里帰りしたい脳筋白雪姫vs絶対帰ってくるな継母クローディアの文通
【第一信 白雪姫より継母クローディアへ】
拝啓 お母様
お元気ですか。わたくしは元気です。森の奥で七人の小人たちと暮らしていますが、毎日が筋トレの日々です。先日は丸太を担いで山を三往復しました。小人たちが「姫、それはやりすぎだ」と言いましたが、わたくしはまだ足りません。あと百回はやりたかった
ところで、来月お城に里帰りしてもよろしいでしょうか。お母様の顔が見たいのです。あと、城の地下にある鉄製の燭台が恋しいです。あれを持ち上げると肩甲骨がよく動くのです
追伸:毒りんごはもう食べません。前回は三時間眠っただけで済みましたが、あれは筋肉の休養にはなりませんでした。やはり筋肉に必要なのはプロテインです
敬具 白雪
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【第二信 クローディアより白雪姫へ】
白雪
元気そうで何よりだ。だが里帰りは断る。理由は三つある
一つ、お前が来ると城の柱が三本折れる。前回は二本だったが、今回は三本の予感がする
二つ、お前が来ると衛兵が全員腕立て伏せをさせられる。衛兵の仕事は警備であって筋トレではない
三つ、お前が来ると鏡が「白雪の方が筋肉質だ」と言う。あの鏡、最近口が悪い。お前のせいだ
だから来るな。絶対に来るな。里帰りは許可しない
追伸:鉄の燭台はもう捨てた。あんな重いもの、城には不要だ
クローディア
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【第三信 白雪姫よりクローディアへ】
拝啓 お母様
お返事ありがとうございます。里帰りを断られてしまい、残念です。ですがわたくしは諦めません
柱が折れるのは困りますので今回は柱を持って行きます。森で良い木を見つけました。直径五十センチ、長さ十メートルの樫の木です。これを城の柱としてお土産といたします。お礼は不要です。ついでに柱を担いで行くことで、わたくしの筋トレにもなります。一石二鳥です
衛兵の方々と腕立て伏せを一緒にしたいです。警備に筋力は必須です。むしろ警備こそ筋力です
鏡が最近「白雪の方が筋肉質」と言うそうですが、それは正しい評価です。なぜならわたくしは毎日スクワットをしているからです。鏡は正直でよろしい。
追伸:鉄の燭台を捨てたと聞きましたが、もったいないです。わたくしが取りに行きます。ついでに里帰りします
敬具 白雪
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【第四信 クローディアより白雪姫へ】
白雪
やめろ。本当にやめろ。
柱を持ってくるな。樫の木十メートルを担いで城に来るな。礼は言わない。来るな。街道が潰れる。橋が悲鳴を上げる。子ども達が「姫が来たぞ」と歓声をあげる。お前の歩く振動に合わせてジャンプする。遊びだ。
前回お前が来たとき、村の広場にあった石像が二つ倒れた。お前の歩く振動でだ。石像は初代王と王妃だった。お前の先祖だ。弁償しろとは言わないが、もう来るな
衛兵と仲良くなるな。先月、お前の手紙を受け取った衛兵達が自主的に腕立て伏せを始めた。「そろそろだ」と。何がそろそろだ。今、城の衛兵は全員が筋肉質で鎧が入らないと騒いでいる
鏡のことはもういい。あの鏡はお前の味方だ。私は信じない。先日も「クローディア、お前は白雪ほど筋肉がない」と言った。私は鏡を割ろうかと思った。だが割る力もない。お前のせいで私は毎日スクワットをしている。お前のせいだ。
追伸:鉄の燭台は本当に捨てた。もうない。諦めろ
クローディア
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【第五信 白雪姫よりクローディアへ】
拝啓 お母様
お手紙を読みました。お母様がスクワットをしていると聞いて、とても嬉しいです。わたくしの影響ですね。継母と娘がともに筋肉を鍛える。なんて素晴らしい繋がりでしょう
里帰りの件ですがお母様がそこまで嫌がるなら、少しだけにします。滞在は三日だけ。持って行く樫の木は五メートルに減らします。柱は二本までにします。衛兵の腕立て伏せは百回までにします
これでどうでしょう。十分な妥協だと思います
追伸:鉄の燭台を捨てたそうですが、わたくし、同じものを森で作りました。鉄を鍛えるのも筋トレになります。お見せしますので、楽しみにしていてください
敬具 白雪
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【第六信 クローディアより白雪姫へ】
白雪
聞け。よく聞け
三日は長い。五メートルの樫の木は重い。柱二本でも多い。衛兵の腕立て伏せ百回は、先月すでに全員が百回やっている。今は二百回やっている。自主的にだ。お前の手紙のせいだ
そして何より、鉄の燭台を自分で作るな。森で鉄を鍛えるな。お前は姫だ。姫が鉄を鍛えるな。鉱山がお前の噂で持ちきりだ。「白雪姫が鉄を打っている」と。鉱山の連中が「ぜひうちで働いてほしい」と言っている。断れ。姫だぞ
里帰りは許可しない。何度でも言う。許可しない
だが、一つだけ提案がある。お前がどうしても城に来たいというなら、条件を出す。その条件を守れるなら、一日だけ許可する
条件:城に来るな
以上だ。守れ
クローディア
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【第七信 白雪姫よりクローディアへ】
拝啓 お母様
条件を読みました。「城に来るな」ですね。わかりました
では、城ではなく、城の前の広場に伺います。城には入りません。広場でお母様とお話ししたいです。ピクニックです。広場なら柱も折れませんし、衛兵も関係ありません
追伸:鉄の燭台は広場に置いていきます。お母様が城に持ち帰るかどうかは、お母様が決めてください。わたくしは届けるまでです
敬具 白雪
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【第八信 クローディアより白雪姫へ】
白雪
広場は駄目だ。広場には噴水がある。お前が来ると噴水が揺れる。前回、お前が広場を歩いたとき噴水の水が全部こぼれた。あれは市民の憩いの場だ。壊すな
そして鉄の燭台を広場に置くな。市民が「姫が鉄の燭台を置いていった」と騒ぐ。燭台は重い。私は持って帰らない。衛兵が処理に困る。衛兵はもう筋肉質で鎧が入らないのに、燭台を運ぶ力仕事までさせられる。かわいそうだ
いいか、白雪。よく聞け。私はお前に会いたくないわけではない。ただ、お前が来ると城が壊れるのだ。物理的に。前回は柱二本、石像二つ噴水一つ、そして私の心が一つ折れた。心は折れても治るが、柱は治らない。石像は弁償した。噴水は修理に三ヶ月かかった。もう嫌だ
だから、手紙で十分だ。お前の筋肉の話は手紙で聞く。それで満足する。私は満足する。頼むから、来るな
クローディア
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【第九信 白雪姫よりクローディアへ】
拝啓 お母様
お手紙を読み、考えました。お母様はわたくしに会いたくないわけではない。ただ、城が壊れるのが嫌なのですね
でしたら、城を壊さない方法を考えましょう。わたくしが城に行くのではなく、お母様が森に来てください。森なら壊れるものは木だけです。木は折れてもまた生えます。わたくしの家は小人たちが七人で建てた小さな家ですが、お母様が来るなら増築します。樫の木で柱を立てます。わたくしが担ぎます
どうでしょう。森で会いましょう。お茶を用意します。小人たちが焼いたパンもあります
追伸:鉄の燭台は森に置いておきます。お母様が来たら見せます。わたくしが打った燭台です。かなり良い出来です
敬具 白雪
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【第十信 クローディアより白雪姫へ】
白雪
私は森には行かない。森はお前のテリトリーだ。トロルもいる。何をされるかわからない。以前、森の近くまで行ったとき木の上からお前が降ってきた。お前は姫だ。姫が降ってくるな。子どもが真似をする。木の上で腕立て伏せをしていたそうだな。なぜ木の上で腕立て伏せをする。理解できん
そして、森で会うということはお前の家に行くということだ。小人七人の家だ。七人もいるところに私が行ったら、彼らは緊張する。私は継母だ。継母が来ると小人たちは「毒りんごを持ってきたのでは」と疑う。実際は持って行かないが、疑われるのは嫌だ
だから、手紙で十分だ。これ以上提案を重ねるな。私は折れない。絶対にだ。
クローディア
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【第十一信 白雪姫よりクローディアへ】
拝啓 お母様
お母様が折れないと聞いて、わたくし、ますます燃えてきました。これは筋トレと同じです。限界まで追い込むと、その先に新しい自分がいます。お母様もきっと、新しい自分に会えます
そこで最終提案です。お母様、里帰りではなくわたくしがお城の近くに家を建てます。城の外壁から百メートル離れた場所です。そこに住みます。毎日お城の前を通りますが、城には入りません。お母様が窓から手を振ってくれれば、それで十分です。柱も折れません。噴水も揺れません。石像も倒れません。お母様のお心も折れません
これならどうでしょう?
追伸:鉄の燭台は家の前に置きます。毎日磨きます。お母様が窓から見える位置に置きます
敬具 白雪
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【第十二信 クローディアより白雪姫へ】
白雪
百メートルでは近すぎる。三百メートル離れろ。いや、五百メートルだ。五百メートル離れた場所に家を建てろ。そして毎日城の前を通るな。通るなら別の道を行け。城の前の道は石畳だ。お前が歩くと石畳が沈む。前回、お前が通った後石畳が三センチ沈んだ。修繕に一週間かかった
五百メートル離れた場所に家を建て、別の道を通り鉄の燭台は家の中に置け。そして、たまに手紙をよこせ。それでいい
これが私の最終回答だ。これ以上は譲らない
クローディア
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【第十三信 白雪姫よりクローディアへ】
拝啓 お母様
最終回答、承知致しました。五百メートル離れた場所に家を建てます。別の道を通ります。鉄の燭台は家の中に置きます。手紙は毎週出します
ですが、一つだけ。お母様わたくし、お母様に会いたいのです。手紙だけでは足りないのです。五百メートル離れていても、お母様がそこにいると思うとわたくしは嬉しいのです。けれどもお会いしたい
ですから、たまにでいいので城の庭に出てきてください。わたくしは五百メートル離れた場所から手を振ります。わたくし目も良いのです。ちゃんと見ます。お母様が手を振り返してくれれば、それでわたくしは幸せです。筋肉も喜びます
追伸:家は樫の木で建てます。柱は自分で担ぎます。これも筋トレです。お母様も、もしよければスクワットを続けてください。わたくしも続けます
敬具 白雪
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【第十四信 クローディアより白雪姫へ】
白雪
わかった。そこまで言うなら、たまに庭に出てやる。月に一度だ。手を振るだけだ。筋肉はいい。お前が喜べ。それ以上は望むな
スクワットは続けている。お前のせいだ。毎日五十回。前より増えた。お前の手紙を読むたびに腹が立って、その分スクワットをする。おかげで私は最近、少しだけ体が軽い。認めたくないが、お前の影響だ
鉄の燭台、大事にしろ。お前が打ったんだろう。姫が鉄を打つなと言ったが、もう打ってしまったものは仕方がない。大切にしろ。家に飾れ。ただし、人に見せるな。姫が鉄を打ったと知られたら、王国中の姫が鉄を打ち始める。そんな時代は嫌だ
では、月に一度。庭で。手を振るだけだ
クローディア
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【第十五信 白雪姫よりクローディアへ】
拝啓 お母様
ありがとうございます。月に一度、庭で手を振ってくださるのですね。わたくし、その日のために頑張ります。困難も打破します。筋トレも今以上にします。わたくしは五百メートル離れた場所から、全力で手を振ります。お母様も、全力で振り返してください
スクワットを続けておられるそうで、嬉しいです。五十回から百回に増やしましょう。お庭で。わたくしも一緒にやります。離れていても、一緒に筋トレができるなら。なんて素晴らしい絆でしょう
鉄の燭台は家の一番良い場所に飾ります。毎日磨きます。お母様が来ることがあったら、ぜひ見てください。来ることはないと思いますが
では、来月。庭で。手を振りましょう
敬具 白雪
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【第十六信 クローディアより白雪姫へ】
白雪
最後に一つだけ言っておく
お前の手紙を読んで私は今日、スクワットを百回やった。百回だ。増やすな。お前のせいだ。そして終わった後、鏡を見た。鏡が言った。「クローディア、お前は前より筋肉がある。白雪に負けていない」と
私は鏡を割らなかった。代わりに、もう一回スクワットをした。百一回目だ
来るなと言い続けたがお前の筋肉はもう私の中にある。悔しいが、認める。お前は私の娘だ。筋肉質の、馬鹿なまっすぐな娘だ
来月、庭で待っている。手を振るだけだが、その日は少しだけ長く振るかもしれない。期待するな。少しだけだ。
クローディア
「お母様」
白雪姫は決意した
「やはり会いに参ります!」
「来るな!」




