不時着した世界と再起動の原理
激しい光の渦に巻き込まれたカイとフィアナが不時着したのは、また別の次元の世界だった。
そこは、熱帯を思わせる濃い緑に覆われたジャングルの奥地だった。空気は湿気を帯び、遠くから聞いたことのない獣の咆哮が響く。空には、元の世界にはない、赤と紫の二つの太陽が昇っていた。
「ぐっ……」
フィアナは全身打撲で意識を失っており、カイもまた、能力停止と疲労困憊で立っているのがやっとだった。彼は、自身の杖であり唯一の武器であった『鋼靭木』が、創造主の欠片との衝突で、ただの炭のような黒い棒になってしまったことを確認した。
「フィアナさん!しっかり!」
カイはフィアナを抱き起こし、エルフ族の回復魔法の原理を知識として知っているものの、自身の魔力回路が完全に停止しているため、何もできないことに絶望した。
【警告:能力『万象改変』は依然として停止中です。外部からの原理の介入が必要です。】
(くそっ!能力さえあれば、フィアナさんの怪我も、この杖の修復も一瞬なのに!)
彼は、自身の無力感を噛みしめながら、周囲の原理を解析した。
【学習実行。対象:この世界の『生命の原理』『マナの流れの原理』。】
【解析結果:マナ濃度は高いが、粗野で未開の原理が支配的です。】
この世界は、彼が以前いた『剣と魔法の世界』よりも、文明が遥かに遅れているようだった。しかし、その粗野なマナは、彼の停止した魔力回路に、微弱ながらも干渉してきている。
「フィアナさんを助けなきゃ……。能力がダメなら、知識を頼りにするしかない」
カイは、創造主の欠片との戦いで得た教訓を思い出した。能力が停止しても、**『原理を理解し、その構造を組み替える知識』**は、誰にも奪えない。
カイは、フィアナの傷を応急処置した後、自身の能力再起動の原理を考え始めた。
創造主の欠片は、『万象改変』の最上位の原理に**『停止』という命令を上書きした。この停止命令を解除するには、『外部の力』を利用して、その最上位の原理に『解除』**という命令を上書きするしかない。
(外部の力……そうだ。この世界のマナは粗野だが、濃度が高い。その**『マナの奔流』を利用して、自分の停止した能力に『強制再起動の原理』**をぶつける!)
それは、魔力回路を焼き切る可能性を伴う、極めて危険な行為だった。しかし、フィアナを助けるためには、それしかなかった。
カイは、ジャングルの地面に、ルミナリアで学んだエルフ族の古代の魔術陣を、小石や枝を使って正確に描き始めた。その魔術陣は、周囲のマナを一点に収束させ、増幅させる原理を持つ。
魔術陣が完成すると、ジャングルの粗野なマナが、まるで渦潮のように集まり始めた。
「このマナの奔流を、自分の停止した回路に流し込む。能力が解除されるか、回路が焼き切れるか……賭けだ!」
カイは決意を固め、魔術陣の中心に座り、自身の『万象改変』の停止した最上位原理に意識を向けた。
【改変の対象:『万象改変』の最上位原理に上書きされた『停止』命令。】
【改変の目的:外部マナの奔流をトリガーとした『強制再起動の原理』の構築。】
カイは、知識を駆使して、マナの奔流が自身の回路を通過する瞬間に、**『停止』の原理を『起動』**の原理へと強制的に書き換える、複雑な知識構造を頭の中で展開した。
そして、彼は、古代の魔術陣を起動させるために、自らの意識の全てを集中させた。
ゴオオオオ!
魔術陣が起動し、ジャングルのマナが稲妻のような光を放ちながら、カイの体に流れ込み始めた。停止した回路に、粗野で強力なマナがぶつかり、カイは全身を焼き尽くされるような激痛に襲われた。
「ぐあああああ!!」
激痛の中、カイは、創造主の欠片が残した『停止』の原理を、知識の力で書き換えようと必死にもがいた。
**『停止』の原理が、『起動』**の原理に変わり始める瞬間、彼の脳内に、創造主の欠片の断片的な『意志』が再び響いた。
「…愚かな…抗うな…実験体よ…お前の力は…我が原理…」
しかし、その『意志』に負けるわけにはいかない。隣には、傷つきながらも自分を信じているフィアナがいるのだ。
「僕は…調律者だ!世界の原理は…僕が書き換える!」
カイの強い意志が、最後の知識を能力に叩き込んだ。
【強制再起動の原理が、停止原理を上書きしました!】
【能力『万象改変』、再起動。】
【魔力回路は致命的なダメージを受けましたが、自己修復を開始しました。】
光が収束し、激痛が引いた後、カイは全身から汗を流しながらも、能力の再起動に成功したことを確認した。
彼の魔力は最低のFランクに戻っていたが、絶望的な状況は脱した。
「フィアナさん……助けます!」
カイはすぐに能力を起動させた。最初の改変は、もちろんフィアナの治癒だ。
ターゲット:フィアナ・アウロラの身体。
原理:「エルフ族の回復魔法の原理を応用し、**『体内のマナを最大限に利用した超加速治癒の原理』**を付与する」
【改変実行。対象:フィアナの身体。改変原理:超加速治癒。】
【改変完了。】
フィアナの傷が、光と共に急速に塞がっていく。やがて彼女は静かに目を開けた。
「カイ……お前、能力を……」
「ええ、なんとか再起動できました。もう大丈夫です、フィアナさん」
フィアナは立ち上がり、カイを抱きしめた。
「よくやった、カイ。私は知っていた。お前の真の力は、その能力ではなく、知識と意志にあるということを」
しかし、安堵したのも束の間、ジャングルの奥から、巨大な地響きと共に、この世界の**『支配者』**が接近してくる気配を感じた。
「カイ、来るぞ。この世界の原理を体現した、強力な存在だ!」フィアナが弓を構えた。
カイは、その存在の原理を解析した。それは、巨大な肉体を持ち、この世界の粗野なマナを操る、**『原生の神』**とも呼ぶべき存在だった。
「僕たちの旅は、まだ続く。能力を失っても、知識がある。この新しい世界で、僕たちの『調律』を始めましょう!」
カイは、新しい世界での最初の試練に、恐れることなく立ち向かう決意を固めた。




