此の身さきても(二)
戦闘シーンが入っております。
残虐性は低めだと思いますが、苦手な方は飛ばして下さい。
※次話の前書きにあらすじを載せます。
その夜、織史は部屋で独り、目を覚ました。
ひどい耳鳴りと頭痛とが眠りから引き起こしたのだ。風邪で熱が出たときとも異なり、何か言い知れぬ不安が胸を覆う。嫌な気分がして、織史は身を起こした。
ここに居てはいけないような気になり、息苦しさを感じながら重い身体を立ち上がらせ、障子戸に手を掛ける。
しかし激しい頭痛に眩暈を覚え、同時に右腕を誰かに引かれるようにして、織史は右肩から倒れ込む。
その刹那。数本の矢が室内に飛び入って来た。
鋭い音を立て、寝屋の帳を貫き、畳や寝具に突き刺さる。
織史の背筋に冷たい汗が伝った。
もし、右に倒れていなかったら。
もし、起き上がっていなかったら。
もし、頭痛がしてなかったら―――――
もとより声は出ないが、織史は言葉を失った。
矢に貫かれ無惨な姿となった紗の帳に、そして忍び寄る影と足音に、心臓が早鐘のように高鳴る。自分の息遣いがやけに耳に響き、左手で口を覆う。右手は体重を支えながら、畳と着物の裾を握り締める。
相手に気取られぬよう息を殺すが、心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思うほど脈動が頭に響き、全身が震えている。
静かに音も無く障子戸が開かれる。
月明かりを背に受け、その場に立っていたのは見知らぬ一人の男。
その男は織史の姿を認めると、ニヤリと顔を歪ませた。
否、そのように見えただけで、実際の男がどのような表情をしていたのかは、逆光で判断がつき難い。加えて、男は織史と目が合った瞬間、手にしていた剣を振り上げて勢いよく下ろしていた。
織史は再び何かに引かれるように身体を反転させ、切っ先を避ける。
剣は空を切って畳と衣に突き刺さった。
――逃げないと…っ――
織史は思った。
けれどその後、自分の身体がどのように動いたのか分からない。
まるで見えない糸に絡め取られたかのように、織史の身体は動いていた。
男がもう一度振り上げようと剣を抜いた時、織史はすぐさま横に飛び退け、二撃目も寸でのところでかわす。そしてそのまま立ち上がり、開け放たれたままの障子戸から庭に掛け出る。土の感触がひやりと足を伝った。
その背後から、男の殺気が襲い掛かる。何とか避けたものの、織史の髪が数本風に舞う。男の動きが速くなっている気がした。
織史は男に向き直り、眼を見据える。
背中を向けたら斬られる。そう直感した。
周りはやけに静かで、月だけがふたりを照らしている。
肌には張り詰めた殺気と緊張感が走っている。
お互いに一歩も動かない。視線は勿論、瞬きさえもすることなく、ふたりは立っていた。
一体どれくらいそうしていたのだろう。咽が渇き、男の剣を握る手にも汗が滲む。
そして二人の間に木立を抜けた風が駆け抜けた。
まるでそれが合図であったかのように、男が剣を振り上げる。
左肩を引き、下ろされた刃を避ける。
織史の動きに男は出方を変え、今度は突き技を繰り出し始めた。
振り下ろすよりも素早いその動きに、織史は腕を振り上げたその反動を利用して一歩ずつ後ずさる。間合いを詰められてはお終いだ。
しかし石燈籠が差し迫り、いよいよ後がなくなってしまう。
反撃でもできれば良いのだが、織史自信に武術の経験は無く、その上刃物相手に丸腰で立ち会う術など安穏と生活していた者には知る由も無い。
それでもなお織史は男の剣を避け、目線を外さなかった。
瞬きさえも忘れて、切っ先を必死に読む。
だが数回避けたところで足元の小石に躓き、上手く踏み込めず、地面に倒れこんでしまう。
急いで体勢を整えようとするが、気付いた時には遅く、男の剣を振り下ろす姿だけが織史の眼に映った。
―――っ!
刹那、一迅の突風が吹き込み、二人は顔を腕で覆い、男も体制を崩した。
何が起きたのか、直ぐには理解できなかったが、ふわりと冷ややかな香りが、鼻先を掠める。
薄く瞼を開けると、目の前には蒼の衣と煌めく髪を夜風に靡かせた背があった。
「貴様、昼間の残党か?」
居丈高と問いただす声音に、剣を抜く音が重なる。
男は何も答えず、地を蹴って踏み込む。
刃のぶつかり合う音が辺りに響くが、剣を容易く跳ね返された男は後ずさった。
空気が張り詰め、先程よりも男の発する殺気が一段と強まる。
風が吹き、葉擦れの音に刀同士の弾く音が混ざり、織史の耳に届く。
斬り合う気は無いのか、目の前の影は腕こそ振るが一向に動こうとはしない。
そこへ、甲高い笛の音が響き渡った。
男の殺気は困惑へと変わり、苦渋の色を浮かべて舌打ちをすると、後方へ跳び退き柵を越えて森の中へと姿を消した。
目の前の人物はその背を見て鼻先で笑い、剣を一振りして鞘に収める。
そして振り返ると、座ったままでいる織史に向かって口を開いた。
「おい。いつまでそうしている気だ。さっさと立ち上がらぬか」
聞き覚えのある声だ。
空に浮かぶ月と同じように輝く髪も、冷ややかに見下ろす瞳も、見覚えがある。
それがどれ程強く、織史の胸に響いたことか。
呆然とした表情のまま顔を上げると、呆れ顔の龐公の姿が眼に映った。
気が付くとポロポロと大粒の涙をその瞳から流れていた。
ぎょっとして目を見張り、困惑したのは龐公である。
驚き、慌てて織史の前に屈み込み目線を合わせる。子供に限らず誰の泣き顔であっても、普段の龐公ならば嫌気の差した表情を浮かべて重い溜息を吐くような場面だが、まさか織史がこれくらいの事で涙を流すとは思いも寄らなかったらしい。先日の男達との一件を目にしているだけに、龐公はそう思っていた。
それに織史の泣き顔はどこか相手を困惑させる。龐公は涙に濡れるその頬に手を伸ばした。
「織史殿はご無事ですかっ!?」
血相を変えた霄雲の声が飛び込み、龐公はその手を引いてすぐさま立ち上がる。
織史から離れようとしたところに霄雲がやって来て、ふたりの様子を目にした霄雲は織史の傍に膝を付いた。
「織史殿、お怪我は?」
霄雲の問いに、織史は涙を流したまま首を振る。大した怪我はしていない。それは確かである。
次いで立ち去ろうとした龐公の方へ、霄雲は眉を顰める。
「龐公殿。また何か心無いことでも仰ったのですか?」
「失礼な奴だな。誰がそのようなことを言うか」
「ですが――」
霄雲の袖を引き、織史は再び首を振る。
言葉が出ない代わりに、精一杯霄雲に瞳で話す。龐公が悪い訳ではない。助けてくれたのだと。涙は一向に止まってくれず、織史自身も困っていた。
霄雲は織史の瞳から大体の事態を察したのか、龐公に向き直ると頭を下げた。
「失礼致しました。龐公殿」
「解れば良い」
踵を返して龐公は屋敷へ戻って行く。
龐公もまた、自分の取ろうとした行動に困惑していた。しかしそれを一時の心の迷いだと鼻先で笑い、自室に戻る。だが、頬に触れた指先が妙に温かかった。
織史の涙はしばらく止まらず、その上腰が抜けてしまったようで立ち上がることが出来ずに居ると、霄雲が上着の羽織を織史の肩に掛け、ふわりと抱き上げた。
驚きに目を見開くものの、霄雲の腕がとても力強く安心させ、涙が再び零れる。次第に眠気が襲い、眠っては駄目だと思いながらも、織史は霄雲の腕の中で眠ってしまっていた。
張り詰めていた気が、弛むというより切れてしまったように、織史は気を失ったのだ。
そして夢の中で、織史はあの“声”を聞いたように感じた。
翌朝、織史は人の声で目を覚ました。
薫衣が新しく設えた部屋は、前と同じく庭に面していたが、その向こうは森ではなく滝のある崖になっている。その庭で、五人ほどの青年達が話をしていた。
霄雲と同じがそれ以上の年齢と思われる青年達は、織史がここに居ることに気付いていないか、もしくはそのことを知らなかったのだろう。朝稽古を終えた後に熱気を帯びた様子で、若者らしい会話に花を咲かせ笑い合う。他愛のない会話ではあるが、それが織史の心を和ませた。内容は勿論、自分の暮らして居た世界のものとは違い、青年達の間で通じた織史には解らないものである。剣術や武術の話。街の様子についてなど様々である。そして昨夜の話題になったとき、霄雲の声が入った。
「そちらで何をしているのですか。むこうで龐公殿が招集されておりましたよ」
霄雲の言葉に若者達は慌てて走り出した。口々に「申し訳ありません」やら「失礼致します」と言いながら、足音が遠ざかって行く。
そして霄雲が一人障子戸の前に立ち止まった。
「…織史殿、起きていますか?」
少し控えめな調子で霄雲が声を掛ける。急ぎで設えられたこの部屋には、寝台と戸の間に几帳や簾のようなものは無く、戸を開くと直ぐに寝間となっていた。霄雲の態度はそれを配慮したのだろう。織史は寝具から出ると、障子戸を開けた。
「あ、すみません。もしかして起こしてしまいましたか?」
織史の姿を目にして、霄雲は頭を掻く。夜着のままである自分に気付き、織史は首を振りながら急いで単衣を羽織った。
霄雲は織史の様子に柔らかく目を細め、他愛の無い話から切り出した。
そうしているうちに、桃鈴が朝食の準備が出来たことを伝えに来て、ふたりは一度部屋を出た。食事を終えると霄雲の誘いで今度は池に面した縁側に場を移し、腰を下ろした。
「――ところで織史殿。昨晩のことですが…」
ふと、脳裏に昨夜男に刃を振られた光景が浮かぶ。同時に背筋に震えが走り、織史は袖の中で掌を握り締めた。
「辛いこととは思いますが、今一度思い出していただきたいのです。その…襲ってきた者に見覚えがあるかどうか」
――暗くて顔などはっきりとは見えなかった…。もとより刀を向けられて正視することすらできなかった――
織史はゆっくりと、確かに首を横に振る。軽く溜息を漏らし、霄雲は織史を顧みた。
「そうですか。実は先日…織史殿が眠っておられた時にも、人が訪ねて来られたのです」
重い表情で霄雲は話し始めた。それは自分が意識を失っていた五日の間に起きたことだ。
「初めは一人の老人とその妻と名乗る女性でした――…」
…――その老人と女性は、黰宮の表門にやって来た。織史が倒れた次の日の昼のことである。応答に出た門番に、二人は自分の娘がここに居ると聞いて来たから、会わせて欲しいと言った。そして数日前に突然姿を消し、行方知れずになっている娘は、黒髪に黒い瞳。口が利けないと述べた。織史のことであろうかと思った門番が通してやろうとしたところへ、霄雲が通り掛り話を聞いた。どこか違和感を覚えた霄雲が詰問すると、二人の話にちらほらと穴が見えてきて、話しが嘘であることが判明した。次に訪ねて来たのは、夫であると名乗る男であった。妻を返せと騒ぎ、終いには兵士の出る始末となった。その男も同様に、捜索人を黒い髪、黒い瞳に口が利けぬ娘だと答えている。その後も数人の女性たちが自分の妹を探していると称して訪ねて来たり、織史らしき人物を捜し求めて黰宮に訪ねて来る者が続いたりした。三日目の昼には簪を売りに来た店主と思われる男が、織史の眠る場所に近付き不審な行動をしているところを目撃され立ち去っていた。どうやら出方を変えたようで、今度は織物売りや野菜売りといった商人に成りすまし、織史に近付こうとする者が出てきていた。――…
「…――そのため、ここの人の出入りは厳重な警戒をしていたのですが、昨晩は実力行使でこられたようですね」
霄雲の瞳に鋭い光が宿る。その話を聞いていた織史も、あることに気付いていた。
――私の声が出ないことを、相手は知っていたのか…――
確かに昨夜の男も自分が騒がない…否、騒げないことを知っているかのようだった。しかし何故。
「言い難いのですが、織史殿はご自分の命が狙われる心当たりはありますか?」
霄雲の言葉に織史は首を振る。
――何故命が狙われるのか、こっちが聞きたい――
おそらく自分の声が出ないことを知っている人物が手引きをしているのだろうが、誰なのか見当もつかない。
「困りましたね……」
「本当に、困ったことでございます」
霄雲の言葉に同調するように厳しい語調の声が響いた。
振り返ると数枚の布を抱えた一人の女性が、こちらに歩み寄って来るところであった。緋色を基調にした衣を纏ったその女性は、初めの頃に薫衣と共に叶君に付いていた人物である。名を、丁字といった。
「このように何度も屋敷を壊されては、私共も困ります。叶君様も、御自分の屋敷でありながら安心して御戻りになれませぬ」
通り様に丁字は織史をチラリと見た。その視線は鋭く、冷ややかに注がれていた。
織史は唇を噛み締め、自分の行動に嫌気を感じた。
――見ず知らずの、しかも身元も判らず口も利けない自分を助けたばかりに、この家の人々は大変な迷惑を被っていたんだ…。自分の所為で…――
丁字だけでなく、他の女官たちもそう思っている筈だ。ただ優しさから、表に出さないだけだろう。
織史はやるせなさに胸を痛め、そして苦い想いに駆られる。
――いっそのこと、全てを終わらせてしまおうか――
沈鬱な面持ちの織史を目にして、霄雲が口を開く。
「織史殿。そうあまり考え込まないでください。今は一刻も早く体を治し、声を取り戻すことに専念しましょう」
その気遣いが、織史の心に凍みる。この優しさに甘えそうになる自分を叱咤し、織史は瞳を閉じた。
耳に届く木の葉の音。風が吹き抜け、時折聞こえる水飛沫の音。女官たちの歩く衣擦れと話し声。そして――
一瞬、空気をぶち抜くような音が耳に響く。
驚きに眼を開くと、大きな衝撃音と共に目の前の木が倒され…否、踏み潰された。鼓膜を震わし、軋んだ音と騒がしい葉擦れの音に紛れて、低く唸る声が聞こえ、織史は全ての時間という動きを握り潰されたように感じた。
一点を見詰めたまま、その眼はそこから離すことができない。
鋭く光りながら自分を見返す瞳。いとも容易く木を薙ぎ倒し、踏みつけている手足。恐怖心を煽る長い爪と、やすりをかけるように伝わる咆哮と共に見せた鋭い牙。
「織史殿っ!」
叫びにも似た霄雲の声が響き、それを聞くと同時に自分の体が横へ飛んだ。
地面に転がり込むように倒れる。その頭上を一迅の風が通り抜ける。まるで突風のようなそれは、目の前に現れた獣が織史目掛けてその爪を走らせたものだった。
霄雲が腕を引き寄せてくれなかったら、自分は…――脳裏に浮かんだ不吉な光景に、織史は息を呑む。
その刹那、衝撃と共に舞い立った土埃の向こうから一本の矢が飛び込んで来る。霄雲の身体を突き放すように身を後ろへ引くと、矢は二人の間を通り織史の袖を射抜いた。
それを目にした霄雲はすぐさま腰に佩いていた剣を抜く。霄雲もまた、このような事態に備えていたのである。
再び矢が放たれ、白刃がそれは撥ね返す。しかし悠長に霄雲の剣を見ているわけにもいかず、織史は背筋に悪寒を感じて振り向くと、次は上から獣の腕と鋭い爪が降りてくるところである。慌てて身を引いた織史の耳に、騒ぎを聞きつけて近付いてくる兵士達の足音が届いた。
女官たちの悲鳴に紛れて薫衣の声が聞こえる。それは確かに、自分を探しているものであった。
「織史殿――っ!」
危機感を帯びたその声がした方を向くと、髪を振り乱した薫衣と、眉を顰めた表情を見せる龐公の姿が在った。
織史は龐公の姿を目にした途端、身の中心で何かが脈打つのを感じた。正確には、龐公が手にしていたあの黒い剣が目に入った瞬間である。
そして耳に、脳内に、声が響いた。
一体何が聞こえたのか自分にも判らない。ただ聞こえた気がした次の瞬間には、織史は廂に上がり二人の元へ駆けていた。目指すは二人の姿では無く、不思議と艶めいて光る黒き剣、ただ一点。
金糸の飾り紐の下がるその柄に手を伸ばすと、驚きを見せる龐公と薫衣を尻目に、織史は振り向き様に剣を鞘から抜く。
まるで背に眼がついていたかのように、その切っ先は襲い来る獣の手を斬り落とした。
自分でも、何が起こったのか直ぐには理解できずにいたが、激痛に悲鳴を上げる咆哮が轟き、暴れ狂うその獣の腕が再び頭上に振り上げられると、織史は両手で剣を握り直し下から上へと腕ごと斬り付けていた。
織史には何故か、その様が自分の手によって起きたもの、起こされたものという気がしなかった。
自身から一歩離れた場所にある何かが、自分の身体を支配しているような感じがする。
だが同時に剣を握り締めた指先から広がる、肉と骨を斬る感触があまりにも生々しく、眼を覆いたくなる。
しかしそれさえも、自分を縛り付ける力は許さなかった。
そんな織史の心とは裏腹に、その姿を目にした者達は一瞬にして心を奪われていた。
煌めく閃光と共に黒髪が揺れ、鮮血が飛ぶ。凶々しさの中に一際強く輝きを放つ神聖さがそこにはあった。
織史は獣の首に剣を突き立て、引き抜くと吹き飛び散った血をその頬に受けながら悄然として屍の上に佇む。漆黒の双眸で天を仰ぎ、一つ大きく息を吸い込むと呼吸を整えるように瞳を閉じる。
そこへ、一本の矢が空を切った。
まるで一輪の花が風に靡くかのように、織史は身体を引く。矢はその横を掠めて、まだ柔らかい獣の体に刺さる。その刹那、織史は眼を開き矢の放たれた方向へと飛び出していた。
一体自分の体は何をするつもりなのか、織史には判らない。
それでも握り締めている柄から手が放れないように、全身が黒き剣に導かれ、木の間へ向かって突き進む。目の前から矢が飛んで来ようとも、織史の体は止まることなく駆けて行く。そして着実に、矢を放った人物を追い詰めて行った。
再び織史の眉間を目掛けて飛んで来た矢を避け、横に跳ぶ。
その足で側に立つ木を足掛かりに、敵の真上へと跳んだ。
剣を振り上げる織史の眼が、確かに弓矢を手にした男の姿を捕らえる。
同時に、自分が何をするつもりであるのかが、織史の脳裏に走る。
瞼を強く閉じながら、織史は叫んでいた。
――やめてぇーーーっ!――