国王と二人っきり。でも甘い雰囲気にはなりません。
やっと答えをもらえたが、フィリネグレイアの心を覆う靄は晴れない。
「認められたという事は、何故そのような嘘をおっしゃったのか教えて頂けますね」
「それを知って、貴女はどうするんだ」
まだ質問を質問で返すのか、この人の性分だろうかと思いながらもフィリネグレイアは答える。自分の欲しい情報の為に。
「何も。ただ、知っておきたいと思っただけです」
本当は嘘を教えられた理由にとても興味があるが、あえて素気ない態度をとる。先日の様にあまりしつこく問い詰めてしまっては、逆効果だと思ったからだ。
「もうひとつ、陛下にお聞きしたい事があるのですが」
「なんだ」
「どうして今回の宴についての情報が事前にわたくしの方へ入ってこなかったのでしょうか」
「それについては申し訳なかった。こちらも今回の事がそちらに伝わっていないと知らなかったんだ」
「ということは」
国王の話が本当だとすると、フィリネグレイアに情報が伝わらないように妨害した者がいたということだ。
彼女の言いたい事が分かったのだろう、国王が肯いた。
「ああ、首謀者は分かっている」
首謀者が分かっていると言った国王は、何故か続きを言いにくそうにしている。どうしたのだろうかと首をかしげつつ待っていると、少し困った顔をして国王が口を開いた。
「その首謀者が、ロイなんだ」
出て来た名前にフィリネグレイアは愕然とした。予想していなかったが、ある意味予想できた人物が妨害してきた事に、フィリネグレイアは自分の詰めが甘かった事を実感した。
「そんな。いまさらどうして」
「さあ。まあ、大方俺たちの結婚に反対だからだろう」
もう婚儀まで一カ月を切ってしまっているのに、何故まだ無駄な抵抗をするのだろうか。というか。
「大変お恥ずかしい限りです」
「いや、簡単な妨害で助かった。あいつが本気になったらこっちは完全に手が出せなくなる」
疲れを感じさせる国王の言葉に、フィリネグレイアは頭を抱えたくなる。
「まあ、ロイの件はクロードに任せてあるから大丈夫だろう」
「これ以降も妨害してくるようでしたら、支障が出ないよう兄を徹底的につぶしていただいて構いません」
「そんな事を言って良いのか。仮にもあいつは公爵家の跡取りだろう」
フィリネグレイアの言葉に呆れと笑いを含んで国王が言うが、彼女は不機嫌さを隠さずに直ぐに返事を返す。
「構いません。民の象徴である陛下に忠誠を誓わない者など、早々に処理しておかなければ」
「おいおい、ひどい言いぐさだな。仮にも実の兄じゃないか」
フィリネグレイアが酷く冷めた表情になる。
「兄といえど、障害となるなら排除するまでです」
「お前のそういうところはオイネット公にそっくりだな」
この言葉にフィリネグレイアは嬉しいようなそうでないような、複雑な心境になった。尊敬している父に似ているというのは素直に嬉しい。だが、古だぬきと一部で呼ばれている父に似ているなんて、なんだか自分が意地の悪い人間だと言われているようだ。
兄には幼いころから可愛がってもらっているし、一人の人間として尊敬はしている。だが、いかんせん昔から妹である自分に対して非常に過保護である。二人兄妹ならこれぐれらい当たり前なのかとフィリネグレイアは思っていたが、国王とルフィエアナを見ているとそうでもないようだ。
フィリネグレイアの結婚に対して不満はあるもののもう納得していると思っていたのに、未だに阻止しようとするとはなんてと彼女は呆れてしまう。だが、兄は今回の結婚の条件を知っているからこそ、フィリネグレイアに警告を発しているのかもしれない。
そんな事を頭の片隅で考えながら、笑顔で国王にお礼を言う。
「敬愛する父に似ていると言っていただけるなんて嬉しいですわ」
「嘘つけ。あの古だぬきに似てると言われて複雑だろう」
「そんな事、陛下に言われたくありません」
笑顔でやり取りする二人。もうすぐ夫婦になるような男女やり取りでも、雰囲気でもない。
第三者が介入しにくい空気の中、扉を叩く音が部屋に響きわたる。国王が入室の許可をすると、扉の向こうからイリアが茶器を乗せたカートを引いてやって来た。