ぼくクエ 〜夏のおもいで〜
世界は夏の日ざしにおおわれていました。おとなたちは太陽にいどむも、やぶれてしまいました。お手上げというやつです。
多くのおとなたちは、エアコンのきいたへやに封印されてしまいます。
誰もいなくなってしまった公園。
誰も通らなくなってしまった道。
このままではうつくしい日本の夏のおもいでがなくなってしまいます。
まだ諦めず、たちむかおうとする者がいました。その名は『スバル君』7歳。2-4組。大阪の下町に生まれた彼には義理と人情が生まれつきそなわっていました。
「あそびにゆこう!」
彼がそういうと、精霊のようにあつまってくる仲間たちがいました。
面倒見のいい姉『ユウカちゃん』8歳。
ビビリだけど鉄棒が得意な『トモ君』5歳。桃組。
近所のよくわからんけど仲いい『やてやん』
彼らはくる日もくる日も、暑い夏と戦いました。降参したのはトモ君です。熱すぎる鉄棒の前で降伏して帰ってしまいました。
続いて姉のユウカちゃんも、「エアコンの部屋に戻るー!」と言ってスバル君に連絡用の携帯を持たせて帰りました。
残ったスバル君は、やてやんと手を組み、太陽をやっつけようと画策しているところでした。
偶然通りがかったおばあさんがいいます。
「こんな暑いとこで何しとんの。子どもはキケンやから家かえり」
これは、外であそぼうとする2人への宣戦布告です。つまり戦闘に入ったということです。
スバル君は身構えました。
やてやんは何か考え込む様な仕草をしました。
「せやてさ、こどもは外であそぶもんとちゃうん? おばちゃんがシチョーに、もっと子どもがあそべるばしょつくってっていうべきやん!」
やてやんの【フェイント】こうげき。
おばあさんはキョトンとしている。
「ボクらは夏のおもいでがほしくて外にでたんや。おばちゃんもむかしはそういうころあったやろ?」
スバル君の【情に訴える】こうげき。
おばあさんはこんわくした顔をしている。
────ジリジリ、
夏のこうげき。
全員に大ダメージが襲いかかる!
「……わかったわ。ほら、500円。駄菓子屋でお菓子でも買ってきぃや。日陰さがして遊びや」
スバル君とやてやんの勝利!
おばあさんから500円を入手した2人は、言われたとおり駄菓子屋へ向かっていました。
道中、1つの自動販売機をみかけます。
「カフェオレや! 140えん!」
「いちごオーレや! 170えん!」
カフェオレをみていたスバル君と、いちごオーレをみていたやてやんの中で深まる30円の溝。
手持ち金は500円しかありません。
30円の差はおおきいのです。
炎天下のなか、揉めに揉めました。カフェオレかいちごオーレかをめぐる争い。噴き出る汗を拭いながら双方ゆずりません。
「スバル君もいちごオーレ飲んだらええやん! なんでこだわるん?」
「だって、カフェオレのほうがでかいしおトクやん! そっちこそ7年いじょう生きてて、なんでわからんの?」
彼らの口論をみていたおじさんが、
「最近は景気悪いんやなぁ。子どたちでさえ金がない。ひどいもんやで」
と言うので、カチンときたスバル君は、500円を自販機に入れて一番高い【冷やし飴】を2つ買いました。
「えー、なにしとるんスバル君!」
「なんかムカついたから」
「もー。こんなん飲んだらノドかわくわー!」
ふてくされたやてやんは、それでもプルタブを開けて冷やし飴を一気飲みします。
こういうのは冷たいうちにサッと飲むものです。2人は自販機の横にあったゴミ箱に空き缶を捨てて駄菓子屋へ向かいました。
「いらっしゃい」
駄菓子屋にはゆるいエアコンが効いているらしく、涼しい風が2人を出迎えてくれました。白髪のおばあちゃんが他の子らにたこせんをつくっています。
割られた1枚の長いえびせんべい。片面に薄く塗られるソースとマヨビーム。飾りの青のり。もう片面で挟めばたこせんのかんせいです。
2人は顔を合わせて(食べたい!)と強く願いました。
「おや、2枚買うにはあとちょっと足りないねぇ」
やてやんは、スバル君をチラッと見ました。
勢いで冷やし飴を2つ買ってしまい、そのせいで残金が足りないからです。
(どうしよー!)
スバル君が気まずそうにしていると、駄菓子屋のおばあちゃんは、
「あいたた、肩凝ったなぁ」
と首をひねりました。
それを見たスバル君は、おばあちゃんに、
「はいはーい! たこせんの足らんぶん、かたたたきます!」
そう提案します。
「ふふ、コリコリの肩を舐めたらアカンで?」
おばあちゃんは、意地悪そうに肩を差し出しました。
「ぐぎぎっ! かてぇー!」
「ふふふ」
おばあちゃんの肩を揉んでわかった情報があります。安いお菓子の店の情報と、明日は雨という情報でした。
「あした雨なんかぁ」
「今日は晴れててよかったわ。子どもたちがようけ来るから」
やてやんがひとこと「割引してもええねんで」と言うと、
「何言ってんの。この子にはええけど、アンタはおとなやろ。がまんしい」
とおばあちゃんに言われてしまいました。
やてやんは、子どもを見守る会の40代男性(ニート)なのでした。
◇
おばあちゃんの予言通り、次の日は雨でした。
「つまらへん」
今度はスバル君が屋内に封印されたのです。彼は心のなかで願います。
(またハレたら、みんなとあそぶぞー!)
彼の願いは必ず叶うでしょう。その連鎖が、人と人とをつなぐ大切な冒険だということ。
スバル君が気づくのは、ずっとずっとあとの話です。
おしまい




