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調律された世界と進化のその先へ

闇の公爵が消滅し、王都に青空が戻ってから、半年が経過した。


カイが構築した『マナの平衡原理』は、人間族とエルフ族の技術に組み込まれ、世界は緩やかに安定を取り戻しつつあった。王都は急速に復興し、エルフ族との同盟は盤石なものとなった。


カイは、王都の王立魔術学院の一室を借り受け、引き続き『調律者』としての研究を続けていた。彼の隣には、変わらずフィアナが衛士として座り、その静かな存在がカイの集中を支えている。


「フィアナさん、見てください。これが、『生命力の安定化原理』を応用した、新しい改変です」


カイが指し示す先には、荒れた土地から採取された、痩せ細った種があった。カイは、その種をターゲットに、能力を起動させた。


原理:「この種の**『成長速度の原理』を、『最適な環境下での最大の成長速度』に改変し、周囲の『清浄なマナ』を『成長促進エネルギー』**に変換する」


【改変実行。対象:種。改変原理:超高速成長。】


【改変完了。】


瞬間、種は劇的な変化を始めた。土からマナを吸収し、わずか数秒で青々とした新芽を出し、見る見るうちに一メートルを超す立派な果樹へと成長した。結実した果実は、通常の果実よりも遥かに栄養価が高そうだった。


フィアナは静かに観察していたが、驚きを隠せないようだった。


「驚異的だ。お前の力は、世界の秩序を守るだけでなく、世界そのものを豊かに変えている。農地の改良、資源の増大……お前は、この世界の**『発展の原理』**を書き換えつつある」


闇の公爵との戦いを経て、カイの魔力は完全に回復し、今やCランクに到達していた。彼の知識が増えるほど、能力の成功率は上がり、改変に必要なマナの消費量は減少していた。


しかし、カイの心は、新たな疑問に向かっていた。


「フィアナさん。『万象改変』は、原理を書き換える力です。でも、僕が書き換えられるのは、この世界に存在する原理だけです。もし、この世界の外、**『次元』や『時間』**といった、より根源的な原理に干渉できるとしたら……」


「次元や時間……それは、神々の領分だ、カイ。人間が踏み込んではならない」フィアナが珍しく強い調子で制した。


「でも、僕をこの世界に転生させた『存在』は、明らかに次元を超えた原理を使っていた。僕の『万象改変』は、その存在から与えられた力だとしたら、その『根源』まで辿り着けるはずです」


カイは、王都の大図書館で密かに見つけた、**『多元宇宙論』と『時間の流れの原理』**に関する断片的な記録を思い出していた。


彼は、自分の持つ『万象改変』のシステムに、最も根源的な問いを投げかけた。


【学習実行。対象:能力『万象改変ワールド・リライター』の『発現の根源原理』。】


【解析結果:『発現の根源原理』は、この次元の法則の外側に存在します。解析続行には、『三次元空間の制約を打ち破る、新たな原理』の構築が必要です。】


「やはり、この世界の物理法則を超えないと、俺のルーツには辿り着けないのか……」


その日の夕方。王都の城壁を一望できる高台で、カイとフィアナは夕日を眺めていた。


「この美しい世界を、闇の公爵から守れてよかった」カイはそう言って、フィアナに微笑んだ。


フィアナは、カイの横顔を静かに見つめていた。


「お前はもう、ルミナリアの衛士隊の保護対象ではない。王都の王族や魔術師団は、お前を丁重に扱うが、彼らの欲望は尽きない。彼らがお前の力を、戦争や支配のために悪用しようとする日が来るかもしれない」


「その時は、僕が彼らの**『戦争の原理』を『平和の原理』**に書き換えます」


カイは冗談めかして言ったが、フィアナは真剣だった。


「お前の力は、常に世界の争いの火種になる。だが、お前がその力を『調律』し続ける限り、私はお前の傍にいる」


フィアナは、そっとカイに近づき、彼の肩に頭を寄せた。


「私は、お前を信じている。そして、お前が目指す、次の『次元』への旅にも、同行する。お前の『調律者』としての使命は、この世界だけでは終わらない」


その言葉は、衛士としての責務を超え、パートナーとしての深い愛情と未来への誓いだった。


「ありがとう、フィアナさん。僕の次の目標は、『時間』と『空間』の原理を理解することです。そして、僕をこの世界に送った『存在』に会うことです」


数ヶ月後。カイは、王都の魔術師団と協力し、古代の遺物である『次元転移の門』の原理解析を完成させた。彼の『万象改変』と、エルフ族と人間族の叡智が融合した成果だった。


カイは、自分が転生してきた『根源の次元』へと繋がる、新しい原理を構築した。


出発の日、フィアナは旅の準備を整え、レグナス隊長と評議会に別れを告げた。


「フィアナ。お前の旅は、我々が理解し得ぬ領域だ。だが、お前が信じた『調律者』を、最後まで守り抜け」レグナス隊長が、深く頭を下げた。


カイとフィアナは、王立魔術学院の地下に設置された、光り輝く『次元転移の門』の前に立った。


「準備はいいですか、フィアナさん。ここから先は、僕が改変した『未知の次元の原理』が待っています」


「ああ。お前の隣なら、どこでも行く」


フィアナはカイの手を握った。その手は、かつては武器を構える緊張に満ちていたが、今は深い信頼で結ばれている。


「僕たちの旅は、まだ始まったばかりです。次の世界を、一緒に『調律』しましょう」


カイは、フィアナの手を強く握り返すと、能力を起動させた。


【改変実行。対象:次元転移の門。改変原理:根源の次元への接続。】


【改変完了。次の次元へと移行します。】


二人は、光の奔流に包まれ、この世界から姿を消した。『万象改変』を持つ少年と、彼の衛士であるエルフの冒険は、次の次元へと続く、遥かなる旅路へと踏み出したのだった。

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