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魔族の活性化と『対消滅』の原理

ルミナリアの街の灯りが強化されてから数日が経った。衛士隊の装備強化も順調に進み、レグナス隊長はカイに対し、完全に協力者としての信頼を置くようになっていた。


しかし、その安定とは裏腹に、森の奥からの不穏な気配は日増しに強くなっていた。


ある日の昼下がり、衛士隊の本拠地で緊急の召集がかかった。


「報告だ!南西の山脈地帯で、魔族の活動が活発化している。偵察隊の情報では、複数の**『ゴースト』と『スケルトン』**が出現し、森のマナを急速に汚染しているという」


レグナス隊長は険しい顔で地図を指差した。


「奴らがこのエルトリアの森に近づくことは稀だ。これは異例の事態だ。すぐに討伐隊を編成する。フィアナ、お前は前線組だ。カイ、お前は後方支援だ」


「待ってください、隊長」カイが声を上げた。「魔族の討伐に、僕を同行させてください。僕の能力は、魔族の持つ『淀んだマナ』に対処する切り札になるかもしれません」


レグナスはためらった。


「お前の力は強力だが、魔族は厄介だ。奴らの攻撃は物理法則すら無視する。特にゴーストは実体がない。お前の改変が通用するかどうか……」


フィアナがカイを援護した。


「隊長。彼の能力は、原理を理解すれば、実体の有無に関わらず作用します。私が彼の護衛につき、最前線で魔族の原理を解析させます。彼の力は、数で劣る我々にとって不可欠です」


フィアナの強い進言に、レグナスは頷くしかなかった。


「分かった。ただし、フィアナの命令は絶対だ。少しでも危険を感じたら、すぐに撤退しろ。お前の命は、もはやこの森全体の**『戦略的な資産』**なのだからな」


討伐隊は、レグナス隊長を筆頭に、フィアナを含む精鋭の衛士十数名、そしてカイという編成で、南西の山脈地帯へと向かった。


目的地に近づくにつれ、森の景色は変わっていった。草木は色を失い、地面は黒く変色している。空気は重く、清浄なエルフの森のマナとは全く違う、淀んだ「死の気配」が満ちていた。


「これが魔族の力……『生命力』の原理を逆転させているのか」


カイの『万象改変』のシステムは、この淀んだマナに対して激しく反応していた。


【学習実行。対象:『淀んだマナ』『生命力の逆転原理』の深度解析を開始。】


現場に到着すると、衛士たちはすぐに戦闘に入った。複数のスケルトンが、錆びた剣を振るいながら衛士たちに襲いかかる。彼らはすでに死んでいるため、通常の攻撃魔法は効きづらく、衛士たちは苦戦を強いられた。


さらに厄介なのが、実体のないゴーストだ。彼らは衛士の体をすり抜け、内側から生命力を吸い取ろうとする。


「カイ!ゴーストだ!奴らは物理攻撃が効かない!」フィアナが叫んだ。彼女はスケルトンの一体を弓で吹き飛ばした後、カイの前に立ち塞がった。


カイはすぐにゴーストを観察した。半透明で実体がないが、その存在は確かにそこにある。


(ゴーストは、**『存在の原理』を『物理的な接触を拒絶する非実体』に改変している。そして、そのエネルギー源は、周囲の『淀んだマナ』**だ)


カイは図書館で学んだ知識を総動員した。ゴーストの非実体化の原理を打ち消すには、そのエネルギー源を断つか、あるいはその原理よりも強力な、**『存在を消滅させる原理』**をぶつけるしかない。


「フィアナさん!少し時間をください!奴らの原理を書き換えます!」


「馬鹿な!最前線で何をするつもりだ!」


フィアナは弓を捨て、腰のショートソードを抜き、カイを庇う。


カイは目をつむり、能力を集中させた。目標はゴーストの一体。


(奴らは『淀んだマナ』という負のエネルギーで存在している。ならば、この森に満ちる『清浄なマナ』という正のエネルギーと、その存在を**『対消滅』**させる!)


これは、光と闇、生と死の最も根本的な原理の衝突だ。


「このゴーストの**『存在の原理』を、『清浄なマナとの衝突により、無に帰す』**原理に改変する!」


【警告:改変の規模が極めて大きく、この世界の最も根源的な『マナの平衡原理』に干渉します!】


【改変を強行しますか?(成功率0.1%)】


カイは躊躇した。失敗すれば、彼自身の命だけでなく、世界のバランスを崩すかもしれない。だが、フィアナと衛士たちの危機を見過ごすことはできない。


「やるしかない!」


彼は叫び、改変を強行した。


カイの体から、激しい光が放たれた。それは、彼の魔力回路が、周辺の清浄な森のマナを強制的に引き込み、改変のエネルギーとして一気に放出していることを示していた。


ゴーストは、自分に近づく膨大な光のエネルギーに気づき、甲高い悲鳴を上げた。


グギャアアアア!


ゴーストの体が、清浄な光のエネルギーに触れた瞬間、まるで水滴が蒸発するように、音もなく完全に消滅した。


その光景に、全ての衛士が動きを止めた。ゴーストの存在そのものが、この世界から消え去ったのだ。


「消えた……実体を持たない魔族が、跡形もなく……!」レグナス隊長が驚愕の声を上げた。


その一瞬の隙に、残っていたスケルトンや、もう一体のゴーストは、本能的にその場から逃げ出した。魔族は、自分たちの存在原理を否定する力を、本能的に恐れたのだ。


フィアナは剣を下ろし、汗だくで立っているカイを振り返った。その顔は、極度の疲労と、能力を限界まで使った消耗で、蒼白になっていた。


「カイ……お前、今、何をした……?」


「『対消滅』の原理を……利用しました。もう……力は……ありません……」


カイはその場に崩れ落ちた。彼の魔力回路は完全に空になり、意識を失う寸前だった。


フィアナはすぐに彼を抱きかかえた。彼女の視線には、もう警戒心はなかった。あったのは、圧倒的な力の証と、それを使いこなした少年への深い畏敬の念だった。


「撤退する!急いでカイを本拠地へ連れ帰る!お前たち、絶対にこの少年を死なせるな!」


レグナス隊長は衛士たちに命令し、自らも剣を鞘に収めた。彼の頭の中には、エルフ族の歴史と、この世界の未来に関する、重大な決断が渦巻いていた。


『万象改変』を持つ少年は、魔族との戦いの歴史に、決定的な一手をもたらしたのだった。

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