来るべき時(3)
*
そうだ…
私はあの時から剣術を習おうと思ったんだわ
多分、あの青年は キア・マクタガート…
何故忘れていたかと言うと、恥ずかしんだからだ。人を殺した人を綺麗なんて言うなんて自分はどうかしていると。
勝手に心の深く深く底に鍵を掛けて閉じた
でも、剣術を習いたいという思いはどうしても消えなかったの
単純に『剣術を私は習いたいんだ』とその時も勝手に今思えば言い聞かせていたようにも思える。
私と大臣達とお父様は門をくぐり”西の牢の中”へと入って行った。
脱走者がいないように門をくぐると、建物を囲むようにたくさんの壁が並んでいた。
私…キア・マクタガートに会ったらどうすればいいの。まさか、思っていなかった。
私の憧れてしまった人だなんて。
ぼーっとしながら、お父様達に着いていくと
建物の中に入るみたいだった。
これも、分厚い木の扉で重そうだったがこれは耳鳴りもなくカタンと音をたてて勝手に開いた
すると、扉が開くと中にに1人の紺色の長い髪の毛を垂らした、メガネをかけた女の人が立っていた。瞳の色は灰色だ。
牢の番人をしているのか、女性にしては珍しい黒いパンツ姿だった。
「ようこそ。国王陛下。
わざわざおいで頂き誠に有難う御座います
私はポーラ・バドコックと申します
これからキア・マクタガートの牢まで私が案内致します」
堅苦しく彼女は言い、ぺこりと頭を下げた
でも緊張しているようには見えず、慣れているような雰囲気に私には見えた
「よろしく頼みます。バドコック」
とお父様がポーラさんに言うと、ポーラさんは少し微笑み
「では、私についてきてください」
とポーラさんは私達を案内し始めた
建物の中に入ると、空気が冷やっとしていて中も暗かった。まるで洞窟にはいってしまった気分。なんでだろうと辺りを見回すと窓が無いということに気づいた。
服役中の人が脱走しないようにってこと…?
壁は一面灰色のレンガがむき出してで、
空気が悪かった。灯りが灯っているのだが灯りがないとまるで、悪魔の城の中だわ
なんだか、服役中の方が可哀想だわ。
もう少し綺麗にしてもいいのに…
私、もし女王になったら真っ先にここを綺麗にしてあげたいわ。
ポーラさんはどんどん同じような廊下を歩いて行ったので、私はお父様や大臣達に遅れないように黙々と歩いた。
ゴドフィンがいたら置いていかれるなぁとぼんやりと考えているとそのうち壁だったところに、ドアが付き始めた。
木のドアで強固な太い南京錠がかかっていて
丁度顔が出るくらいの位置から、木のドアは木の板から黒い鉄格子に変わっている。
その格子からは、受刑者が私達を睨むように
覗いているのを何度か見た
リコラ王国には、遺伝でたくさんの色の瞳を持つ人が住んでるけどその人達の瞳は皆真っ黒に見えた。
受刑者の牢だったのね……
悪い事をすると、瞳が真っ黒に染まってしまうのかしら…
キア・マクタガートのあの綺麗と思った紅色の瞳も今は漆黒の色に染まってしまっているの??
それは、ほんの少し寂しいかもしれない。
と私は薄暗い道を歩きながら思った
*
「此処です」
その言葉とともにポーラさんは、…いや前の大臣達がいきなり止まった。
道の1番奥の突き当たりに今まで見てきた扉のどれより広い扉の前だった。
扉は、他の扉と同じ形だったけど幅が大きかった。
ポーラさんは、ポケットから鍵を取り出してキア・マクタガートがいる牢の鍵をガチャガチャと音を立てながら開け始めた。
その時私は、少し心配になった。キアの牢にこれだけの人数が入れるとは思えないわ
10数人いるのに。
それにこの建物に入る前には耳鳴りなどの仕掛けがあるのに何故牢には何もないで鍵で開けられるの??私だったら牢に入る前の扉にも仕掛けを作るわ…
すると、ポーラさんは
扉を開けずにドアノブに手をかけて
「では、皆さんこれから私の精魂をドアノブに流します。危ないのでほんの少し後ろに下がってください。」
…精魂……??
すると、大臣達は何も言わずにいきなり下がってきたので私も慌てて後ろに下がった。
精魂って何…?
私はつま先立ちをして、大臣達の頭にかぶらないようにポーラさんが何をするかしっかりと見ようとした。
すると、いきなり黄色い閃光が辺りに走った
え、なんですの…?
そう思うと、ジュワッと音を立ててその閃光の光が一気にドアノブを持っているポーラさんの手に宿った。
まるで、流れ星がポーラさんの手に溶けたように見えた
手に宿るとその光は段々と色が薄くなり、最後は透明になって淡く消えた。
な、何が起きたの…?
まるで私の氷の能力と同じよう。人間には使えない能力をこの人も持っているの…?
……でも、もしその”使えない能力”なら大臣たちが黙って下がるわけないし。
もしかしてこの精魂って意外と一般的なのかしら?
私が悩んでいると、ドアが一人でにギギギと音を立てて開きはじめた
私は息を飲んでじっと開くドアの中を見つめた。
中には、一人の男が薄汚れたベッドの上に座って本を読んでいた。
ここが牢屋なの……??
広いわ。さっき見てきた受刑者の牢よりは比べられないほど大きい。
ベッドがあって小さい本棚と机がある。
男は手首に手枷と重りをつけられていたが、気にしてないように黙々と本を読んでいた。
この人がキア・マクタガート…?
「コホンッ」
とポーラさんが咳払いをすると、キアが頭を上げた。…黒髪に、あの夜見た時と変わらない整った顔。そうしてキアは部屋の前にたくさんの人がいるから驚いたように
「わお」
と呟いた。
割と低めの声だった。そして、瞳の色は
まだ紅色の瞳をしていた。
私はすごく安心した。
紅色の瞳はルビーのようだった。よかった、キア・マクタガートまだ染まってないわ。
「国王陛下が来ると先ほども伝えましたよね?何故、本などを読んでいるのですか…」
とため息をつきながらポーラはキアのそばに近づいた
「呆れんなよ。ポーラ。
俺だって暇なんだよ…毎日毎日毎日毎日……
いいだろ。読書くらい。他の連中みたいに騒ぎやしないし、自殺しようとも今のところ考えてないし」
「貴方まで、あの輩達と同じになってしまったら、私の仕事が増えてしまいます」
「分かった、 本は片付ける。
…でもお前の精魂はどーにかした方がいい。また中まで少しピリッときた」
キアは、思っていたより饒舌だった。
ポーラさんとは仲が良さそうだ
それに、精魂のことをキアも知ってる…?
……やっぱり一般的なものなのかしら。
「じゃあ、私は出て行くから陛下の質問によく答えるように。」
とポーラさんはキアを諭すように言った
「…この人数が入るのか?」
とポーラさんを見てから私たちを見た。
私達は今だ部屋の前で立っているから。
でも、私の姿が見えているかは謎だ。だって大臣達の1番後ろにいて、最初は気にしてくれていたが『シャーロット様は後ろがいい』となってしまっているようで、誰も気にしてくれない。
「では、陛下は入ってください。後は精魂が大きい人から五人まで入ってください。残りの方は待ちでよろしくお願いします。」
とポーラさんは言った
え、私 精魂なんて知らないわ!
せっかくキア・マクタガートに会えたのに
能力のことも聞けると思ったのに。
冗談じゃないわ
でも、やっぱり一つ分かった事がある
精魂は一般的なものなんだわ。
それに人によって大きさが違うのかしら
…どうにかして入らなくちゃ。
すると、お父様が
「私の娘もいるのだが、その子も精魂比べをしなくてはならないのか?」
とポーラさんに聞いてくれた。
流石!お父様ですわ!!
すると、ポーラさんは私を探すように背伸びをして、やっと私を見つけたように目が合った。ポーラさんはうーーんと悩んで
「ここの部屋キア・マクタガートも私もけろっとしてますが、一応、精魂対圧が流れてます。もし、王女さまが精魂を使えるのなら入れますが、
使えなければたぶん気分が悪くなると思います…」
私は堪らなくなって
「精魂対圧とはどんなものなんですか??」
と聞いてしまった。
すると、ポーラさんは真面目な顔で
「精魂を使えない人はこの圧があるところに行くと 居心地が悪くなったり気分が悪くなったりしてしまいます。
精魂を使えない心が闇に囚われた受刑者に浴びせると、徐々に改心して行くのでここでは使っていますが
精魂を使える受刑者には特になにも起こりませんね」
…えっとつまり、精魂を使えないとキアの部屋には入れない。ということでいいのかしら。
精魂ってそもそもなんなのかしら
「王女さまは精魂を使えますか??」
とポーラさんは私に聞いてきた
その顔はいたって真面目で、私の気分が悪くなることに心配してるみたいだった。
私は、少し迷ったけど
多少の気持ち悪さなら我慢しようと瞬時に思い
「…つ、使えますわ!!」
と嘘を言うと、言葉に少しつかえたのにポーラさんは安堵の方が勝ったのか何も疑いもせず私を手招きして、ドアの前へと案内した。
隣のお父様は、眉毛をピクリとあげて私をじっと見てきた。
まるで『本当に使えるのか??』と言っているよう。いや、ちがう精魂を自分に内緒で取得したと思われているんだ。
怒られちゃいそう…それは勘弁ですわ。
気持ち悪くなったらすぐでましょ。そしたらお父様は使えなかったと思ってくれるだろうし。
大臣達は精魂を使えない人が多いらしくすぐに四人が決まった。
「では、陛下から順に一人ずつ部屋に入ってください。残りの方は後ほど聞かれた方からお話の方を伺ってください。」
お父様が先頭で牢に入ると、大臣達もつられて部屋に入り出した。だけど、私の前の1人の大臣が足を入れた瞬間に
「…んぐっ……」
と大臣は声を出して立ち止まり慌てて後ろへと逃げた。一瞬のことだったので振り返ると大臣は、壁に体重を預けながら表情はとても青白かった。
「上手く、精魂を使えなかったのですね。
大丈夫です すぐよくなります。
王女様、ではお入り下さい」
と言ってポーラさんは私を促す
どうしよう…
『気持ち悪かったら外に出ましょう』と思っていたのに、こんなにすぐに反応が出ちゃうなんて。せっかくキア・マクタガートに会えたのに話も聞けないなんて。
そんなの、絶対嫌だわ!
「どうしましたか?王女様」
「…いえ、大丈夫ですわ。」
…こうなったら、一か八か入ってみましょう
もしかしたら、気持ち悪くならないかもしれないわ。
そう思って、私は部屋の中に足を踏み入れた
「…!?」
足を踏み入れた瞬間
なにか見えない粘着質なもので身体を覆われている気分になった。
それなのに、ポーラさんの手でドアは閉められた。
まとわりついてくる。首が苦しい。
これが精魂対圧なの…?
そう思いながらゆっくりと部屋の中に入ると目の前には、キア・マクタガートが私の気持ちを見透かしたように意地悪く笑っているように見えた。
このままじゃ、まともに話が聞けないどころかこのまとわりついてるモノで、殺されてしまいそう。息ができない…
精魂って何…?
私の能力とは違うものなの?
は!…私の能力でどうにかならないかしら。
そう、ゴドフィンの剣を凍らせた時のように
このまとわりついているものを凍らせることってできないかしら。
「シャーロット、大丈夫か?」
と1番端にいるお父様が私に話しかけてくれた。
「だ、大丈夫です、わ…へいき」
どうせ、対圧は見えないんだし凍らせても大丈夫よ。きっと。
そう思いながら自分の身体に手を重ねて目を瞑った。
ゆっくりと想像するの。
圧が氷になるように氷になるスピード、形、硬さ。そしていつもこの能力を使うとき頭に出てくるのは
お母様が好きだった、白い紫陽花の花。
白く美しく、綺麗な花。
この花の名前はなんだったかしら……
身体についてる圧が氷になった気がした
少し、圧が重くなり冷たいものが身体中に触れている。
『割れろ』
そう念じると冷たい見えない氷の圧は首や身体から、聞こえない破裂音をたてながら花火のように次々と割れて行った。
「はぁー!スッキリしたわ」
と思わず手を上に上げ伸びをしながら圧がもうかかってないので、大きく息を吸いながら
言ってしまうと
大臣や、お父様がいかにも『何をしているんだ』という変な顔をしていたので
「コホンッ…失礼致しました」
と慌てて謝ると変な顔をしたままキア・マクタガートと喋っていたのかまた喋りつづけるお父様、キア・マクタガートと喋っていたのね。あの変な圧のせいで、最初から話を聞けなかったじゃないっ
…まぁ、いいわ 圧もとれて自由に息をすえるようになったんだから、仕方ないわ
「貴方は、三年前九人もの人間を殺した時
”吸血鬼はこいつらだ”と言っていたようだがそれはどういう意味か教えてくれるか?」
とお父様は、キア・マクタガートの真紅色の瞳を見ながら聞いた
「どういう意味も何もアレは本当の事だ
……それに、俺が殺したのは8人だ。」
「…本当の事ということは、その殺した人達は吸血鬼ということか? なにより、死体は九個あったがどういうことだ?」
とお父様がキアに詰め寄ると
キアは真紅色の瞳でお父様を睨んだ
それからため息を吐いてから
「…九体の死体のうちの一体は俺の幼馴染だ……吸血鬼達に殺されたんだ。
吸血鬼研究者の親父が死んで俺しか研究者になれる奴がいないことをいいことに、幼馴染諸共 俺を消そうと思ったんだな」
キアの目がほんの少し他の受刑者達のように
黒く染まってしまったように見えた
幼馴染その言葉に引っかかった
…!!まさか。
『何故、エミリアを殺した。何故…』
あの夜のキアの声が頭の中に響いた
”エミリア”さんが、吸血鬼に殺された幼馴染…!?