己に理解出来る範疇を超える人が、複数居たなんて
結局、国王はさっさと庭の散策を切り上げて屋内に戻った。
フィリネグレイアはもう少し庭を見たいと告げたが、気持ち悪い笑顔を張り付けたまま無言で一緒に連れてこられた。
先程の部屋に戻ってくると父親の姿はなく、代わりにフィリネグレイアと同年代だと思われる容姿をした青年が佇んでいた。
「始まったのか」
国王が言った言葉に青年が肯く。
「はい。先程迎えの者が参り、会議室に向かわれました」
己の父親の事を話しているのだろうと予想できたが、何が始まったのかフィリネグレイアは分らなかった。
この国では各大臣たちが自分の専門の分野を担当し国政を運営している。会議を開いて大臣全員で話し合うのは国の重要事項を決める時である。
と言う事は国全体に関わることを話し合ってるのだろう。
つまり・・・。
「私たちの」
その時、フィリネグレイアの言葉を遮るほどの大きな音を立てて、扉が開いた。
「陛下!此方にいますか!?」
慌ただしく部屋に入り込んできた人物に、全員の視線が集まる。
「ああ!やっぱり此方にいらしたのですね。何やっているんですか、もう会議が始まりますよ!」
周りの視線もなんのその。恐らく国王の側近なのであろう青年が国王の元へ向かう。
彼の行動に驚き、フィリネグレイアの思考は一時停止した。
「今朝も言ったではありませんか!会議には国王陛下も参加しなければならないと。さあ、行きますよ」
そう言いながら国王の背後に周り、背中を押す。
一臣下がこのような行動をしても国王や青年は咎めない。
国王はすごく嫌そうな表情をしたが。
「分かった、トリウェル。行くから押すな」
「だまされるなウェル。陛下はフィリネグレイア様を巻き込んで、逃げるつもりだ。」
今まで青年の奇行に注意が行っていた為、フィリネグレイアは第三者の入室に驚いた。しかも、その人物は国王が自分を連れて逃げるつもりだという。
何故そのような事が分かるのだろうか。
第三者の忠告に、青年はピタッと数秒止まり、次の瞬間、フィリネグレイアの方を向いた。
「オイネット嬢、宜しければ陛下に代わり私が城内をご案内させて頂きます」
優雅に礼をして言う彼の変わり様に、フィリネグレイアは瞬時にこれを断ってはいけないと判断した。
「御迷惑でなければ、是非お願いいたします」
と笑顔でその申し出を受ける。
「という事で、オイネット嬢の了承も得ました。陛下は心おきなく会議に出席してきて下さい、今すぐに」
フィリネグレイアと逃げ出すつもりだったのなら、彼女をガードしてしまえ。そういう考えなのだろう。今だ未練たらたらなのか、国王はじっと青年を見る。
そこからちらりとフィリネグレイアに視線を移した後、小さく息を吐く。
「会議場に行くぞ、クロード、イリア」
扉へ向かう国王に、部屋の中に元々いた青年と第三者が後について行く。
彼らが部屋の外に出て、扉が閉まると、残った青年がぼそりと呟いた。
「あれは、拗ねてるな」