World.4 タイムリミット
遅くなりましたが、4話です。
どうぞ。
Side/晴輝
おっす、甲田晴輝だ。
今はこの世界の状況を加賀峰から聞いてるところだ。
加賀峰は、まだ間に合うと言っていたけど、実のところ、そこまで時間があるわけでもないらしい。
「『アリス』は、この装置に捕らえてはいるが、自身の力を他の星に送るため、受信装置のようなものをターゲットの星に送り込む。その受信装置さえ壊してしまえば、『アリス』の力はその星には溜まらなくなる。そうすれば、復興することはできる」
「ちょっと待てよ。『アリス』の力が溜まらなくなるって言ったって、それまでに溜まった力は残ったままだろ? どうやって直すんだよ? それに、それまでに死んじまった人達は………………」
「発生源を断てば、『アリス』の力は霧散して消える。そして、解決までに死んでしまった人間についても、『アリス』の力が無くなれば蘇生は可能だ。星全体となると、かなりの時間がかかるがな」
「力が無くならなきゃいけないのか?」
「ああ。『アリス』の力には、人の治癒力を格段に下げる効果がある。その状況下で蘇生をしようとしても、推定で通常の5倍は時間がかかる。しかも、蘇生したとしても、その星は『アリス』の支配下のままだ。いつまた殺されるかわからん」
ひでぇ言いようだ………………と思ったけど、事実か。
いくら助けてもキリがないってことか。
「ちなみに、『アリス』の力が溜まるまで、あとどんくらい時間があるんだ?」
「そうだな………………視縁、どれくらいだ?」
壁際のコンピュータを操作していた視縁に、声をかける。
「そうですね……今の進行状況から見ますと………………」
キーボードを叩く視縁。
カタカタと響く音。
ウィンドウに、『37%』という数字が表示される。
「現在の進行状況は37%………………もって半年…………短ければ3ヶ月もたないでしょう」
流石に真剣な声色の視縁。
全然さっきと雰囲気が違うな…………
「3ヶ月…………そこそこあるんだな」
「そう思うか?」
「え?」
そう思うかって…………3ヶ月もあるなら、受信装置の破壊くらいできるんじゃ……
「まさかお前、受信装置の場所まで把握できてると思ってるんじゃないだろうな?」
「………………」
「沈黙…………まあ、肯定と取っておこう。だが、それは間違いだ。受信装置の場所はまだ把握できていない。つまり私たちはこれから最短で3ヶ月しかない間に、受信装置の捜索、発見、破壊までを済ませる必要がある」
「しかも、捜索はその星全土をする必要がありますです。星中をくまなく、3ヶ月以内に捜索する必要があるんですから、時間はほぼ無いも同然でしょう」
確かにそうだ。
星全体を3ヶ月で捜索………………
考えたこともない。本当に終わるのか……………?
「さらに、この状況だ。交通機関はほとんど機能しないだろう」
「…………思ってた以上に、ヤバい状態ってことか」
そうだ。と呟く加賀峰。
だったら、こうしちゃいらんねぇ…………
「さっさと探しに行かなぴゃっ!?」
部屋から出ようとしたところ、襟を加賀峰に掴まれる。
く、首が………………
「落ち着けバカ者」
「な、何すんだよ!?」
「今のお前では、出ていってもすぐに殺されるのがオチだ。まずは『不可視=可視』を使いこなせるようにしてもらわなければ」
「んあ? んなの使えるだろ。俺の力なんだからよ」
「ならば今すぐ使ってみろ」
言うやいなや、加賀峰が腕を振りかぶる。
けど、んなの避けりゃ関係ない………………
「ぐぁ!?」
使えない…………!?
加賀峰の拳の軌道が見えなかった!?
「そら見たことか。そんなに簡単にものにできる力じゃないんだよ、『アリス』の力は」
加賀峰が鼻で笑う。
なら、あの時は偶然発動しただけ…………?
「なるべくなら早く終わらせた方が良いが…………無理にやらせるわけにもいかない。『安全だが時間がかかる』方法と『危険だが時間がかからない』方法、どちらが良い?」
「………………後者だ」
「良いのか? 本気で死ぬかもしれない方法だが」
「時間が無いんだろ。さっさと終わしてやるよ」
少し驚いたような表情をする加賀峰。
だが、すぐに面白がるような表情になる。
「良いね。なら、さっさと始めよう。ついて来い」
「おう」
『アリス』の部屋を出て、加賀峰に続き廊下を歩く。
「ここだ」
加賀峰が一つの扉の前で立ち止まる。
扉を開ける。
ここは………………
「穴だらけ?」
天井と四方の壁全てに無数の穴が空いている、20m四方ぐらいありそうな巨大な部屋だ。
…………いや、今入った扉の向かいに、もう一つ扉がある。
そこには当然穴は空いてないが…………
あの穴は何なんだ?
「部屋の中央に立っていろ。私は準備をする」
そういって向かいの扉へ入って行く加賀峰。
中央に立てって………………
「この辺りか?」
「その辺りだ」
「うおぁ!?」
ひ、独り言だったのに、どこからか加賀峰の声。
うわぁ、びっくりした…………
「なにを驚いている。それより、説明するぞ。その部屋に、無数の穴が空いているだろう?」
「ああ………………」
周りを見渡す。
びっしりと空いた穴。
少し気味が悪い。
「これからその穴からお前に向けて、いくつもの矢が射出される。避けろ。以上だ」
「適当だな、おい!?」
「単純な訓練だからな。最低でも30分間避け続けられるようになれ」
30分!?
む、無理くせぇ…………
「とりあえず、お試しだ。今からお前に向けて射出されるのは、ただの棒。しかも怪我をしないように先端に衝撃吸収剤を付けてある。それを避けてみろ。時間は……………………まあ5分で良いだろう」
「………………よっしゃ、やってやろうじゃねぇか」
「では、5秒後に開始する。カウントダウンを始めるぞ」
5…………
足を開き、腰を落とす。
4…………
左右を確認、距離感を掴む。
3…………
上を確認。ジャンプする高さは十分ある。
2…………
目をつぶり、深呼吸。
1…………
『見えない物を見る感覚』を確認。
「スタートだ」
加賀峰の言葉と同時、いくつもの棒が向かってくる。
右から2本、左からは4本。
前後からは3本ずつ、上からは………………
「くっ………………!」
見てから反応したんじゃ間に合わない…………!
かと言って、全方向を把握しなきゃ他の奴に当たっちまう…………
やっぱ『不可視=可視』が使えなきゃ難しいか…………
「危ねっ!?」
なんとか第一撃を斜めに飛んで避ける…………
けど、第二撃に対応が…………!
「ぐあっ!」
右から飛んできた棒に、腰を強く打ち据えられる。
衝撃吸収剤があって、この痛み…………
本番はこれが矢になるのかよ!?
「5分、終了だ」
しばらくして、加賀峰の声とともに止まる攻撃。
「5分間で、射出数500、被弾数は124か。初めてにしてはそこそこだな。実戦では軽く50回は死んでる記録だが…………」
「なぁ、加賀峰」
息を切らしながらも、加賀峰の声を遮って話す。
「なんだ?」
「この部屋って、いつでも使えんのか?」
「………………使えるが、それがどうした」
「いや? なんでもねぇよ。それより、俺はどこで寝れば良いんだよ? あの様子じゃあ、俺の家だって安全じゃねぇだろ?」
「寝床なら用意してある。今から行ってみるか?」
「ああ」
怪訝そうな顔をした加賀峰の後ろについていく。
途中、扉が半開きの部屋があった。
ちょっとした好奇心で、覗き込む。
中にいたのは、俺より一つ二つ下くらいの年齢の、少女だった。
ボロボロの服を着て、何をするでもなく、部屋の中央に鎮座している。
「………………加賀峰、あの子は?」
「ん? …………ああ、彼女は歌川双。『白ウサギ』のメンバーの一人だが…………被害にあったのがショックだったのか、誰とも喋ろうとしないんだ。視縁でも能力が見えない程に、心を閉ざしている」
「……………………そうか」
「なんだ、興味があるのか?」
「いや、別に」
素っ気なく返すと、そうか、と加賀峰が呟き、歩き始める。
「(………………なんか見覚えあるんだよな…………あいつ)」
「どうした、置いてくぞ」
「ああ、スマン」
何なんだろうな…………
引っかかるんだけど、思い出せない……
「まあ良いか」
その内思い出すだろ。
明日の訓練に向けて、さっさと寝るか。
「ここがお前の自室になる。場所をしっかり覚えておけ。それと、机の上に通信端末を置いておいた。ここの地図も見れる優れものだ。私と視縁の番号は登録済だから、用があるときはそれで連絡しろ。以上だ」
「りょーかい。んじゃ、また明日な」
「ああ」
俺が部屋に入ると、加賀峰が扉を閉めた。
俺は例の端末を確認し、すぐにベッドに潜り込む。
疲れからか、すぐに意識は闇に沈んでいった………………