World.2 アリス
めちゃくちゃ遅くなりましたが、2話です。
どうぞ。
Side/晴輝
教室を襲った機械獣。
突然現れた女性。
何もかも、わけがわからねぇ。
「誰だよ、あんた。それに、俺が望んだってどういう事だ?」
「同時に複数のことを聞くな。私は加賀峰。『こういう現象』を専門にしてる者だ。2つ目の質問に対しては…………言った通りだと言うしかないな」
女性------加賀峰が言う。
「お前は今までの平凡な生活から脱却したかったのだろう? だから、日常を壊す事件が起こらないかと、望んでしまった」
「いや、確かに望んだけど、そんなの冗談に決まってんだろ? そんな冗談で………………」
「『奴』に冗談は通じない」
俺の言葉を遮るように、加賀峰が言った。
………………『奴』?
「『奴』ってなんだよ。まるで、この状況を作り出した奴がいるみてぇに言ってるけどよ」
「その通りだ。この世界を統べる能力を持った、非生命体。私達は、『アリス』と呼んでいる」
『アリス』………………?
結構いろんなとこで聞く響きだが…………
「今は時間がないからな。簡単に説明しておこう。『アリス』は、人の心を読み取り、その人物の『望み』を叶える。………………かなり、歪んだ方向にな」
「歪んだ方向?」
「ああ。例えるなら、『金が欲しい』という、人間なら誰しも一度は願ったことがあるであろう願い。それならば、正しい方向は『事業の成功』や『宝くじの当選』などが挙げられるだろう。逆に、歪んだ方向ならば『銀行強盗の成功』、『大規模なインフレ』などか。歪んだ方向に願いが叶えられた場合、そこに必ず、何らかの被害が出てしまう」
「つまり、『アリス』が願いを叶えると同時に、何処かに、何らかの被害が出ちまうのか…………?」
「そういうことだ。まあ今回は、願い自体が被害をもたらしたわけだが」
「……………………」
つまりは、全部俺が悪いってことか?
この状況を作ったのは、俺なのか?
「だが、『まだ間に合う』」
「何………………?」
「まだ、『アリス』の力が満ちていない。願いがまだ、完全には叶えられていない状態だ。この状況は、覆せる」
「元に戻せるのか!?」
「一応は、な」
加賀峰は、肩を竦めながら溜息をつく。
「ただ、原理を説明する時間はなさそうだな」
加賀峰が俺の後ろを指差す。
振り向いた先にいたのは、教室を襲った機械獣。
今までは様子を見ていたのか、動きを見せなかった。
だが今は、少しずつ近づいて来ている。
「とりあえず、あいつを倒すところからだな」
「いや無理だろ。普通に考えて。弱点とかねぇのかよ?」
「ある。あの機械の部品の隙間…………そこから光が漏れ出しているだろう。あれが、あの機械の『核』だ。あれを壊せば、あの機械は停止する」
言われてみれば、あの機械獣の胸の辺りが、赤く発光している。
あれが、『核』…………
「でもよ、どうやって壊せってんだよ。殴って壊せるほど、脆いもんじゃねぇだろ?」
「いや、殴って壊せるぞ?」
「マジかよ!?」
「ああ。ついでに言うなら、『核』までたどり着くのも、それほど難しくはないだろう。これは私達も何故かは掴めていないが、『アリス』は、人間の望みを叶えることを、ゲーム感覚でやっているらしい。その為、そのゲームの主人公となる人物………………つまり、その願いの持ち主は、一つ、特殊な能力を身につける。この場合は、お前だ」
「特殊能力………………?」
「そうだ。どんな能力かはわからんが、とりあえず、この状況を打破しなければどうにもならん」
確かに、こんな状況で難しい話されても、理解できる気がしないな。
「まあ、私には大体わかったがな。それは自分で探し出せ。そうしなければ、自分の物にはできない」
「………………ヒントもなし?」
「見えている物に頼るな。自分の感覚を信じろ。以上だ」
ムズッ!?
なんだそのヒント!?
「ほれ、来るぞ」
「んあ? うおぁ!?」
体を咄嗟に横に向ける。
目の前を、機械獣の爪が通りすぎた。
あ、危なっ!
「こんにゃろ…………!」
攻撃のために近づいてきた機械獣を、力任せにぶん殴る!
「…………………………っ痛ぇぇぇ!?」
ヤバい、めちゃくちゃ痛ぇ!
「当たり前だろう。機械だぞ」
「殴って壊せるって言ったのはお前だろ!?」
「それは『核』の話だ。周りは普通の機械だから、硬いだろうな」
この…………しれっと言いやがって……
さて、どうすっか………………
見た感じ、隙間から手を突っ込むのは無理そうだし、どうにかしてあの機械を剥がさなきゃならないな…………
「痛………………」
…………何だ?
今、ちょっとだけ左目が痛かったような…………
思いながら、前にいる機械獣に目を向ける。
機械獣は、目の前にいた。
その距離は、約1m程度。
「ヤベッ………………!」
避けるのは間に合わない。
咄嗟に、両手を目の前でクロスする。
だが………………
「………………?」
機械獣の爪は、俺の体を『通り抜けた』。
機械獣は、『元の場所に戻っていた』。
「なんだ? 今の………………」
呟いた直後。
『先程と全く同じ動きで』、機械獣が突っ込んでくる。
慌てて横に避ける。
今のって………………
避けた先で体を反転し、機械獣の方を向く。
再びの突進。
余裕を持って避けた。
俺の視線の先………………
そこには、先程と全く同じ位置に立つ機械獣。
直後。
機械獣は、さっきまで俺がいた、『すでに誰もいなくなっている場所』に突進した。
「まさか………………」
未来?
少しだけ先の未来を、見ることができる力?
「なるほど」
確かに、『核』までたどり着くのは、簡単そうだ。
問題は、あの『外装』だ。
隙間から光が漏れているんだから、何か細長いものがあれば、隙間を縫って『核』を破壊できるけど………………。
……………………細長い物?
確かこの辺に、掃除用具入れがあったな。
「なら、問題ねぇな」
機械獣に背を向け、走り出す。
時々後ろを確認するのも忘れない。
視界の隅に、掃除用具入れが見えた。
よし!
機械獣を警戒しつつ、扉を開ける。
取り出したのは、モップの柄。
これで勝つる…………いや、勝てる!
「来いやぁ!」
突進してくる機械獣が視界に入る。
だが、機械獣は、『まだ来ていない』。
本体は、まだその奥にいる!
「よっ………………と」
機械獣が飛びついてくる前に、その進路から外れる。
その直後。
先程までいた場所に、機械獣が着地した。
今だ………………!
「くたばれぇぇぇぇぇぇぇ!」
機械の外装、その隙間を縫って柄を突き出す!
パキィ………………ィン………………
機械獣の『核』が破壊された音が、廊下に響いた。
世界観の詳しい説明は次回!
ではではノシ