彼女の趣味 この世には似た人が必ずいるのですね
先程国王に案内してもらった庭を再び訪れた。
今度はトリウェルに案内してもらいながら、心穏やかに美しい庭園を堪能するフィリネグレイア。彼女の心は、浮き立った。
「本当にここの庭園は美しいですね」
「はい。毎日庭師達が丹精込めて手入れをしてくれているおかげで、私たちはこうして心和む風景を堪能出来ます」
青年が下々の者に感謝する言葉にフィリネグレイアは肯いた。
「ええ。王宮に仕えている彼らは良い腕をお持ちです。わたくしはいくら挑戦しても彼らの様に美しく咲き誇る花々を育てる事が出来ませんでした。どうしたら良いのか何回も助言を頂いたのに」
彼女の言葉にトリウェルは驚いた。
「オイネット嬢は御自分で花々を育てなさるのですか?」
以前のフィリネグレイアだったら決してこの話を初めて会った人になど、話さなかっただろう。
だが、今はそのように自分を取り繕う事がかえって自分の首を絞めてしまう。
他の貴族ならこのような事は言わないが、国王の側近であるトリウェルにはありのままの自分を見せても大丈夫だと判断する。きっと、先程のやり取りで彼女は彼を気に入ってしまったのだろう。
味方に引き込むなら、偽らず、ありのままの自分を誠意をもって示す事。
ニッコリ天使のように微笑みながら、どこか黒いものが滲み出ていたとある人物の言葉を思い出す。
あの人は元気にしているだろうか。
「不快に感じられましたか?貴族の娘がそのようなはしたない事をすると」
悲しげな表情を作りながら、その内、フィリネグレイアは彼がどのように切り返してくるか見定めようとした。
いくらこの人なら大丈夫だと思っても、その勘は絶対ではない。更に確実とすべく、フィリネグレイアはトリウェルに攻撃を仕掛ける。
仕掛けられた当の本人は、口元に手を当て、どこか遠い目をした。
その行動にフィリネグレイアは首をかしげる。
「あの」
不安げな声で声をかけると、トリウェルは慌てて言葉を紡ぐ。
「ああ、すみません。…はしたないなどとそのような事は決して思っておりません。むしろ生命を育むという行為は素晴らしい事です」
微笑みながら彼女の趣味を誉める彼に、自分の判断は間違っていなかったという安心を一つ勝ち得た。まだ完全に信用するには値しないが。
「実は、御1人、オイネット嬢と同じように草花を自らの手でお育てになっている方を知っているのです」
その言葉にフィリネグレイアは驚いた。自分以外の貴族でそのような趣味を持っている人がいるのか。
「まあ!その方はどのような方なのでしょうか?差し支えなければお会いしたいです」
「いずれ、お会い出来ると思いますよ。それまでのお楽しみです」
茶目っけたっぷりな彼の言動にフィリネグレイアは心から笑った。
「はい、その時が来るのを楽しみにお待ちしておりますわ」