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twins  作者: そら
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彼(彼女)らの『日常』

昼休みの鐘が鳴り、多くの生徒が弁当を取り出し、仲のいい友達同士でグループを作って食べ始めているか、財布を持って売店に向かっているかのどちらかだ。

そんな中、ツンツン頭の少年―――慎司のみが盛大に腹を鳴らしながらも、なんの動きも見せず、机にへばり付いていた。


「慎司。また、弁当を忘れたのか?」

「うるせぇ、柚稀。同情するならその弁当を半分寄越せ」


眼鏡をかけた人の良さそうな笑みを浮かべる慎司の友人・柚稀は小さく笑うものの、分けてあげようという気配はない。

逆に、自慢するかのように弁当を慎司の前に広げ始めた。

柚稀は運動神経もよく、成績が優秀な事から、周囲が認める優等生だ。しかも、優しげな風貌と性格から、嫌味なくらい大変よくモテる。

しかし、中身は真っ黒だと慎司は思う。

柚稀が「あ」と小さく言葉を漏らした。しかし、朝から何も食べておらず、しかも遅刻し、朝から全速力で走ったという事もあり、空腹が最高頂まで達し慎司はそれに気付かない。

目の前にある、綺麗に盛られた柚稀の弁当を奪おうか、と本気で思い始めた時、慎司は後頭部に強い衝撃を受け、痛みに悶えながら後ろを振り向く。

すると、予想通りの人物がそこにいた。


「やっぱりお前か、沙代!」


自分と似たような顔立ちをした双子の妹・沙代が武器らしき分厚い辞書を持って、そこに立っていた。

肩にかかってた長い黒髪を振り払い、彼女は自分と同じ澄んだ蒼の瞳をスッと細めた。


「角じゃないだけでも有り難く思いなさい」


どうやら、叩くのに使った部分は表紙だったらしい。

できればどこも使わず、辞書の機能だけを使い続けてほしいのだが。

そんな少しずれた、どうでもいい事を考えながら慎司は沙代の様子に首を捻った。


「何そんなに怒ってんだよ」


そう言った瞬間、どこからか、ブチッと何かが切れる音がした。


「・・・へぇ、分からないの・・・」


地を這うような声で沙代が呟く。視界の端で柚稀がまだ食べ終わっていない弁当を片付け、その場を離れようとしているのが見える。

あ、嫌な予感がする。

身構えようとした時、それは来た。


「あんたが毎日毎日寝坊する事に怒ってんのよっ!!」


辞書の角という殺人兵器が。

投げられた辞書は(角が)慎司の顔に見事に当たる。


「なに、あんた。私を怒らすためにわざとやっての!? あんたに付き合ってるせいで担任には変に心配されるし、友達は面白がるし、皆勤は狙えなくなっちゃうし!」


一番最後の言葉が沙代が怒る、一番のポイントだろうと傍観者になっている柚稀は思う。

沙代は柚稀の目から見ても優等生の部類に入るだろう。目立った事(双子の兄に対する事以外)もせず、平々凡々に高校生活を満喫している。

一方、兄である慎司は沙代とは正反対で問題児、という程ではないが、クラスのお騒がせ者、お調子者だといえる。

そんな正反対な二人の言い合いは、正直見ていて面白い。

慎司に 『腹黒』 と称される少年は止める事もせず、二人から離れた場所で安全を確保しつつ、再び食べかけの弁当を開けた。



*



三神慎司と沙代は双子だ。

二人は七年前―――つまり、二人が九歳であった、ちょうどこの日に孤児院の敷地内にある雑木林で倒れているところを発見・保護された。

奇怪な事に二人は九歳以前の記憶がない。しかし、自身の名とお互いが血の繋がった双子という事は覚えているのだ。

それらの内容が書かれた一枚の紙に一通り目を通した青年は息を吐いた。

自分の足元にある、孤児院と雑木林を見る。

上空の風にたなびく青年の深黒の神父服は真昼間の青空の下ではかなり目立つ。

青年は遠くから聞こえてきた話声の方に目を向けると、紙に貼られた写真と同一人物と思われる少年と少女がそこにいた。

自身の肩まである赤髪をがむしゃらにかき、盛大に息を吐いた。


「あー、面倒臭ぇ」


そして、青だけが広がる西の空を見て、呟いた。


「明日からは嵐、ね・・・」


めんどくせぇ。

その言葉は、一際強い風によってかき消された。

風が吹き終わる頃には、その青年の姿はどこにもなかった。



*



慎司はふと上を見上げた。

目に入るのはどこまでも広がる青い空。

遮るものは何一つなく、あるのは青だけで統一された空。


「? 何見てんのよ」


一人での下校中、いきなり声をかけられ、驚いて後ろを振り向くと、沙代が不思議そうに自分を見ていた。


「あれ、沙代。委員会は?」

「いつもより早めに終わったのよ」


なんだか新入生は特にいらない、って感じだったけど、と苦笑して付け加えた。


「それより、何上見ながらボーっと突っ立ってんの?」

「なんかあった気がしただけ。なんでもねぇよ」

「ふーん。―――それより、これからあんたのプレゼント買ってくるけど、あんたは?」

「いや、俺はもうおまえの買ってるし、いい。・・・・てか、俺のプレゼント買うのに俺を誘うなよ」

「それもそうね。で、これからどうすんの」


慎司と沙代は九歳の時、孤児院に拾われた。そして、拾われたその日が二人の誕生日になった。

そして七年が過ぎ、今日、慎司と沙代の二人は十六歳の誕生日を迎える。

孤児院はその中で暮らす子供達が誕生日を迎える度にパーティーを催してくれる。きっと今、院の中は自分達のための準備で大忙しだろう。その中に今日の主役である二人がいては邪魔になるだけだ。

沙代はその事について言っているのだろう。


「んー、その辺で暇を潰すとする」


この辺りは特に遊び場という遊び場、といった場所もなく、ぶらぶらとその辺りを歩くだけになると思うが。


「そ。じゃあ、私はそろそろ行くわ。ちゃんと時間には帰ってきなさいよ。遅刻魔さん」

「わーてるって。おまえは俺の保護者か」


一応自分が兄なので、沙代の言葉に少し悲しくなる。

沙代と別れ、慎司は特にあてもなく歩き始めた。



*



日が落ち始め、院の敷地内にある雑木林に陰がおりる。

昼間は木が多くあるという事もあり近所でも人気な癒しスポット&子供の遊び場だが、夜になると不気味さと恐怖しか感じないホラースポットに変化する。

その中を十歳にも満たない少女が帰り道を急いでいた。

その手には小ぶりだが、色とりどりの花があった。

少女は今日、誕生日を迎える大好きな兄と姉のために林の中にある小さな花畑で花を摘んでいたのだが、摘むのに夢中になりすぎて、手元がよく見えなくなったと思い、顔をあげて、やっと辺りが暗くなっている事に気がついたのだ。

息を切らしながら、少女には少し広く感じる林の中を走りぬける。いつもなら暗く、不気味な林に恐怖を感じ、足が震えて走る事がままならないが、兄と姉の喜ぶ顔を思い浮かべると、早く渡したいという気持ちが湧き、それを打ち消してくれる。

もう少しで院に着くという時、少女はふと足を止めた。

木と木の間から見える、純白のマントを着た男。

普段、この林は近所の人でも楽しめるよう、一般開放している。だが、夜になると危険という事で、日が落ち始める頃には立ち入り禁止になっている。もちろん、それは院で暮らす子供達も同じだ。

辺りはどう見ても暗く、しかも今は日が短い冬なので、この林はとっくに閉まっていてもおかしくない。

少女は怪しいと思いながらも、おそるおそる口を開いた。


「おじさん、もう出ないとダメだよ?」


その声で男は初めて少女の存在に気付いたのか、ゆっくりと後ろを振り向く。

その口元は、いい物を見つけたと言わんばかりに笑っていた。



双子のためのパーティーの準備が終盤にさしかかった頃、孤児院で働く一人の女性が花を摘みに行ってくると言って出て行った少女が未だに戻っていない事に気付いた。



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