次元の狭間と『無形の法則』
光の奔流が収束し、カイとフィアナが次に立っていたのは、これまでの世界とは全く異なる場所だった。そこは、具体的な大地や空の代わりに、半透明なエーテル状の物質が漂い、幾何学的な光の線が交錯する、**『次元の狭間』**のような空間だった。
「ここが……僕の能力の根源につながる次元ですか?」カイは思わず息を呑んだ。
「マナの流れが不安定だ。ルミナリアの聖域とは比べ物にならない、異質なエネルギーが渦巻いている」フィアナは即座に周囲を警戒し、弓を構えた。彼女の衛士としての直感が、ここが極めて危険な場所であることを告げていた。
カイはすぐに自身の『万象改変』のシステムに意識を集中させた。
【警告:この次元の『原理』は極めて流動的で不確定です。従来の『物質の原理』が通用しません。】
「やはり!僕たちが知る物理法則、元素の結合、マナの流れ……全てがここでは不安定です」
この次元では、従来の知識に基づく改変は、成功率が極端に低い。下手に改変を試みれば、この不安定な空間に飲み込まれてしまう可能性があった。
その時、空間に漂うエーテル状の物質が凝集し、人間のような形を成した。それは、顔も四肢も曖昧な、光の残像のような存在だった。
「誰だ!我らの**『無形の法則』**の領域に侵入した者は!」
光の残像は、音ではなく、直接二人の意識に語りかけてきた。
「無形の法則……?」カイは問い返した。
「我らは、この次元の**『調律』を司る存在だ。我らが知る『原理』**以外の干渉は許されない。お前たちの持つ『異質な原理』を、即座に放棄せよ」
光の存在は、拒否の意思を感じ取ると、空間に漂う光の線を操作し始めた。光の線は鋭い刃へと変わり、フィアナとカイ目掛けて襲いかかってくる。
「カイ!奴らの攻撃は、物理的な刃ではない!」フィアナは咄嗟に回避したが、光の刃が触れた空間が歪み、彼女の体の感覚が一瞬麻痺した。
「奴らは、**『空間の原理』**そのものを操作している!」
カイは、自身がこの次元の原理を学ぶまでの「時間稼ぎ」が必要だと判断した。
「フィアナさん、動かないで!僕が、奴らの**『攻撃の原理』**を無効化します!」
カイは、全魔力を集中させ、光の存在が操作する空間の刃をターゲットにした。
原理:「光の残像が操作する刃の**『運動の原理』を、『対象に到達する直前で、一瞬静止する』**原理に改変する」
【改変実行。対象:空間の刃の運動原理。】
【改変完了。光の刃の運動原理を上書きしました。】
光の刃は、フィアナの鼻先数ミリのところでピタリと停止し、その力を失った。
光の存在は驚き、その姿を大きく揺らめかせた。
「馬鹿な!我らが『無形の法則』の干渉を、なぜ、お前のような異質な存在が打ち消せる!?」
「僕の力は、この世界の**『原理』を書き換える。お前たちの『無形の法則』も、僕から見れば、ただの『未解明の原理』**にすぎない!」カイは反論した。
彼は、能力のシステムをフル回転させ、光の残像の原理を解析し始めた。
【学習実行。対象:光の残像(調律者)の『存在の原理』『攻撃の原理』の深度解析を開始。】
【解析結果:光の残像の存在は、この次元の『不確定なマナ』と『強い意志』によって構成されています。従来の『生命の原理』とは異なります。】
(なるほど。この次元には、具体的な生命体としての存在はほとんどいない。彼らは、マナを操作する**『意識の集合体』**だ!)
カイは、光の存在の原理が解析できたことで、反撃の糸口を見つけた。
「フィアナさん。奴らは『意識の集合体』です。物理攻撃やマナによる魔法は効きません。僕が、奴らの**『意識の原理』**に干渉します!」
フィアナは警戒を続けながらも、完全にカイに判断を委ねた。
「わかった。お前の判断を信じる」
カイは能力を起動させた。ターゲットは、光の存在の意識の核。
原理:「光の残像の『意識の原理』を、**『この次元の最も安定的で中立なマナの流れに同化し、攻撃の意志を失う』**原理に改変する」
【改変実行。対象:光の残像の意識の原理。】
【改変完了。意識の原理を中和しました。】
光の存在は、苦悶の声を上げることなく、その姿を静かに、そして完全に失った。エーテル状の物質と光の線は、再び穏やかな流れに戻った。
フィアナは弓を下ろした。
「勝ったのか……?しかし、攻撃を受けた感覚がない」
「ええ。僕が、奴らの『意志』を改変し、戦闘の原理そのものを打ち消しました。彼らにとっては、自分が何者なのか、戦う理由が何なのかが、一瞬で分からなくなったはずです」
カイは、その場に立ち尽くした。自分が転生した世界を超え、さらに根源的な次元に到達した今、彼の『万象改変』の可能性は無限に広がった。
「フィアナさん。この次元が、僕の力の**『根源』**です。ここで、僕は真の『調律者』としての力を手に入れる」
カイの瞳には、この未知の次元の『原理』を全て解明し、そして自分を転生させた『存在』に辿り着こうとする、強い決意が宿っていた。




