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最高評議会の決定と「調律者」の称号

カイが意識を取り戻したのは、ルミナリアの本拠地にある、清潔で柔らかなベッドの上だった。体内からマナが枯渇した極度の疲労感は残っていたが、エルフ族の高度な回復魔法のおかげで、肉体的なダメージは既に癒えていた。


「目が覚めたか、カイ」


枕元にはフィアナが座っていた。その表情は疲れていたが、安堵の色が濃い。


「フィアナさん……僕、どれくらい寝ていましたか?」


「丸二日だ。お前のマナ回路は完全に空っぽになっていた。あれほどの根源的な改変を、短時間で行うのは無謀すぎる」


フィアナは小言を言いながらも、カイに温かいスープを差し出した。


「討伐隊はどうなりましたか?魔族は……」


「魔族は完全に撤退した。お前の**『対消滅の原理』**が、奴らの存在そのものを否定した。奴らはその力に恐怖し、一目散に逃げたようだ。衛士隊の被害は軽微だ。お前のおかげだ、カイ」


カイはスープを飲みながら、安堵のため息をついた。魔族の原理に干渉するという、最大の賭けに勝利したのだ。


フィアナは顔を引き締めた。


「だが、お前の力の衝撃は大きかった。レグナス隊長は、事の詳細をエルフ族の最高意思決定機関である**『古の森の評議会』**に報告した。そして、評議会はお前について、緊急の結論を出した」


「結論……ですか?」


「ああ。結論は二つだ。一つ、お前の『万象改変』の力は、エルトリアの森と、この世界における『魔族の脅威』に対抗しうる、唯一無二の希望であると認定された」


カイは息を呑んだ。エルフ族の最高機関に、自身の力が認められたのだ。


「そして二つ目」フィアナの瞳が真剣な光を帯びた。


「評議会は、お前を『戦略的資産』として衛士隊に留め置くのではなく、エルフ族が数千年守り続けてきた『古代の知識』と『マナの平衡』を学ぶために、**『調律者ちようりつしゃ』**の称号を与えることを決定した」


「調律者……?」


「エルフ族の伝承にある、世界のマナの流れを正し、平衡を保つ者のことだ。この称号を持つ者は、評議会の直轄となり、衛士隊の指揮系統から外れる。そして、**『聖域』**への立ち入りが許可される」


『聖域』。それはエルフ族の伝説に登場する、世界で最も清浄なマナが満ちる場所であり、古代の叡智が眠る場所だと、カイは図書館で読んだことがあった。


「その代わり、お前は今後、世界のマナの平衡を保つことを、最優先の使命としなければならない。そして、お前の力を独断で、世界の秩序を乱すような改変に使用することは、一切禁止される」フィアナが付け加えた。


数日後、回復したカイは、フィアナとレグナス隊長に付き添われ、評議会の面々が待つルミナリアの最深部、マナに満ちた円形の広間へと向かった。


評議員たちは皆、数百年以上の時を生きた老エルフたちだった。彼らはカイの存在、そして彼が持つ力の原理を、深く見透かしているようだった。


評議会の長老が、静かに口を開いた。


「『万象改変』を持つ者、カイ・アスベルよ。お前の力は、この世界のあらゆる原理を否定し、書き換えうる。それは、創造主の力に匹敵するものだ。我らはその力を畏怖し、同時に、魔族の脅威に対抗するための光として、必要としている」


長老は、カイに向かって、マナを込めた木の葉の冠を差し出した。


「我らは、お前に『調律者』の称号を与える。お前には、古代の叡智を学び、その力でこの世界の『生命の原理』を守る義務が生じる」


カイは深く頭を下げ、その冠を受け取った。


「承知いたしました。僕は、この力を、世界の秩序を守り、困っている人々を助けるために使います」


称号を受けたことで、カイはエルフ族の完全な協力者となった。そして、彼の能力の真価を発揮するための、最高の環境が整った。


第12話:聖域の知識と能力の進化


『調律者』となったカイの最初の任務は、フィアナの護衛のもと、聖域で古代の知識を吸収することだった。


聖域は、ルミナリアの地下深くにある、巨大なマナの結晶体で構成された空間だった。そこには、ルミナリアの図書館にもない、より根源的な**『世界の設計原理』**に関する記録が残されていた。


「これこそが、魔族の原理を打ち消すための鍵だ!」


カイは貪るように知識を吸収していった。特に、魔族の『生命力の逆転原理』に関する古代の記録は、彼の『万象改変』のシステムに膨大なエネルギーを供給した。


【学習完了。『生命力の逆転原理』に対する『生命力の安定化原理』を構築しました。】


能力が進化するたびに、カイの魔力も着実に増加していった。以前のFランクから、今やEランクに安定し、その総量と回復速度は、通常の人間族の魔術師を遥かに凌駕していた。


ある日、カイはフィアナに尋ねた。


「フィアナさん。魔族の活動が活発化しているのは、何か原因があるはずです。何か、この世界の『原理』に異常が起きているのではないか?」


フィアナは憂いを帯びた表情で頷いた。


「実は、衛士隊は長年、魔族の活動の中心地である『影の領域』を監視してきた。最近、その領域から、かつてないほど強力な魔族のエネルギー反応が確認されたのだ。名は、『闇の公爵ダークデューク』。古代の伝承にのみ登場する、恐るべき存在だ」


「闇の公爵……」


カイの胸に、新たな使命感が燃え上がった。自分のチート能力は、この世界に蔓延る最も強力な悪意と対峙するために与えられたのだ。


「僕は、古代の知識を全て吸収し、その『闇の公爵』の原理を解析します。そして、この世界の生命力を脅かす存在を、根源から打ち消します!」


フィアナは、カイの決意を静かに見守った。


「その力が世界を救うのか、それとも破滅させるのか。その答えは、お前の意志にかかっている。調律者カイ・アスベルよ。お前の旅は、これからが本番だ」


カイは、静かに頷いた。彼の持つ『万象改変』の力が、今、世界の運命を賭けた戦いの主軸になろうとしていた。

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