青年は苦労人
青年の呟きにフィリネグレイアは内心、どうしたものかと焦った。
だが、自分の動揺を相手に感じさせない(対国王以外)、と太鼓判をとある人物に押された彼女である。
青年はフィリネグレイアの動揺に気付く事は無かった。
「先程は見苦しいところを御見せしてしまい、申し訳ありません」
国王に対する態度とは違い、青年はフィリネグレイアに対して丁寧に礼をした。
「わたくしは不快に感じておりませんので、どうぞ顔をお上げになって下さい」
そう促すと青年は素直に顔を上げたが、まだ申し訳なさそうな表情をしている。
「あの、お名前をお伺いしても?」
「申し遅れました。私はトリウェル=ヒュマインと申します」
「フィリネグレイア=ドーテ=オイネットです。今後とも宜しくお願いいたします、トリウェル様」
笑顔で言うと、トリウェルも優しい笑顔を返してくれた。それを見たフィリネグレイアの心には双子の兄の事と切なさが浮かんだ。
彼女の双子の兄であるロベルトは、フィリネグレイアと国王の結婚に対して反対していた。
結局最後まで兄を完全に説得する事が出来なかったのは残念だ。
双子のなせる技なのか、昔から彼女と兄はお互いの感情を敏感に感じ取っていた。だからロベルトはフィリネグレイアの感情を今回も感じ取っていたのだろう。何時もなら彼女が決めた事に反対しない兄があんな風に反対したのは。
「こちらこそ、宜しくお願いいたします。それから、どうか私の事はトリウェルと御呼び下さい。お仕えする方に敬称を付けて呼ばれるのは…私が陛下に怒られてしまいます」
最後の方は少し声を抑えて、内緒話をするように言われた。
そんな彼の行動に自然とフィリネグレイアは笑った。
「あら、貴方様がお仕えするのは陛下だけではないのですか?それに後々貴方様は私の先生の一人となられるのですから、敬わないと」
彼の態度に触発され、フィリネグレイアも茶目っけたっぷりに返す。
「それは残念です。でも、オイネット嬢に敬称無しで呼ばれた日には陛下に殺されそうだ」
くつくつと笑う彼は言葉とは裏腹に、楽しそうだ。
その言葉に色々つっこみを入れたいが、ぼろを出す訳にもいかない。なので、あえて気にしない。
兄に似た彼に安心してしまったのだろう。思わずため息を吐いてしまったフィリネグレイアは、あわてて口に手を当てた。
「お疲れの様ならお部屋へご案内しますが」
フィリネグレイアの行動を疲れたのだろうと思ったトリウェルが、彼女の自室となる部屋に案内しようかと提案してきた。
あわてて彼女は否定する。
「いえ…庭園を、案内していただけないでしょうか。先程陛下に案内していただいたのですが、会話の方に集中いてしまって道を覚えられないかったので」
フィリネグレイアが申し訳なさそうに言うと、トリウェルは笑顔で了承する。
「お安いご用です」