きらめく夜空と不穏な雰囲気(2)
先へ行く国王の後を付いて行き、共に席に着く。出される食事に手を付けながら国王は先程宣言したように、フィリネグレイアに話しかけてきた。
「昼間トリウェルはどこを案内しましたか?」
「庭園と王宮内の書庫や主だった施設を案内していただきました」
すっぱり簡潔に聞かれた事を答えるフィリネグレイア。
素気ない返答でも国王は全く気にしなかった。何を考えているか分からない笑顔のまま食事を進める。
こんな状態で食事を続けて、おいしいと感じるはずもなく、味気ないモノを噛みしめ飲み込む。
「貴女は昔から王宮の庭園が好きでしたね。今でも植物を育てているのですか?」
今ここでそれを聞くのか。と彼女は胸の内で舌打ちした。普通貴族の娘はそんな事をしない。しかも貴族と言うのは異端を快く思わない。むしろ排除したり、笑い物にしたり、どっちにしろ当事者には辛い仕打ちしかしないのである。
昼にトリウェルにその事を話したのは、彼がそのような仕打ちをしない人だと信用したからだ。どんな人物かもわからない不特定多数に、知られたくない。
「幼いころの話ですわ」
これは、昔…まだこの目の前の男を少し信じていた時の誤りのつけだ。
「今はもう」
そう絞り出すと、国王がこちらを同情している様な表情をしながら妹である王女の事を出してきた。
「ルミナは君の育てた花がとても好きだと言っていたのだがな。残念だ」
それを言っても何にもならないのに。国王の言葉にフィリネグレイアは遂に自分の不機嫌さを隠しきれず、その気持ちを言葉に含ませてしまった。
「申し訳ありません」
「いや、責めているわけじゃない」
ここで会話が途切れてしまった。先程までかろうじて和やかだった場の空気が段々と重苦しいものになっていく。
室内に居る女官たちもその雰囲気を感じ取っているのだろう。酷く居づらそうにしているのが見えた。
「今は琴を、嗜んでおります」
なんとかこの場の空気を良くしようと別の話題へ変える。
「ところで、陛下。王女様は御元気でしょうか」
彼もフィリネグレイアの意図に気付いたのだろう。女官の方に一瞬視線を向け、直ぐに笑顔で答えた。
「ええ、一応元気にしていますよ。唯、元気過ぎて周りが大変なようですが」
「あの、一応とはどういうことでしょうか」
国王の言い回しにフィリネグレイアは不安になる。何か悪い病気にでもかかったのだろうか。
「実は漸く第一子が出来たそうです。なのにあいつは今までと変わらずお転婆なものだから侯爵が嘆いていたよ」
呆れた風に言う国王に、女官たちは今はここに居ない可愛らしい王女を思い出したのだろう。笑顔が浮かんでいる。
「まあ、お子様が…それは大変喜ばしいことですね」
雰囲気が和やかなものに戻った事にフィリネグレイアは安心する。
そこからゆっくりと、フィリネグレイアにとっては非常に長く辛い時間が無事に過ぎて行った。