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衛士部隊との合流と揺れる信頼

オーガの巣窟を後にしたカイとフィアナは、救出した二人組の旅人――行商人の男性と、その娘を連れて森を進んだ。オーガ戦で全ての改変エネルギーを使い果たしたカイは、極度の疲労に襲われ、フィアナに支給された魔木製の杖にすがって歩いていた。


夜の帳が降りる頃、木々の間に微かに灯りが灯っているのが見えた。フィアナが安堵の息を漏らす。


「あれが我らが野営地だ。ようやくたどり着いた」


野営地には、フィアナと同じ緑の革鎧を身につけた、十数名のエルフの衛士たちがいた。彼らは火を囲み、森の警戒にあたっている。彼らの鋭い眼差しは、獲物を狙う鷹のように、カイと旅人たちに向けられた。


フィアナが衛士たちに声をかけると、彼らのリーダーらしき、体格の良い男性エルフが歩み寄ってきた。彼の名は**「レグナス」**。フィアナの上官にあたる人物だ。


「フィアナ!何があった?オーガの討伐に出たのか?それに、なぜ人間を連れている?」


フィアナは手短に状況を報告した。


「ゴブリンの残党を追っていたところ、オーガに襲われた人間の旅人を発見しました。オーガは二体。私と、この少年、カイ・アスベルの共同作戦で討伐に成功しました」


レグナスは目を丸くした。


「二体だと?そして、この少年が共同で?フィアナ、冗談はやめろ。その人間の子は、我々の森に迷い込んだ者ではないのか」


フィアナは一呼吸置き、静かに言葉を選んだ。


「レグナス隊長。この少年の持つ力は、私の常識を超えています。彼は『原理』を書き換えるという、異質な能力を持っています。オーガを討伐できたのも、彼の力が要因の一つです」


その言葉に、野営地に緊張が走った。エルフたちは、人間の魔術師に対する根深い警戒心を持っている。ましてや「原理を書き換える」という神の領域のような力となれば、彼らにとってそれは即ち「脅威」でしかなかった。


レグナスは眉をひそめ、カイを睨みつけた。


「原理の書き換え?ふざけた話だ。この人間の子は、我らに魔法の仕掛けをしようとしているのか?」


「違います!僕は、ただ、助けたかっただけで……」カイは必死に弁解する。


「黙れ、人間の子!衛士隊に弓を向けるぞ!」


レグナスが手を挙げると、数名のエルフが弓を構えた。その場の空気は一気に凍りついた。


その時、フィアナがカイの前に立ち塞がった。


「隊長。私の判断です。彼の力は確かに異質ですが、その意志は純粋なものです。彼は自分の力で、目の前の人間を救おうとしました。もし彼に敵意があるのなら、私ではなく、先にあなた方を改変で無力化することも可能だったはずです」


「フィアナ!お前までその人間に騙されているのか!?」


「いいえ。私は、彼の力をこの目で見た。彼の力は、この森の防衛に役立つ可能性がある。彼の存在を、軽率に敵と断定しないでください」


フィアナの言葉は、エルフの衛士たちの間で大きな波紋を呼んだ。彼女は普段から冷静沈着で、情に流されることのない優秀な衛士として知られていたからだ。


野営地は一時騒然としたが、最終的にレグナスはフィアナの証言を無視できず、カイを「一時的な保護対象」として監視下に置くことを決定した。旅人たちは手厚く看護され、カイはフィアナのテントの隣に隔離された。


夜が深まり、焚き火の音が森に響く。カイは一人、テントの中で魔木製の剣を握りしめ、静かに能力について思索を巡らせていた。


(レグナス隊長は、完全に俺を敵視している。フィアナさんが庇ってくれたけど、このままではいけない。俺の力が**『脅威』ではなく、『有益』**なものであることを証明しないと)


オーガ戦後、彼の魔力は再び「F」ランクに戻っていた。しかし、一度『拡張阻害構造の削除』を改変したことで、魔力の回復速度と総量は、元の世界の人間だった頃とは比べ物にならないほど向上していた。


(この世界の『原理』。魔法使いはマナを体内の回路で練る。じゃあ、俺の『万象改変』のエネルギー源は本当にどこから来ているんだ?)


カイは意識を集中し、能力の発動時に感じる、世界から一瞬だけ力を借り受ける感覚を、徹底的に解析し始めた。


【学習実行。対象:能力『万象改変ワールド・リライター』のエネルギー供給原理。】


【解析結果:能力は、発動時に周囲の『世界のマナの集合体』から、必要な原理構成に応じたエネルギーを瞬間的に引き出し、改変の対価として、そのエネルギーを『消費』している。】


つまり、彼のチート能力は、彼の個人的な魔力に依存しているのではなく、世界そのものが持つエネルギーを使っていたのだ。だからこそ、魔力が微弱でも強力な改変が可能だった。


「なら……」


カイの瞳に強い光が宿った。彼は、この世界の原理を学ぶことでしか、このチート能力を使いこなせないことを改めて理解した。


(この世界の知識が、俺の『魔力』そのものだ。フィアナさんから、もっと『原理』を学ばなくては)


その時、テントの入り口の布がそっとめくられた。立っていたのはフィアナだった。彼女は野営地の警戒を怠らず、武装したままだ。


「眠れないのか、人間の子よ」


「フィアナさん……僕のせいで、隊長と揉めてしまって、すみません」


フィアナはテントの中に入り、静かに座った。


「謝罪は無用だ。私が正しいと信じたことをしたまで。だが、お前の力はやはり危険すぎる。私はお前を信用しているわけではない。お前の持つ力が、今後、この森に悪影響を及ぼさないか、確認しに来た」


彼女はそう言いながらも、カイに一つの包みを差し出した。それは、乾いた肉と、硬いパンだった。


「食べろ。オーガと戦ったのだ。その疲労は、ただの人間なら寝ていても取れぬ」


「ありがとうございます」


カイは受け取った食料をかじりながら、尋ねた。


「フィアナさん。魔族の『原理』について、教えてくれませんか?」


フィアナは驚き、顔を上げた。


「なぜそんなものを?魔族は知る必要のない存在だ」


「僕の力は、原理を知らなければ、対処できません。もしまた魔族に遭遇して、あなたや仲間が危険に晒されたとき、僕は無力でいることしかできない。それでは、意味がない」


カイの言葉は真剣だった。フィアナは長い沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。


「魔族の原理……奴らは、この世界の『生命力』を奪い、自己の力を増大させる存在だ。我々エルフは、奴らの魔力を『淀んだマナ』と呼ぶ。生命の原理そのものに敵対する存在、それが魔族だ」


【学習実行。キーワード『魔族の原理』『生命力の奪取』に関する原理の断片を把握しました。】


(生命力そのものの原理を改変しているのか……それに対抗するには、生命力の原理を理解し、それを『無効化』する必要がある!)


カイは、ただ強くなるだけでなく、この世界の秩序を守るための、より具体的で大きな目標を見出した。フィアナが彼の傍にいる限り、彼は学び、強くなることができる。


フィアナは立ち上がり、静かに言った。


「今夜は、これ以上話すことはない。眠れ。そして、もし私を裏切るような真似をしたら……その瞬間、お前の首を刎ねる」


フィアナはそう言い残し、テントから去っていった。その声には、以前よりも深い信頼と、それゆえの強い警告が込められていた。


カイは、硬いパンを噛みしめながら、夜空を見上げた。剣と魔法の世界の夜空は、元の世界よりも遥かに星が輝いていた。

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