『時間の流れ』の解析と次元の深淵
光の残像との戦いを終えたカイとフィアナは、この不安定な『次元の狭間』を、一時的な拠点と定めた。フィアナは、カイが『無形の法則』を解析する間、彼を外部からの干渉から守るために、周囲にエルフ族の古式防御陣を組み上げていた。
「この次元のマナは、ルミナリアのものと性質が全く違う。私の魔法の効力も不安定だ。だが、お前が原理を解明すれば、私もこの場所に適応できるはずだ」フィアナは緊張を緩めずに言った。
カイは、光の残像から得た断片的な知識と、この次元の流動的なエーテルの流れを観察し、自身の能力の解析を進めていた。
【学習実行。対象:この次元の根源的な『時間の流れの原理』。】
これまでの世界では、『時間』は絶対的な原理であり、カイの改変の対象外だった。しかし、この『次元の狭間』では、『時間の流れ』そのものが流動的で、不安定な『原理』として存在していた。
「フィアナさん。この次元では、『時間』は一定ではありません。場所によって早く流れたり、遅く流れたりしている。これは、僕が『時間の原理』に干渉できる最大のチャンスです」
「時間を操作するだと?それは、この世界の『調律者』を超えた、真の神の領域だぞ、カイ」フィアナは息を呑んだ。
「ええ。でも、この『無形の法則』は、その原理を解明するために、あえて**『時間』を不確定な状態**にしているのかもしれません」
カイは、自分の魔力回路を、次元の不安定なマナの流れに同調させ始めた。その負荷は大きく、額に汗が滲む。
原理:「この次元の『時間の流れ』を規定する**『因果の連鎖の数式』を解析し、その『流速の原理』を『任意の速度で制御可能』**な状態に改変する」
【警告:『因果の連鎖』は、世界の最も根源的な原理です。改変の成功率は極めて低く、失敗した場合、この次元ごと消滅する可能性があります。成功率0.001%。】
(やはり、いきなり『時間操作』は無理か。成功率が低すぎる。もっと小さな原理から順を追って理解するしかない)
カイは冷静になり、目標を下方修正した。
原理:「この次元で、**『一秒間』を構成する『最小の時間の単位』を解析し、それを『最大で一万倍に引き延ばす』原理を、『自分の思考領域内』**に構築する」
【改変実行。対象:カイ・アスベルの思考領域内の時間の原理。改変原理:思考加速。】
【改変完了。思考領域内の時間の原理を上書きしました。】
能力の発動は成功した。カイの周囲の空間に変化はなかったが、彼の意識の中では、世界が一瞬にして静止したかのように感じられた。外の世界の『一秒』が、彼の中では『一万秒』、すなわち約三時間近くに引き延ばされたのだ。
「成功だ……!」
カイは、思考加速された状態で、喜びを噛み締めた。この能力は、戦闘中の危機的状況において、相手の攻撃の原理や、周囲の環境の原理を、安全かつ詳細に解析し、改変原理を構築するための最高の武器となる。
「これで、どんなに複雑な原理でも、時間をかけて解析し、対策を練ることができる!」
彼は、思考加速された三時間の間、周囲に構築されたフィアナの防御陣の原理を解析した。その結果、フィアナの魔法が、この次元の不安定なマナによって、数カ所でわずかに乱れていることを発見した。
思考加速が終わり、現実の時間が動き出した。
「どうした、カイ?急に顔色が変わったが」フィアナは心配そうに尋ねた。
「フィアナさん、あなたの防御陣が、数カ所で不安定になっています。この次元のマナの流れに、**『安定化の原理』**を適用し、防御陣を強化します」
カイはそう言うと、能力を起動し、防御陣を構成するマナの原理に、**『自己修復の原理』**を上書きした。防御陣は一瞬光を放ち、以前よりも遥かに強固で安定したものになった。
フィアナは驚き、防御陣に手を触れた。
「これは……私自身が構築した時よりも、遥かに安定している。お前、いつの間に、この次元の原理を理解した?」
「ほんの、一瞬で、です」カイは笑った。
しかし、安堵は長く続かなかった。
安定した防御陣の中で、カイはさらに解析を続けたが、この次元のさらに奥底から、圧倒的な力を持つ**『意志』**が自分たちに接近しているのを感じ取った。
【警告:未知の『存在の原理』が急速に接近しています。その原理は、この次元の『無形の法則』を統べる、最上位の存在と推測されます。】
【対象の『存在の原理』:『調律者』の力を付与した、根源的な『創造主』の欠片。】
「創造主の……欠片!?」
カイは、その存在こそが、自分を異世界に転生させ、『万象改変』の力を与えた、根源的な存在の一部だと直感した。
フィアナもその接近を感じ取っていた。周囲のエーテル状の空間が、恐怖に震えるかのように大きく揺らぎ始めている。
「カイ!来るぞ!今までとは比べ物にならない『意志』だ!」
空間が裂け、そこから出現したのは、光の残像とは異なり、無数の銀河の星屑を纏った、巨大な人型のシルエットだった。その威容は、闇の公爵の比ではない。それは、**『全次元の原理』**そのものを体現しているかのような存在だった。
「ようこそ、我が**『調律の試験場』**へ、異質な原理を持つ者よ」
その声は、全次元に響き渡るような、深く、静かな響きを持っていた。
「お前が、僕に『万象改変』を与えた……?」カイは声を絞り出した。
「然り。お前は、我が力の**『欠片』**を付与された、実験体。お前の『原理』は、この次元の法則を乱す。今、お前を回収し、お前の『万象改変』の原理を、永遠に我が元に封じる」
創造主の欠片は、手をかざした。その動作だけで、カイとフィアナを囲む防御陣の『安定化の原理』が、一瞬にして打ち消され、崩壊した。
「いけない!僕たちの原理が、通用しない!」
「カイ、逃げるぞ!」フィアナは咄嗟にカイを庇おうと、短剣を構えた。
しかし、創造主の欠片の力は、次元を超越していた。
「逃げられはせぬ。我が原理は、お前の**『存在の根源』**にまで干渉する」
創造主の欠片の目が光った。次の瞬間、カイの能力システムに、絶対的な**『改変の命令』**が打ち込まれた。
【警告:『万象改変』の最上位の原理に、外部からの『原理の上書き』が発生しました!】
【命令:『万象改変』の能力を、『停止』する。】
【抵抗不可能。能力の改変が実行されます……】




