戦場の2人
この世界は、地球と似て非なる世界です。
化学の代わりに魔法が発展し、魔法が戦術に組み込まれた世界です。
術者の体の一部を捧げて、何かしらランダムで魔法をゲットするスタイルの世界です(みんな嫌なので魔導部隊は人手不足なことが多いです)。
「なぁ、ヴァンガード伍長」
「なんです、ノスワール少尉」
「…女神様ってのは、どうにもこちらに微笑まないんだな…」
「あっちに微笑んでるんだから、仕方ないでしょうに」
さぁ、戦場で軽口を叩ける程度の余裕がある我々。
今、何をしているかと問われれば、中隊規模での陣地防衛…、のはずだった。
はずだったと、過去形で語るのは重苦しいけれど、仕方なきや。
今や、中隊規模であったはずの王国軍第101遊撃魔導中隊は壊滅に等しい。
そのくせ無線が言うには「友軍救出までしばし待たれよ」と。
ふざけんなと言う話。こちらが何日陣地防衛を、ギリ成人の女性2人でしていると思っている!?
食料はもう底をつきた。友軍が早めに我々を救出してくれたらありがたいのだが…。
「こんな陣地さっさと捨てて祖国後方で暖かい食事でもいただきたいものです」
「それは非常に同感だ。だが、上からの命令だ。死守せよ、と」
「マジで死んでどうするんですか私ら…」
「ヴァルハラ行きをすんでで止めて、本国の上層部の枕元で夜な夜なラッ◯ンでも熱唱するか」
「そりゃいいですね。私ラッ◯ン得意なんですよ」
「ラッ◯ンの得意不得意が本家以外に存在してたのか」
2人でくすくすと笑い合う。笑顔の消えた戦場ほど恐ろしいものはなし。
絶望の最中でも笑顔を絶やさない。軽口は叩けるだけ叩く。敵の対処は迅速に。希望的観測に縋ると負ける。これ鉄則。
さて、こっからどう帰還しようか。…いや、どうこの陣地とやらを防衛しようか。
私の魔法は闇だ。物質から闇というなのゲートのようなものを出して、べって移動するのだ。
隣のレイン伍長は銃火器だな。どっからでも銃火器を出せる魔法だ。本人は隠しているが、彼女はあれでも貴族の出なのである程度の資金が存在する。そのため、出せる銃火器の種類が割と豊富だ。
「なぁ、ヴァンガード伍長」
「なんです、ノスワール少尉」
「もう一度魔導無線で聞いてみてくれないか」
「…何をです?」
「…我々の撤退許可だ」
「了解です」
ヴァンガード伍長が何やら魔導無線をいじって、本拠点側と交信を試みている。
なんというか、彼女の表情と口調からして、割と芳しくないようだ。
「っざっけんな!」
どうやら、我々に助けは来ないようだ。もうわかる。彼女鬼の形相で魔導無線機ぶん投げたのだから。
「あー…。どう言う返事だった?」
「ン゛〜…。返事も何も魔導無線反応しませんよ」
「…本当に助けはないんだな?」
「ないとみていいでしょうね」
「確かに、友軍救援とは言うが、我々一向に迎え来ないからな」
もう本国終わりじゃないかな。国王陛下、一応民のために尽くしてるから好感度は高いんだけど。いかんせん政治家どもに参謀本部が振り回されてるからなぁ…。色々、現場が回っていない。多分、運ぶだけの人が辛うじていて、物流を滞りなく運ぶ技術もある。のだけど、うちには多分物資がない。確実にない。
配給される食事が全てカッチカチのパンと呼ぶには悍ましい何かであるし、缶詰も腐ってるものを散見するようになってきた。スープに浸してようやくなのに。銃剣で持って切り裂かなきゃいけなくなるんだな。今後は。
あぁ。いかんいかん。思考が飛躍しすぎるのは私の悪癖だ。
そう言う思考も束の間。
「ヴァンガード!!しゃがめ!!!」
突如として砲弾が空を切り裂きこちらへやってきた。本当にわけがわからん。わかめ。
「ご無事ですか!ノスワール少尉!!」
「あぁ…。なんとかな」
様子を伺えば、私たちの陣地より少し手前側に着弾した様子。敵軍の来る気配なし。
「…というか、なんで今更こんな陣地に大砲が?」
「誤砲でしょう。あるいは観測者が二度寝する寸前だったか」
「まったく、甚だ迷惑な隣人だ」
2人とも、次砲に備えてしゃがみながらの現状確認。2人ともかすり傷程度でどうになかったようだ。
というか、なんで我々はこの陣地防衛してるんだ?
何日も忘れられてる陣地を防衛したところでじゃないか。
「なぁ、ヴァンガード伍長」
「まんです、ノスワール少尉」
「我々、この陣地防衛する意味あるか?」
「ないんじゃないですか?何日も忘れられてるわけですし」
「そうなんだよなヴァンガード伍長! どう考えてもおかしい!今から私の都合の良い解釈について語ろう!」
「ほぉ」
「まず、多分相手はこの陣地を自分たちの陣地だと思い込んでいる。なぜならば、我々がこの陣地に投入されたとき、接敵した奴らは全員中隊長の洗脳(本当によわっちい)がかかっていたため、魔導無線ができないよう仕向けられていた(その程度のよわっちぃ魔法)! だから、敵側の増援は来なかったのだ。まぁそれでも101中隊はほぼ壊滅したわけだがな」
「中隊長、洗脳って聞くと凄そうですけど、ほんとにちょびっとだけでしたからね」
「いい中隊長だったんだがな。まぁ、それはさておき、私は考えたわけだ。 多分。前線に出張っているより、ここにいたほうがマシだ。モーニングコールが隣の宿舎が爆撃された音でないと言うのはいいことだだろうしな。で!だ。我々、本当に食糧がない。本当にない。ので、一度本部に戻りつつ食料を確保して、それからまたこの陣地に戻ろう」
「おいどうした。鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」
「…酔狂すぎませんか?後半のぶっ飛び具合がえげつなかったんですが」
「失敬な。私は酒は嗜まんクチだ。…そうじゃないな。すまん。 まぁ、仮に敵がこの陣地をもう一度確保しにきても、この陣地を知り尽くした狙撃手がこちらにはいるんだ。帰ってきた時の心配はしてないさ」
「…ン゛〜ッ…」
私は優しいので言わないが、レイン伍長は耳から赤くなるタチだ。ブルージーンの髪色によく映える照れ方をする。
「な、いいだろう?こう言う時のために指揮権はあるし、戦略的撤退という甘美な響きの言葉がある」
「…あ゛ー!!もうそれにしましょ!それでいいです!!」
普通に考えて階級は私の方が上なのだが、同じ年なのもあって彼女は砕けきった敬語で私に話しかける。それを自然と受け取れてしまうのが彼女のすごいところなのだろう。
「じゃぁ、私がいい感じに偵察してくるから、ヴァンガード伍長は銃をいつでも取り出せるようにしてほしい」
「了解です。接敵した時は容赦なく撃つ方針で」
「あぁ、それで構わない。一応、私が5分経って戻ってこなかったら…。どうしようか。そのときはヴァンガード伍長に判断を委ねるからな」
「…ノスワール少尉見てすぐ戻るんだから、本部からここまで1分ぐらいで戻ってきますもんね」
「私の魔法は存外使い勝手がいいのでな」
私の魔法。本当に使い勝手がいい。神様ありがとう。私の右目よありがとう。
「じゃ、行ってくるよ」
「すぐに戻ってくるんですよ。…行ってらっしゃい」
魔法で出した闇に片足突っ込んだところで天啓降ったものだから、レイン伍長に伝えようと思う。
「なぁ、ヴァンガード伍長」
「なんです、ノスワール少尉」
「2人で無事に本部までついたら、本部の高級将校どもカードで巻き上げようか」
「いいですね。それ。私たちを忘れた罪、思い知らせてやりましょう」
そうやって、軽口を叩いた我々は無敵である。
さぁ、我々を怒らせた高級将校どもを泣かせる旅に出よう。
お読みいただきありがとうございました!!
この作品は、お題で飛び込む新しい世界、テーマ戦記で書いたものです!
初めて戦記物に手を出したのでこれが戦記なのかどうかは疑問ですが、まぁ、いいんじゃないでしょうか!
では、恒例のプロフィールをば。
ジリ・ノスワール
本作の語り手。女性でギリ成人済みの魔導少尉。
右目を捧げて闇を出して移動できる能力をゲットした。
同じ軍で、しかも希望者が少ない魔導部隊で偶然会えた女性のレイン伍長と仲良くしたさげ。
そのうち、武勲を立ててヘル(ジリの場合、元が平民なので一代限りの貴族称号)を名乗ることが許される。
この後死なないです。死んだら私が泣きます。
レイン・ヘル・ヴァンガード
女性でギリ成人済みの魔導伍長。
内臓いくつか捧げて、銃火器どこでも出せる能力を手に入れた。
実家(貴族)が嫌い。本作ではブルージーンの髪色と表現していたが、その内ポピーレッドみたいな赤色に染める予定。青い髪色=実家の象徴のため。
狙撃手が派手髪ってあんたそれ、って話ですが、この作品はフィクションです!!いざとなれば不思議パワーがどうにかしてくれますよ!!はい!!




