World.5 手掛かり
遅くなった上にめちゃくちゃ短いですが、5話です。
楽しんでいただければ、幸いです。
Side/晴輝
枕元の携帯がアラームを鳴らす。
上半身を起こして、携帯を開いた。
午前0時。
「さて…………と」
ベッドから降りて、着替える。
どうやって手配したのか、昨日来た時点で俺の家にあった服が一式用意されていた。
「うちに不法侵入したとしか考えられないんだがな…………」
まあ、今となっては姿形も残っていないらしいが。
通信端末------DCMと言うらしい------を持って、部屋を出る。
あの部屋までのルートは覚えたから、地図は必要ない。
「……………………っと、ここか」
少し行き過ぎそうになり、慌てて戻る。
扉を開けて入ったのは、昨日訓練に使用した、あの穴だらけの部屋だった。
「いつでも使えるって言ってたからな………………」
時間は無駄にしてられないからな。
早く始めよう。
部屋に入る扉の向かい…………制御室への扉を開く。
DCMによると、事前に設定すれば一人でも訓練ができるらしい。
設定の『Multi』を『Single』に変更する。
これで、訓練室の方から遠隔で操作できるようになるらしい。
「うし、やるか」
訓練室の中央に立ち、DCMに口を近づける。
「訓練時間10分、セーフティーオン、訓練開始」
『了解しました。では、カウントダウンを開始します。……3、……2、……1』
ビー!
と音が鳴り、四方から衝撃吸収剤の付いた棒が飛び出す。
「やってやらぁ!」
今日の訓練が、始まった。
Side/双
昨日、廊下からこっちを見てた人……………知らない人だったな…………
新しい人だったのかな?
ここにいるってことは、あの人も『被害者』なんだろうけど…………
でもあの人は………………覚悟してるみたいだった。
自分の星が、滅んでしまうかもしれないのに、迷ってなかった。
私とは違う。
逃げることしかできなかった、私とは。
Side/晴輝
『訓練終了。5分間のインターバルが入りますが、訓練を続けますか?』
現在時刻は6:00。
開始から訓練とインターバル1回ずつで1セット。
0:00から実に24セットを続けている。
汗が頬を伝い、床に落ちた。
「続ける。1分前に教えてくれ」
『了解しました。では、インターバルを開始します』
ふぅ、と一つ息を吐き、天井を見上げる。
これだけやっても、『不可視=可視』を使いこなせていない。
やはり、並大抵の努力ではダメそうだな。
その場に腰を下ろすと、背後で扉の開く音がした。
「なんだ、もういたのか」
入ってきたのは、加賀峰だった。
つかつかと音を立てながら、こちらに歩み寄ってくる。
「部屋にいなかったから、まさかとは思ったが、本当にここにいるとはな」
「あ〜、時間無いみたいだったし、なるべく早くマスターしたかったんだよ」
「良い心掛けだな。…………で、何か掴めたか?」
「全然だ。糸口すら掴めないままの6時間だったよ」
そうか、と呟き、加賀峰は少し微笑む。
「なら、少しヒントだ。昨日のうちに視縁が調べた結果だが…………お前の『不可視=可視』は『見る』というより『感じ取る』といった方が表現としては正しいらしい」
「? 良くわかんねぇな。それがなんだよ?」
「見ようとする必要はないかも、ということだ」
………………?
見えない物を見る力なのに、見ようとする必要はない?
わけわかんねぇな………………
『訓練開始1分前です。準備を開始してください』
「っと、もうか。悪い、訓練始めっから、制御室あたりにでもいてくれねぇか?」
「良いだろう。しっかりやれよ」
「ああ」
言って、加賀峰は制御室に向かう。
『カウントダウンを開始します。…………5、…………4、…………3、…………2、…………1、…………スタート!』
機械音声の直後、勢いよく飛び出す棒。
必要最小限の動きで回避できるルートを瞬時に見極め、その通りに回避する。
この方法で、なんとか避けることはできるようになってきた。
でもこれはあくまで、反射神経の域を出ない。
しばらくすれば、避け切れなくなってくる………………!
「(上から3本、左右から各2本、前からは1本、後ろは2本か。なら…………)」
左前に前転回避、すぐに左へ…………
「うぉっと!?」
回避した先に激突する棒。
ちっ、回避が間に合わなくなってきた…………!
「くそっ!」
力任せに床を蹴り、その場から離脱。
しかし、すぐに離脱先に向けて棒が射出される。
最適ルートを模索、回避………………
「!?」
飛び出そうとした瞬間、突然視界が下がる。
足の限界か………………!
午前0時から絶えず動かしていた足が、負担に耐え切れずに悲鳴を上げる。
たった5分のインターバルでは、蓄積した負担が拭い切れていなかったのだ。
後に来る衝撃を覚悟し、目を閉じた。
刹那。
真っ暗になった視界に、部屋の様子が鮮明に映し出された。
「(これは………………!)」
思考が追いつく前に、全身に衝撃が走り、気を失った……
「目が覚めると、そこは雪国」
「んなわけ無いだろう」
目が覚めて初っ端からかましてやったら、頭叩かれた。
しかもグーで。
「っ痛ぇ!?」
ってか、ガチで痛ぇ!
え、何?
さっきの棒より痛かったんだが?
「馬鹿なのか、お前は?」
しかも罵倒付き。
俺、なんかした?
「いくら時間が無いとはいえ、足が動かなくなるまでやるか? 普通」
「う………………」
それか。
まあ、確かに自分でもやり過ぎとは思ったけど。
「それで成果無しとか、もう笑うこともできんぞ」
「………………成果ならあった」
「何?」
成果と呼べるかはわからないが、確かに『見えた』。
「気を失う前、目を閉じたんだ。その時、確かに部屋の様子が『見えた』んだ」
「目を閉じた状態でか?」
「ああ。つまり、『感じ取る』ってのはそういうことだ。たとえ目を閉じていても、見ることができる。よく考えれば当たり前のことだけどな」
『見えないものを見る力』なんだから、実際に目で見ている必要はないんだ。
それに気付けたのは、一応成果と言えるだろう。
あとは今後の訓練の時にそれを踏まえてやれば………………
「良かったねぇ。でも、訓練はしばらくダメだよ」
「え?」
聞き覚えのない声が聞こえてくる。
声の主の方を向くと、そこにいたのは白衣を着た初老の男性。
俺の反応を見た加賀峰が、説明する。
「彼は福富回貴。『白ウサギ』の医療班の指揮官だ」
「はじめまして、『不可視=可視』」
「よろしくッス。で、訓練がダメってのはどういうことっすか?」
言うと、回貴は驚いたような顔をし、加賀峰は頭を押さえて溜息をついた。
何? 何があったの?
「気付いていなかったのか馬鹿者…………」
「え、何?」
本気で気付いていない様子に呆れながらも、回貴が俺の左腕を指差す。
「君の左腕、単純骨折で全治1ヶ月だよ」
「………………………………はい?」
言われて、自分の左腕を見る。
包帯に包まれ、首から下げられている左腕を。
え?
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」