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『光の障壁』の原理とフィアナの誓い

『調律者』の称号を得たカイは、ルミナリアの聖域での知識吸収と、それに伴う能力の進化に没頭していた。聖域のマナは清浄で、彼の魔力回路の回復と拡張を促進し、魔力は着実にDランクに到達していた。


彼の主な研究対象は、魔族の『生命力の逆転原理』に対抗するための**『生命力の安定化原理』**の構築だった。これには、古代エルフ族が編み出した、あらゆる負の干渉を無効化する防御魔法の根源的な知識が必要だった。


「古代の魔法使いは、ただマナを流すのではなく、世界の『秩序』そのものを壁として構築していたのか……」


カイは巻物から得た知識を基に、新しい改変の原理を試みた。ターゲットは、彼自身の周囲の空間だ。


原理:「**この空間の『負の干渉を受ける可能性』を、一時的に『無』**に改変する」


【警告:『負の干渉の可能性』という原理は極めて抽象的です。成功率10%。】


(やはり抽象的すぎる。もっと具体的に!)


カイは、原理を防御魔法の最も基本的な要素に分解した。


原理:「周囲の空間に、**『魔族の淀んだマナによる接触の原理を拒絶する、光の障壁』**を構築する」


【改変実行。対象:空間。改変原理:光の障壁(対魔族特化)。】


【改変完了。光の障壁ディスペル・バリアが誕生しました。】


その瞬間、カイの周囲に、無色透明だが強い光を帯びた薄い膜が展開した。それは、聖域のマナと共鳴し、空間の「淀み」を完全に拒絶しているのが分かった。


フィアナは、訓練としてカイの護衛についていたが、その光の障壁を目撃し、目を見張った。


「これは……!古代の文献にしか残っていない、**『完全防御』**の概念ではないか。発動に詠唱も触媒も不要とは……」


「これは、魔族の原理を打ち消すための盾です。魔族の淀んだマナは、生命の原理を逆転させようとしますが、この光の障壁は、その**『逆転の原理』**そのものを拒絶します」


カイは能力の成功に満足したが、すぐに障壁を解除した。能力の持続は、彼のマナの回復速度を超えてしまう。


フィアナは、もはやカイを単なる『保護対象』として見ていなかった。彼女は、カイの持つ力が、自分たちの守る森、そして世界にとって、どれほど重要であるかを痛感していた。


「カイ。お前の力は、私たちが想像するよりも遥かに世界の根源に近い。だが、その強大な力は、必ず誰かに狙われる」


フィアナは、自身の衛士としての鎧に手を置いた。


「『調律者』の護衛は、評議会から私に与えられた最も重要な使命だ。私は、お前がその使命を全うするまで、お前の盾となり、お前の剣となる」


フィアナの言葉には、以前のような義務感や警戒心はなかった。それは、同じ世界を守る者としての、深い絆と誓いだった。


カイの学習と修行は順調に進み、ルミナリアに平穏が戻りつつあった。しかし、その平穏は長く続かなかった。


ある夜、レグナス隊長が深刻な面持ちでカイとフィアナの前に現れた。


「緊急事態だ。『影の領域』から、新たな情報が届いた。奴ら、**『闇の公爵ダークデューク』が、『死者の軍勢』の招集を始めている。目的は、ルミナリアを越え、その先にある人間族の『王都』**だ」


王都は、人間族の文明の中心地であり、この世界で最も人口が密集する場所だ。そこに魔族の大軍が押し寄せれば、壊滅的な被害が出ることは明白だった。


「奴らの狙いは何だ?」カイが尋ねた。


「不明だ。だが、闇の公爵の出現自体が、数百年に一度の災厄だ。評議会は、人間族の王都に警告を送り、共同戦線を張ることを決定した」


レグナスはカイを見つめた。


「カイ・アスベル、調律者よ。お前の出番だ。お前の『対消滅の原理』は、ゴーストやスケルトンといった死者の軍勢に対し、最も効果的なはずだ。だが、ルミナリアを離れ、人間族の王都に向かうことになる」


カイはすぐに頷いた。


「行きます。僕の力は、最も困っている人を助けるためにある。闇の公爵の原理を解析し、その野望を阻止します」


フィアナもすぐに申し出た。


「私も同行します。隊長。私の役目は、彼を護衛し、彼の力を最大限に引き出すことです」


レグナスはフィアナの目を見て、静かに頷いた。


「分かった。これはエルフ族全体、そして世界の存亡をかけた戦いになる。お前たちの旅は、明日、夜明けと共に出発する」


翌朝。ルミナリアの衛士隊本拠地前には、旅支度を整えたカイとフィアナの姿があった。フィアナは衛士の装束の上に、旅用の軽装を纏い、背には弓と矢筒、腰にはショートソードを差している。


カイは、レグナス隊長から贈られた、鋼靭木の原理で作られた軽量な旅行用の杖を握っていた。その杖には、彼の魔力回路と共鳴するよう、微細な改変が施されていた。


「カイ・アスベル。『調律者』として、世界の命運はお前にかかっている。無事に戻ってこい」レグナス隊長が厳かに言った。


「必ず、世界を救って戻ります」カイは深く頷いた。


フィアナが、人知れずカイに近づいた。


「王都は、人間族の欲望が渦巻く場所だ。ルミナリアとは違う。そこで、お前の力が悪用されないよう、私が目を光らせておく」


「頼りにしています、フィアナさん」


カイはフィアナの静かな瞳を見つめ、心の中で最後の改変を試みた。


原理:「**この旅の『不確定な未来の原理』を、『フィアナ・アウロラが、無事にエルトリアの森に帰還する』**という結果に、微かに傾ける」


【改変実行。対象:フィアナの未来の原理。改変原理:帰還可能性の微細な向上。】


【改変完了。】


これは、自分自身の命ではなく、彼女の未来の原理を守るための、小さな改変だった。彼は、彼女が自分のそばにいることで、危険に晒されることを恐れていたのだ。


フィアナは、微かに安堵したような、不思議な感覚を覚えたようだったが、すぐに表情を引き締めた。


「行くぞ、調律者。私たちの旅は、ここから始まる」


カイとフィアナは、ルミナリアの街を後にし、闇の公爵が目指す人間族の王都へと向かう、長大な旅路へと踏み出した。彼の持つ『万象改変』の力が、ついに世界を舞台に解き放たれる時が来たのだ。

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