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能力の停止と絶望の淵

創造主の欠片による絶対的な『原理の上書き』により、カイの体内の『万象改変ワールド・リライター』の能力は、まるで電源を抜かれたかのように完全に停止した。


【警告:能力『万象改変』は停止しました。マナ回路へのアクセス、原理の解析、改変、全て実行不可能です。】


「うそだ……」


カイは体内のマナが完全に静止したのを感じ、愕然とした。これまでの彼の存在意義であり、最大の武器であった能力が、一瞬で奪われたのだ。彼は、ただの魔力を持たない人間に戻ってしまった。


創造主の欠片は、巨大なシルエットのまま、静かにカイを見下ろした。


「原理の実験は終了した。お前が持つ『万象改変』の欠片は、我が元に戻す」


欠片が手を振り下ろすと、エーテル状の空間が圧縮され、カイの身体を捕縛しようと迫ってきた。


「カイ!」


フィアナは即座に反応した。能力が使えないカイを、この絶対的な存在の攻撃から守るため、彼女は己のすべてを賭けた。


「エルフの森の衛士、フィアナ・アウロラの名において、お前に手を出すことは許さない!」


フィアナは弓を捨て、腰のショートソードを抜き放った。その刃に、彼女の残された清浄なマナを集中させ、全速力で創造主の欠片の巨大な指に向かって駆け出した。


キンッ!


彼女の渾身の一撃は、欠片の半透明な指先に、微かな火花を散らしただけに終わった。


「無駄な足掻きだ、下等な次元の生命体よ。お前の物理的な原理など、我が法則の前では意味をなさない」


欠片は、その一撃を無視し、フィアナの存在を空間ごと圧縮しようとした。フィアナの身体がきしみ、呼吸が苦しくなる。


「ぐっ……!」


「フィアナさん、やめて!僕のせいで!」カイは焦燥に駆られた。能力を失った今、彼はフィアナの危機に何もできない。


フィアナは、苦痛に顔を歪ませながらも、視線だけでカイに語りかけた。


「大丈夫だ。お前の命は、世界の希望だ。お前はただの人間ではない、調律者だ!知識がある限り、お前は無敵だ!」


彼女の言葉は、カイの意識に深く突き刺さった。そうだ。彼の真の力は、『原理』を理解し、その『構造』を書き換える知識にある。能力は停止しても、頭の中にある膨大な知識と、解析の思考力は奪われていない!


カイは、一瞬で思考を加速させた。(思考加速は能力ではない、脳の解析速度だ。まだ使える!)


能力が使えないならば、知識そのものを武器にするしかない。


ターゲット:創造主の欠片の『存在の原理』。


(奴は、この次元の『無形の法則』を統べる存在だ。そして、奴の体は、**『この次元の全てのマナと原理を収束させた集合体』**で構成されている!)


カイは、大図書館で学んだ**『マナの平衡方程式』、聖域で学んだ『生命力の安定化原理』、そして光の残像との戦闘で得た『無形の法則の脆弱性』**の知識を、頭の中で複雑に組み合わせ始めた。


(奴の原理は**『全てを収束させる原理』だ。ならば、その『収束の原理』を逆利用し、一時的に奴の身体の『結合の原理』を『発散』**に書き換える!)


しかし、能力は停止している。どうやって改変を実行する?


カイは、腰の『鋼靭木』の杖を握りしめた。これは、かつて彼が『原理』を改変し、作り上げた物質だ。


「フィアナさん!僕を、奴の身体に、一瞬で近づけてください!」カイは叫んだ。


フィアナは、カイの意図を察し、最後の力を振り絞った。彼女は短剣を捨て、カイの身体を抱き寄せると、エルフ族の瞬間移動の魔法陣を、血を吐く思いで展開させた。


「間に合え!」


フィアナの命を懸けた瞬間移動は成功し、二人は創造主の欠片の巨大な身体の、**『核』**と思われる部分の目前に辿り着いた。


カイは、能力が停止した状態で、唯一の『改変物質』である『鋼靭木』の杖を、欠片の身体に力いっぱい突き刺した。


ズンッ!


杖は欠片の身体にめり込んだ。これは、**『原理の上書き』ではなく、『原理の衝突』**だ。


「馬鹿な……物理的な物質が、我が身体に干渉できるだと!?」欠片は初めて、驚愕の声を上げた。


「これはただの物理じゃない!これは、**『僕が改変した原理を持つ物質』**だ!」


カイは、杖に刻まれた『鋼の硬度』と『木の柔軟性』という**『二つの原理の結合構造』**に、自身の膨大な知識を流し込んだ。


知識の改変:『鋼靭木』の**『結合の原理』を、『この次元の全てのマナを収束させる創造主の原理』と『衝突し、一時的にその結合を解体する』**原理に書き換える!


能力は停止しているが、知識と意志の力は、既に改変された物質に、新たな**『使命』**を付与したのだ。


杖は、まるで時限爆弾のように、光を放った。


ドォンッ!


創造主の欠片の身体が、内部から爆発したかのように、巨大なマナと原理の奔流として発散し始めた。その身体は、収束していた全ての原理を制御できなくなり、巨大な銀河のシルエットを崩壊させていった。


「ぐああああ!我が原理が、我が原理が、なぜ……反発する!」


欠片は悲鳴を上げながら、崩壊した身体を再び収束させようと試みたが、カイが仕込んだ『発散の原理』が、その収束を拒絶し続ける。


「今だ、フィアナさん!離脱します!」


フィアナは、満身創痍の身体で最後の力を振り絞り、カイと共に、崩壊しつつある次元の狭間から脱出するための転移魔法を展開した。


光の渦に飲み込まれる直前、カイは崩壊する創造主の欠片の『核』が、**「…お前は…成功した…実験は…継続…」**という、断片的な『意志』を自分に送ってきたのを感じた。


二人は、激しい光と共に、その次元の狭間から弾き出された。

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