World.7 宍戸
とてつもなく遅くなりました。
7話です。
ちなみに、題名の読み方は『ししど』です。
Side/晴輝
目の前を拳が通りすぎる。
拳によって巻き起こされた風が、前髪を揺らした。
「こんの!」
体勢を崩しながら、拳の主に蹴りを仕掛ける。
蹴りの主…………加賀峰羽矢はその蹴りを軽くいなし、微笑を浮かべる。
何をしているか?
加賀峰の能力の秘密を知るための勝負。
俺が勝ったら、加賀峰の能力を教えてもらう。
その約束をしたのが、昨日。
「そんなものか? それでは、私の能力は教えられないな」
「うるせぇよ。まだまだに決まってんだろ!」
叫びながら、右拳を突き出す。
余裕をもって、加賀峰はそれを避ける。
すかさず左でアッパー。
正面から受け止められる。
「うわっ!」
止められた腕を支点に、体ごと投げ飛ばされる。
背中から床にたたき付けられ、肺の中の空気が一気に吐き出される。
仰向けに倒れる俺の首元に、加賀峰の拳が突き付けられる。
「勝負あり、だな」
「………………くそっ」
「落ち込むな。中々に良い動きだったぞ」
拳を引きながら、加賀峰が笑う。
ゆっくりと起き上がり、加賀峰を見る。
「なんだ? もう一度だ、とか言いたそうな目だな」
「悪いかよ」
「残念ながら、挑戦は一日一回までだ。これに集中しているほどの暇はないからな」
そう言って、加賀峰は部屋を出て行った。
わかってる。
今は『クリスタル』を探し出して、破壊するのが優先される。
けど………………
「悔しいな…………」
呟いて、顔を伏せた。
Side/羽矢
「悔しいな…………」
部屋を出た後に聞こえてきた、甲田の声。
聞くつもりはなかったが、聞けたのは幸いだな。
「大丈夫だ、甲田。その気持ちがあれば、お前はいくらでも強くなれる。それこそ、私なんかとは比べようもなくな」
中に聞こえないように呟いて、廊下を歩き出す。
「っしゃあ! とにかく訓練だ、訓練!」
背中の方から、そんな声が聞こえてきた………………
Side/双
遅いなぁ………………晴輝さん。
また明日って、言ってたのに…………
歌川は、いつもと同じように、部屋の中央で膝を抱えて座っていた。
「やっぱり、私のことなんて…………」
どうでも、よかったのかな…………
そんな考えが頭をよぎった、その時。
バタン!
扉が開け放たれる音がした。
「ハァ…………ハァ………………スマン、歌川! 遅くなった!」
扉の方を見ると、晴輝さんが息を切らせて立っていた。
Side/晴輝
「ハァ、ハァ………………」
ヤバい、訓練に熱中し過ぎた…………
もう8時回っちまった。
歌川、まだ待っててくれっかな…………?
「スマン、歌川! 遅くなった!」
扉を開ける。
歌川は、昨日と同じように膝を抱えて座っていた。
「えー………………と、待ったか?」
「………………」
黙って首を振る歌川。
良かった………………
「ゴメンな、訓練に熱中し過ぎて時間見んの忘れてた…………」
「……………………怪我」
俺の右腕を見ながら、歌川が呟く。
そこには、大きめな湿布が貼ってあった。
「ああ、ちょっと打ち付けただけだ。心配には及ばねぇよ」
本当は少し痛いが、気にする程じゃない。
歌川の方を見てみると、右手を少し上げて手招きしていた。
………………なんだろう。
「………………………………えい」
「痛ぁ!?」
湿布を貼っている部分をいきなり指で突かれた。
いってぇ…………
「な、何すん……」
「…………クスクス」
笑っていた。
歌川が、笑っていた。
今まで無表情だった歌川が、笑っていた。
「(まあ、今までって言っても話したのは昨日が初めてだけどな………………)」
でも、加賀峰の言い方から推測すると、珍しい方なんだろうなぁ…………
………………そういえば、記憶を無くしてすぐの頃は、俺も全然笑わなかったな……
「(その辺りも、関係………………ないか。歌川が俺の過去を知ってるはずないし)」
気にしても仕方ないか。
こんなの、答えの無い問いでしかない。
結局この日は、時間が遅かったのもあって、早めに切り上げて部屋に戻ることになった。
明日の訓練のために、体も休めておかなきゃならないしな。
「明日からはもう少し早めに来るからな」
そう言って、俺は部屋を出る。
出る直前、歌川がこちらに向かって手を振ってくれていた。
まだ少ししか経っていないけど、割と心を開いてくれているのか?
それなら嬉しいけど……
そんなことを考えながら、廊下を歩いていく。
「明日はどんな訓練をするかな…………」
早く前線にいかなきゃ…………
…………そういえば。
この戦いが終わったら、俺はあの星に、地球に帰る。
多分そうなるんだろう。
けど、その後『白ウサギ』の人達は?
俺の能力以外では、奴らの核を見ることはできない。
俺がいなくなったら、『アリス』との戦いはかなりきつくなるんじゃ…………?
この戦いはあくまで、『クリスタル』を破壊する戦いであって、『アリス』を倒す戦いじゃないんだ。
『クリスタル』を破壊できても、まだ被害に遭う星はあるだろう。
…………………………考えておかなきゃな。
勝った後の事も。
「まあ、まずはこの戦いだ」
勝てなきゃ意味が無いからな。
勝ってから考えよう。
そのためには………………訓練だな。
早く休んで、明日の訓練に備えよう。
自室の扉を開け、ベッドに体を沈める。
疲れは溜まっていたが、色々と考えていたため、全然眠りにつくことはできなかった。
「……………………で、一睡もできないわけだ」
充血しきった目を開いて時計を見る。
…………もう4時か。
訓練、行かなきゃな。
「キツイな………………」
こんな状態で訓練なんてして大丈夫かな………………?
また怪我とかしなきゃ良いけど。
「でも、やるしかないか」
まだ眠いけど………………
時間ねぇし、のんびりはしてられない。
「よっ………………と」
訓練室の扉を開け放つ。
…………………………ん?
「………………ほう。この時間に訓練をしようとする奴がいるとはな」
訓練室の中央に、大柄な男が立っていた。
ん? あんなガタイの良い奴、挨拶回りの時にいたか?
「………………見ない顔だな。新入りか?」
男が歩み寄りながら聞いてきた。
身長が190cmくらいか?
つーか、肩幅パネェ。
「あ、ああ。一週間前に来たばかり」
「一週間前………………ということは、地球の能力保持者か」
「能力保持者?」
「『アリス』から能力を受け取った者の総称だ。そうか、まだ一週間なら、知らなくても無理はないな」
そうなのか。
能力を持っている人にも、名前があったのか。
そういうことは先に言っておいてくれよ、加賀峰………………
「そうなのか。なら、俺も能力保持者だ。甲田晴輝だ。能力は『不可視=可視』」
「ほう。お前が………………私は宍戸強丞。能力は『人体=獣』だ」
男----------宍戸が言う。
それはそうと、さっきからずっと上見てるから首痛い………………(ちなみに俺は身長170cmくらい)
「そういえば、お前は訓練のために来たのだろう? もし良ければ、手合わせを願いたい」
「手合わせって………………俺、まだ来たばっかりっすよ?」
「構わん。まあ、お前が良いのであれば、という話だが」
うーむ……………………
確かに、対人戦ができるのはありがたいが…………
「………………じゃあ、やりますか」
「よし。では、やろうか」
お互いに頷き、部屋の両隅へ。
訓練室での、最長距離状態で向き合う。
「はじめ!」
宍戸の合図で、同時に駆け出した。
新キャラ登場。
メインになる予定のキャラです。
では、急いで次の執筆に入りましょうかね。