上級なのに傷をふさぐしかないとかおかしくないか・・・?

「姫様、質問をよろしいでしょうか?」

「構いませんよ」

「ヒーリング以外の回復魔法は使えないのですか?再生や、活性化といった効果のある魔法ですが」

「リザレクやリグロースの事でしょうか?」

「それはどういう魔法ですが?」

「リザレクは死者を復活させる魔法ですが、すでに失われています。リグロースは木々の・・・」

『リグロース』下位再生魔法。

 効果は木々の成長促進。

「いや、妖精に効果あるのかな・・・?」

「・・・っ、ありませんわね」

 いや妖精って木々じゃないよねドライアドとかマンドレイクとかなら効きそうだけど・・・。いたらいたで厄介だな。

 引き抜くと恐慌状態付与してくるマンドレイク。

 木々に宿ってイケメンを捕食するドライアド。

 魔法にはつきものの存在だけど。

 妖精に手のひらをかざし、思考する。

 必要なのは細胞の活性化。そして再生。それが起これば、羽も修復される、ハズ。

 ゆっくりと、魔法が使えますようにと祈りながら

『ヒーリング』

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