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疲れていても、会いたい人

 あれから宴の準備のために6時間も時間をかけた。

 普段着に着替え、ぐったりとソファに身を沈めているフィリネグレイアに、ミュレアがお疲れ様ですとお茶とお菓子をテーブルに置いた。


「本当に、毎回この長時間かかる準備にうんざりするわ」


 愚痴をこぼすフィリネグレイアに、ミュレアは笑みをこぼす。


「綺麗になる事に安易な方法は無いという事です。いい加減慣れて頂かないと」


 出されたお茶と飲みながら、フィリネグレイアはミュレアを見る。長時間の自分の準備に付き合っていたはずなのに、どうして彼女は疲れているどころか楽しげなのだろうか。

 理由を聞いてみようかとも思ったが、どうも気味が悪いので、あえて触れないでいようと決め、フィリネグレイアは目線を彼女から逸らした。


「ミュレアさん、どうしてそんなの御機嫌なのでしょうか?」


 だが、フィリネグレイア以外にも分かるほど、ミュレアはご機嫌だったようで。スチカが不思議そうにミュレアに問う。フィリネグレイアが目を逸らしたことを素直に聞く事が出来たスチカを、賞賛すべきだろうか。


「このようにお嬢様の宴の準備を手伝わせていただくのは、本当に久しぶりですので。嬉しくて」


 その言葉が暗に非難しているように感じるのは気のせいだろうか。


「え?ミュレアさんはフィリネグレイア様に5年前からずっとお仕えになられているのですよね?」


「はい。ですが、お嬢様は毎回私達に準備を一任されてしまわれるので、お嬢様とご一緒に選ぶのは本当に久しぶりなのです」


 やはり非難されているようだ。


「わたくしに衣装選びの才能がないから、公式行事に参加する際はミュレア達に衣装を任せていたの。これでも努力したのだけれど、その才能はどうにも身に付かなかったみたいで」


 努力はしてみたのだが、どうも自分が選ぶ衣装と装飾品の組み合わせはちぐはぐしているみたいなのだ。初めて公式的な宴に参加した時から、自分の姿を見て兄は毎回眉間にしわを寄せていた。似合わないのかと問いかけても、言葉を濁すだけではっきりとした返答をもらえることはなかった。

他の人に聞いてみると大丈夫だという返答が返ってきていたので頑張ってはみたのだが、兄だけではなく、他の男性にも妙な顔をされてしまった。それ以来フィリネグレイアは私的に出かける時などにしか自分で衣装を選ばなくなった。

 それでも、ミュレアやルフィエアナに頼んで美的感覚を養う努力はしてきた。


「そうですか?私は御自分に合う良い組合せをきちんとわかっておいでだと思うのですが」


「そう言ってもらえると嬉しいわ」


 無難に答えてこれ以上この話題が続くのを阻止する。


「今日は国王陛下のもとへ行かれますか?」


 ミュレアの質問に、時計を見て確認する。もうそろそろ準備をして向かわなければならない時刻になっていた。今朝の事と準備の疲れとで、出掛けたくない気持ちが大きいが、それでも時間は限られている。


「ええ、行くわ」


フィリネグレイアは、疲れのため重く感じる体を持ち上げて行動を開始した。




 数十分後、フィリネグレイアはミュレアを引き連れ、国王の執務室までやってきていた。入室の許可をもらい中に入ると、いつも通りに机に向かって国王が仕事を処理していた。


「フィリネグレイア様、こちらへ」


 今日は珍しくトリウェルやクロードが執務室で仕事をしていた。どうやら今朝言っていた仕事が忙しいのは本当の様で、笑顔で迎えてくれたクロードやトリウェルの表情に疲れが見える。


「ありがとうございます」


 ソファの方へ案内してくれたクロードにお礼を言い、ミュレアを一瞬見た後に彼に続いて歩いた。ミュレアはお辞儀をして部屋を出ていく。


「陛下はまだ休憩なされないのですか?」


 ソファに座ったフィリネグレイアはクロードに問いかけた。


「今確認していただいている書類が終われば休憩に入られます。もう少しお待ち下さい」


 フィリネグレイアにそう言うと、クロードは自分の机に戻っていった。

 特に何もすることがないので、フィリネグレイアは窓から外を見つめた。今日は少し雲が多くどんよりとした空だ。雨が降ったら庭が潤い、晴れたら日の光で植物が栄養を作る事が出来る。だから、どちらの天気もフィリネグレイアは好きだ。しかし、曇りだと昔から気分が沈んでしまう。

 これ以上空を見ていても気分が沈むだけだと、視線を室内に戻す。ふとそのまま国王の方へ向けると、彼がフィリネグレイアの方を見ていた。


「休憩されるのですか?」


 仕事は一段落したのだろうかと問いかけるが国王は首を振る。


「いや、もう少しかかる」


 それだけ言うと再び書類へ目線を戻した。

 何だったのだろうと首を傾げながら、フィリネグレイアは疲れによって湧いてきた眠気と戦う。しかし、いつの間にか、彼女はうとうとと眠りに入りかけていた。そこに誰か彼女の頬を触る。突然の事にフィリネグレイアは大きく体を揺らした。まだ視界がまだはっきりとしないので瞬きをすると、直ぐ近くに国王がいた。


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