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最終決戦—『ワールド・リバウンド』の発動

夜明け。王都の城壁の外には、無数の影が蠢いていた。闇の公爵が率いる**『死者の軍勢』**だ。スケルトン、ゴースト、そしてミルトンで報告された『影の兵』が、城壁の目前まで押し寄せていた。


王都の城壁の上には、人間族の騎士団と魔術師団、そしてエルフ族の共同戦線が、最後の防衛ラインを敷いている。


カイとフィアナは、騎士団長と魔術師団長に護衛され、城壁の最も高い中央部に立っていた。上空の黒雲は、まるで王都を丸ごと飲み込もうとする巨大な顎のようだ。


「闇の公爵の本体は、あの雲の中心だ。彼自身が、巨大な**『マナの平衡破壊装置』**になっている」カイは緊張しながらも、冷静に分析した。


「調律者殿。我々が全力を尽くして時間を稼ぎます。あなたが能力を発動するまで、耐え抜いてみせます!」騎士団長が剣を掲げ、全軍に命令を下した。


「全軍、防衛戦開始!魔族を王都に入れさせるな!」


戦闘が始まった。エルフ族と人間の魔術師が放つ清浄な魔法と、騎士団の物理攻撃が、死者の軍勢にぶつかる。しかし、魔族の軍勢は数で圧倒し、特に『影の兵』は物理攻撃が効かず、衛士たちの生命力を奪い始めた。防衛ラインはすぐに押し戻され始めた。


「フィアナさん、今です。僕が『ワールド・リバウンド』を発動させ、奴らの原理を打ち消します。その隙に、僕は『対消滅の原理』を闇の公爵本体に叩き込みます!」


「分かった。全魔力を使い果たすな。お前の命が世界の希望だ」


フィアナはカイの前に立ち、弓を構えた。彼女の衛士としての経験が、周囲の全ての脅威からカイを守る完璧な壁となった。


カイは、上空の闇の雲の中心にいる、巨大な負のエネルギー体をターゲットに定めた。それは、この世界の『生命の原理』に対する、最大の冒涜だった。


「行くぞ……『万象改変ワールド・リライター』!」


カイは自身の全魔力、そしてルミナリアで蓄積した全ての知識を、この改変に集中させた。


原理:「闇の公爵が構築した**『マナの平衡破壊の原理』に対し、王立大図書館で得た『マナの平衡方程式』を基にした『正の安定化原理ワールド・リバウンド』**を、世界全体に上書きする!」


【警告:超大規模改変です。世界の平衡を一時的に強制修正します。使用者へかかる負荷は致死量です!】


警告を無視し、カイは渾身の力で改変を実行した。


【改変実行。対象:世界のマナの平衡原理。】


【改変完了。マナの平衡点への強制収束ワールド・リバウンドが発動しました!】


その瞬間、カイの体から、眩いばかりの光が噴出した。それは、上空の黒雲を切り裂き、闇の公爵が放つ淀んだマナを、強制的に『清浄なマナ』へと引き戻す、巨大なエネルギーの奔流だった。


城壁の外で暴れていた『影の兵』たちは、その光に触れた途端、まるで日中の霧のように薄くなり、消滅していった。淀んだマナで構成されていたスケルトンやゴーストも動きを止め、その場で崩壊した。


『ワールド・リバウンド』は、闇の公爵の**『平衡破壊の原理』を、『自己修復の原理』**へと逆利用し、彼が放ったエネルギーを、彼自身の軍勢に作用させたのだ。


闇の公爵は、雲の中から、驚愕と苦悶の叫びを上げた。


「バカな!私の『死の原理』が、なぜ、なぜ**『生命の安定』**に変換される!」


しかし、『ワールド・リバウンド』の持続は短い。カイの魔力は、数秒で急速に枯渇し始めた。


「今だ、フィアナさん!」


フィアナは、カイの指示を待つことなく、弓に最後の魔力を込めた。ターゲットは、平衡破壊の原理を打ち消され、体勢を崩した闇の公爵の本体だ。


「お前の命は、私たちがいただく!」


フィアナが放った矢は、彼女の全生命力を込めた、渾身の一撃だった。


その隙に、カイは残る僅かな力を、最後の改変に集中させた。


ターゲット:闇の公爵の本体。


原理:「闇の公爵の**『存在の原理』を、『清浄なマナとの衝突により、無に帰す』**原理に改変する!」


【改変実行。対象:闇の公爵。改変原理:対消滅。】


【魔力不足。能力発動まで、あと一秒……】


カイの意識は途切れそうになったが、その時、フィアナの放った矢が、闇の公爵の巨大な体を貫いた。矢は彼のマナの核を直撃し、公爵の動きを一瞬完全に停止させた。


その一瞬の静寂が、カイに最後の力を与えた。


【改変完了。対消滅が発動しました!】


闇の公爵は、断末魔の悲鳴と共に、フィアナの矢が貫いた核を中心に、内側から光に包まれ、ゴーストと同じように、跡形もなく消滅した。


闇の公爵が消滅すると、上空を覆っていた黒い『淀んだマナ』の雲は急速に収束し、王都の空に、再び清々しい青空が戻った。


闇の公爵の消滅により、城壁の戦闘は完全に終結した。騎士団、魔術師団、そしてエルフの衛士たちは歓声を上げたが、彼らの中心にいたカイは、その場で意識を失い、崩れ落ちた。


「カイ!」


フィアナは弓を捨て、急いでカイを抱きかかえた。彼女の腕の中のカイは、顔面蒼白で、その体からは、一切の魔力の反応が消えていた。


「大丈夫だ、調律者。お前はやり遂げた。世界を救ったのだ……」


フィアナは、王都の混乱をよそに、ルミナリアから持ってきた最高のエルフ族の回復ポーションを、カイの口に含ませた。そして、彼女自身も、最後の力を振り絞って、カイの魔力回路の修復を試みた。


数時間後、王城の最高級の客室で、カイは再び目覚めた。


彼の周りには、王と騎士団長、魔術師団長、そしてフィアナが立っていた。彼らは皆、深い敬意の眼差しをカイに向けていた。


「調律者カイ・アスベル殿。貴殿の働きは、この世界の歴史を変えました。貴殿は、人間とエルフの歴史において、最も偉大な救世主です」王が深々と頭を下げた。


カイは、その称号と、王の敬意に戸惑った。


「僕は、ただ、原理を書き換えただけです……」


「その原理こそが、神の力です」フィアナが静かに言った。「お前の力は、世界を救い、そして証明された。お前こそが、真の**『調律者』**だ」


カイは、もう『調律者』という称号に戸惑いはなかった。彼は、このチート能力を持って転生した使命を全うしたのだ。


その後、カイは王都の復興に協力し、彼の『マナの平衡原理』を応用した技術を、人間族とエルフ族に提供した。その原理は、この世界を根本から安定させ、魔族の脅威が再び増大するのを防ぐ盾となった。


フィアナは、王都での使命を終えた後も、カイの衛士として彼の隣にいた。彼女は、彼の**『調律者』**としての旅が、まだ終わっていないことを知っていた。


「さあ、カイ。私たちの旅は、まだ終わらない。お前が原理を書き換えた後の、この世界の**『未来の原理』**を、一緒に見届けよう」


カイは、フィアナの隣で力強く頷いた。彼はもう、異世界に迷い込んだ無職の青年ではない。彼は、世界の『原理』を操り、未来を書き換える**『調律者』**となった。そして、彼の傍には、彼を最も理解し、支えてくれるエルフのヒロインがいた。

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