看板屋
「看板屋さん、近くを通った船がみな止まるくらい派手でセクシーな看板にしてね」
看板屋じゃなくて、空間デザイナーなんだよ。何度訂正してもこの姉ちゃんには無駄らしい。
黙ってうなずくと宇宙空間投影用の機材を持ち上げた。ちらりと依頼主の方を向くと期待に目を潤ませている。
それにしてもその格好、営業中でもないのに少し露出が過ぎないか。それとも俺にサービスしているつもりなのか。
「不動産屋に騙されてこんな辺境の小惑星をつかまされちゃって」
唇を突き出して、彼女は俺に愚痴をこぼし始めた。
「ミカ、自分の店を持ったら、お客さんにはいっぱいサービスしてあげようって思ってたのに。誰もこの店に気がついてくれないのよね」
ミカがソファの埃を手で散らすたびに胸が揺れる。
「ここに人を集めるのは無理じゃないか?」
「あたしこの仕事って好きなんだ、やめたくないんだよ」
彼女のまん丸な瞳がちょっと寂しそうに見えた。
「あんた、腕っこきの看板屋って聞いたからさ」
だから、何度言えば…。その言葉は飲み込んだ。
「どんな客だって大切にするって言ったな」
「そりゃ、めいっぱい」
「少しサービスしといたから。今の言葉忘れるんじゃないぞ」
あれから二年たつ。
ローカルラインに船の針路を取ると星々を背に俺の作った「看板」が浮き上がってくる。
ミカの店 誰でも歓迎。サービス満点。
ポップな女性の姿、カクテルと花のデザイン。
彼女の依頼には反するが、少し落ち着いた感じでまとめた。
ミカから来たメールを読み返してみる。
看板屋さん、ありがとね。
最初思ってたのとは違うけど、今のような店も結構いいなって思ってる。
要望が多いので今度はホストの募集も出すつもり。看板屋さんも仕事に飽きたら雇ってあげるよ。
環境の良い辺境星に多い、老人ホームの夜空に定期的に写るように複数の方向に設定をしておいたのが功を奏したようだ。
さすがにホームの横に風俗店は併設できないらしくホームのレジャーとしてエアバスで定期的に来る団体もいるとメールには書いてあった。
送ってくれた画像には店の中でキスマークをつけたじいちゃんや、セクシーポーズをとるばあちゃんに囲まれた彼女が写っている。みんな生き生きして楽しそうだ。でも、ミカの服装はなんだか安っぽい。
「儲かってないんじゃないか。あんまり金取ってないんだろ」
ディスプレイの中の彼女は、それでもいいじゃないとばかり豪快に笑っていた。