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地底人

「ちょっと、来い」


 私に腕を掴まれ、無理やり地下鉄から引き摺り下ろされた青年は不服そうな顔で舌打ちした。


「いったい、どうし……」


 そっと秘密警察証を見せる。彼は目を吊り上げながらも、促されるまま黙って警備室について来た。


「あんたらは俺がぎりぎり車内に駆け込んだくらいで、連行するのか?」


 勧められた席につくと、彼はぼさぼさの髪をかき上げて私を睨みつけた。


「ここ数年、地底人の侵略に脅かされている事は君も知っているな」


「やっぱり」


 青年はため息をついた。


「私のセンサーが作動した」


 私の脳には地底人センサーとして働く感応型微生物が寄生している。

 彼らは相手の意識下に地底人としての自覚があればそれに反応して私の脳に警戒信号を伝えるのだ。

 私達は地表を守るためという義務感でそれらの寄生を受け入れているが、仲間の中には意思を持つ彼らとの共生に耐えられず命を絶った者もいる。


「法律でもセンサーが作動した場合には尋問が認められている」


「そりゃま、正論だけど。でも、100%の正診率じゃないし」


 今にも弁護士を呼び出そうといわんばかりの雰囲気だ。

 相棒が今、虹彩データーで彼の身元を確認中だ。結果が出るまでなんとか彼を引き止めておかなければ。


「地底人によるテロがこの地下鉄で計画されているらしい」


「ま、さもありそうな話だね」


「我々も手をこまねいている訳にはいかないんだ」


「で、俺を捕まえて急場をしのごうってのか」


 容疑者は口を歪めた。


「どこに行くつもりだった」


「有楽町まで」


「一区間だろう。なんで歩かない」


「ばか言え面倒くさいよ」


 しばらく沈黙が続く。


「何か飲むか」


 男は下腹部を押さえた。


「腹具合が悪いんだ。便所に行かせろ」


「地底人の容疑が晴れれば、行かせてやる」


 男は目をむいた。


「おっさん思考回路が変だぜ」


 彼の照会を頼んでいた同僚が室内に入って来ると黙って首を横に振った。

 シロか。

 それならば、なぜセンサーが作動したのだ。


「いい加減、帰らせろよ。もう、夜だん」


 その一言で、私は凍りついた。

 脳内に寄生しているこいつらはド外れた悪戯好き、駄洒落好きなのだ。

 彼らに翻弄されて、悪ふざけに疲れ果て何人もの人間が離脱したか。


「お、お前は『ちていじん』じゃなくて、もしや会話ごとに必ず地名を織り込むという……」


「落とし前は、きっちりつけてもらうぜ」


 冤罪事件は後がうるさい。思わず声が震える。


「謝罪金は、は、はずませてもらう」


「じゃあ、ま、いっか」


『地名人』の若者はふん、と鼻をならすと椅子を蹴って警備室を出て行った。



※作者付記:いったい→(タイ)ぎりぎり車内→(ギリシャ)やっぱり→(パリ)正論→(セイロン)さもありそう→(サモア)急場→(キューバ)言え面倒→(イエメン)腹具合→(パラグアイ:苦しい!)回路→(カイロ)夜だん→(ヨルダン)きっちり→(チリ)じゃあ、ま、いっか→(ジャマイカ) ええい、こっぱずかしいぞ解説!


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