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動揺から立ち直りました。

 部屋に戻ってから一時間ほど経った頃、誰かが扉を叩く音が部屋に響き渡った。


「どうぞ」


 入室を許可する。読んでいたページにしおりを挟み、本を閉じた。入って来たのはミュレアで、彼女は椅子に座っているフィリネグレイアのもとまでやって来た。


「お嬢様、陛下から言伝を受け賜わって参りました」


 無言で先を促すと、ミュレアは国王からの伝言とやらを話し始めた。

「明後日、いつもの時間より一時間程早くに執務室に来るようにと」


「そう、ありがとう」


 恐らく自分と共に仕事をするという人たちとの顔合わせだろう。思ったより早く日程が決まったという事は、前々から準備はしていたということか。

 本を開き、読んでいた途中のところから進めようとした。だが、用事が済んだらすぐ退室するかと思っていたミュレアがまだとどまっている。何か他に用事でもあるのだろうかと再び本を閉じてミュレアを見ると、彼女は何とも複雑そうな表情をしていた。


「どうしたの?ミュレア」


 言いたい事があるが、それを言いよどんでしまっているミュレアに、フィリネグレイアはただ黙って彼女が話すのを待つ。


「お嬢様が国政に参加されると、陛下からお聞きしました。今回の伝言も、部下となる方々との顔合わせであると。本当でしょうか」


 言いにくそうにしていたので、てっきり部屋に戻って来た時の動揺を気づかれていたのかと思っていたが、どうやらそうではないようだ。危惧していた事とは違う事を聞かれたので、フィリネグレイアは内心安堵した。


「本当よ。それがどうかした?」


 笑顔で言い切ったフィリネグレイアにミュレアは脱力した。


「部屋に戻って来た時、いつもと違うように見えたから不安に思っているのかと思っていたけれど。そうじゃなかったみたいね」


 ミュレアが砕けた物言いになった。2人っきりの時でさえ、ほとんど崩さない従者としての姿を解いている。こういうときはミュレアがものすごく心配している時だと今までの経験で覚っているフィリネグレイアは本当の理由を言いたいが、自分でもよくわからないあの動揺をどう説明したら良いのか解らない。それに、国王の行動によって自分がひどく動揺した事をミュレアはもちろん、他の人に知られたくなかった。


「不安ももちろんあるけど、それよりもわたくしの夢がようやく叶うのだもの。楽しみでしかたないわ」


「私もフィリネグレイア様の侍女を辞して補佐に回れるよう申請しましょうか」


 ミュレアの提案にフィリネグレイアは首を横に振った。


「いいえ、ミュレアはこのまま侍女でいてもらいます」


「何故ですか」


 不満を含んだ声音でミュレアが言う。こうなる事は予想していたので、フィリネグレイアは自分の考えを彼女に提示した。


「信頼できる部下が少ない状態で貴女を侍女から外すのは得策ではないわ。貴女にはもう少し侍女や女官の人たちに紛れて情報集めに勤めて欲しいの。その合間をぬって貴女の役割を引き継げる人を育成してちょうだい。後々貴女にはわたくしの腹心として働いてもらうつもりでいますから」


「かしこまりました」


 すぐにでも彼女を補佐できる立場になりたいという気持ちをぐっと堪えて、フィリネグレイアの言葉に従う。確かに侍女を辞めてしまっては今までの様に下働きの者たちに会って話をする機会が少なくなってしまう。それに、今フィリネグレイアに使えている者たちは国王達が選んだだけあって信頼に足る人物ばかりだが、サヴィアローシャ以外は少しばかり諜報活動を行なう事に不安を感じる。少しずつ鍛えていくか。とミュレアが思案しているところに、フィリネグレイアは先程までと打って変って、何とも間の抜けた事を言う。


「そうそう、もうすぐこの本も読み終わってしまうからまた新しい物を10冊程購入したいの。新刊の中から精神学、行政、国際関係の本をピックアップしておいて。冊数が足りない様だったらミュレアがお勧めの本でもいいわ、用意しておいてちょうだい」


 可愛らしく首をかしげて頼むフィリネグレイアにミュレアは目眩がする。先程までの毅然とした態度が一変して、まるで少女の様な表情を浮かべる己の主。

 この表情を見たいと思っているのに、己の行動でどんどんその希望が離れていくあわれな人物を思い出してしまって、心の中でどうしたものかと頭を悩ませるミュレアだった。



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