序章 『夢』
雷とともに吹き荒れる嵐の中、幼い二人の少年と少女が闇が支配する森の中を走る。
辺りは光る雷の光でしか確かめることができない、進むのすら困難な状況だが、足を止めることなんて、できない。冷たい雨が幼い身体に叩きつけるように降り注ぎ、容赦なく二人の体温を奪っていき、意識が朦朧とし始めてもだ。
闇の中と精神的疲労により時間感覚が薄れ、もうどれくらい走ったか分からなくなった頃、雨によってぬかるんだ地面に足をとられ、少女が転倒した。
「さよ!」
それに気づいた少年が少女のもとに戻ろうとした、その時。
甲高い不気味な笑い声が森の中に響き渡った。
二人の顔からサッと血の気が引き、恐怖で身体が震えあがる。
「さ~て! 『かくれんぼ』が終わったら、次は『鬼ごっこ』かぁ。坊や達はどこまでボクを楽しませてくれるかなぁ?」
一歩、また一歩と、吹き荒れる嵐の中でも聞き取れる足音が近づいてくる。近づいてくる度に動悸が早くなり、浅い呼吸をただひたすら繰り返す。
早く、早く、
逃げないと、
少しでも、遠くに、
でも、どうして、
―――動かないの?
二人は動かない。いや、動けない。体温の低下や今まで走り続けたことで体力消耗しているというのは勿論、何より段々と、そして着実に近づいてくる死の恐怖によって、だ。
そして、『奴』は二人を見つけ、ニィと口角を上げる。
「見ィつけた」
子供がおもちゃを見つけた時のような、そんな無邪気な声で、『奴』は言った。
だが、その恐怖の言葉は二人の耳には届かない。
二人は『奴』が両手に持っている『何か』を見て、目を見開き、硬直した。
「・・・う、そ・・・だ」
少年は震える唇でそう紡ぐ。
信じられない、といった様子で何度もその言葉を呟き、目の前にある『それら』を否定する。
ありえない、ありえないありえないありえない。
『それら』がここにあるはずがない。あっていいはずがない。『それら』はそこにあっていいはずのものではない。
二人の様子が変わったこと事に気づき、『奴』は不思議そうに首を傾げる。
そして、二人の目線が自分が両手に持っている『それら』に集中していることに気づき、「ああ」と呟き、『それら』を自分の胸の高さまで持ち上げる。
「これ? そんなに欲しいならあげるよ」
『奴』は乱暴にそれを投げ、一方が少年の足元に、もう一方が倒れている少女の目の前に落ちる。
不確かだったことが、確かなことになった。
「うそだぁぁぁぁぁぁ!!」
少年は勢いよく起き上がる。そして、自分の傍にいた少女と見事に額がぶつかった。
しばらくの間、言葉にならない激痛に両者が悶える。
「・・・・・・・・・ぃ」
「い?」
「痛いじゃないの!馬鹿慎司!せっかく、人が起こしに来てあげたのに、いきなり何すんのよ!」
「うるせぇ、沙代!そもそもなんでおまえがここに・・・・って、今、なんて?」
「だーかーら、起こしに来たって言ってんのよ」
ピシッと固まる慎司を呆れた目で見つめる。
「・・・沙代さん、今何時でしょうか?」
「学校が始まるまで残り二十分ジャスト」
ここから学校までは約十五分で着く。走ったら、十分程度だ。
つまり。
「あと十分しかねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!」
慎司の絶叫が院内に響き渡った。
この小説は、過去に投稿していた長編です。
長い間放置していましたが、私自身の生活が落ち着き始めたので、手直しをしつつ再投稿していきたいと思います。
よろしくお願いしますm(__)m