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穏やかな休憩に


 イリアと共にフィリネグレイアは国王の執務室までやって来た。中に入ると、国王が書類の確認作業を止め、彼女たちの方へ視線を向ける。


「来たか。イリアこれが終わった分だ」


 自分が片づけた書類を軽く叩く。

 イリアが国王の机へと向かい、国王が処理した書類の束を彼から受け取った。国王は立ち上がり伸びをする。そのまま彼は執務室にあるソファに身を沈めて両目の目頭を右の親指と人差し指で揉む。それを見たフィリネグレイアは執務室内に自分たち3人しかいない事を確認すると、まだ書類の確認作業をしているイリアに話しかける。


「イリア様、少し宜しいでしょうか」


 突然フィリネグレイアに話しかけられたイリアはその顔に驚きの表情を浮かべる。だが、あえてそれを気にせず、イリアからの拒否もないようなのでフィリネグレイアは彼に近づいて小さな声で話す。自分の提案はどうだろうかと問いかけるフィリネグレイアに、イリアは一瞬国王の方を見てから肯いた。

 それを見ていた国王は、訝しげな表情を浮かべたが、特に何も言わない。

 イリアが了承してくれたことにフィリネグレイアは安堵し、笑顔で礼を述べる。


「ありがとうございます」


「いえ、こちらにも有益な事ですので。むしろ礼を言うべきはこちらです。ありがとうございます」


 この時、表情の変化が乏しいと言われるイリアが優しい笑顔を浮かべた。初めてその表情を目撃したフィリネグレイアは一瞬見惚れてしまう。すぐに恥ずかしさで顔が赤くなり、それを隠すためにフィリネグレイアは少し俯いた。

 どうやらほんの少し、彼に心を開いてもらえているようだ。自分も先程のダンスの時間のおかげか、少し彼に心を開いている。と平静を取り戻そうとフィリネグレイアは彼と自分の感情の変化を分析してみた。

 フィリネグレイアは顔を上げてもう一度宜しくお願いしますと言った後、国王と話すために彼が座っているソファへと向かう。

 彼女が向かいのソファに腰を下ろすと、国王が口を開いた。


「イリアと何を話していたんだ」


 国王と出会ってから、そう日が浅いわけではない。夫婦になる事がほぼ確定しているのに親しいと言えるほど親密な中でもないのだが、何やら彼の機嫌が良くない様だ。どうしたのだろうか?仕事が溜まっている上に疲労も蓄積しているせいだろうかと思案してみる。まあ、だからといって国王の機嫌が良くなるわけでもない。フィリネグレイアは素直に先程頼んだ用件を話した。


「休憩の時間にホホロ茶を出して頂けるよう、イリア様にお願いしました」


 国王は更に疑問が深まったのだろう、眉間に皺を寄せてしまった。

 その表情にフィリネグレイアは苦笑した。確かにこの説明だけでは分からないだろ。


「ホホロの葉には身体の疲れをとる作用があります。根気詰めてお仕事をされても効率が悪くなりますから」


 これだけ言えば伝わるだろうとフィリネグレイアはニッコリ笑ってみた。それを見ていたイリアは何やら難しそうな表情をし、国王はじっとフィリネグレイアを見つめるだけだった。

 国王が何も言わないので、余計な事だっただろうかと少し不安になるが、先程イリアに礼を言われた事を考えれば自分の行いは少なくとも咎められることではない。


「だが、ホホロ茶は入れ方が難しく美味く入れるには相当な技術が必要だと聞くが」


「はい、その点は大丈夫です」


 自信ありげに言いきるフィリネグレイアに疑問を感じているようだったが、少しの間を置いて、国王はそうかと言っただけでフィリネグレイアから視線を外した。

 まだ納得がいっていない風の国王は彼がはっきりその不満を口にするまで放っておくことにして、フィリネグレイアは自分の話したい事を話す。


「陛下、昨日アルフレア様とお話しました。その際、聞きたい事は陛下にお聞きするようにという助言を頂きました」


「ほう」


 恋人と、妻になろうとしている女性が会話をしたと聞いても、特に何の反応もなく簡単に受け流す国王の態度に疑問が確信へと少しずつ変っていく。


「アルフレアさまが陛下の恋人であるというのは嘘ですね」


 以前のように半信半疑の問いではなく、確認のための問い。


「その根拠は」


「わたくしが聞いた話では、彼は故郷に恋人がいて来年の春には彼女をこちらに呼んで結婚すると」


「それだけの情報で、俺の言った事が嘘であると?」


「いいえ。一番の確信はわたくしの護衛がアルフレア様だということです」


「何故」


「陛下がわたくしを盾にしてまで守ろうとしている方だというのに、何故わざわざわたくしの護衛にするのか。その意味が、最初は分かりませんでした。」


 国王を見て話すが、彼はフィリネグレイアが話しだす前と同じで、少し疲れを感じさせる静かな表情だ。


「騎士である彼が、わたくしの護衛となるのに不自然な点はありませんが、わたくしが陛下の妻となる条件をのんだ際に聞いたお話と矛盾が生じます。恋人の妻となる女性を守れというのはあまりにも酷ではありませんか」


「理由はそれだけか」


 パタンと静かに扉の閉まる音がした。恐らくイリアが退出したのだろう。


「他にも不自然と感じる点はいくつかありますが、大きな理由はこの2つですね」


 全て話し終えたフィリネグレイアは国王の反応を待った。すると、フィリネグレイアと視線を合わせた国王は面白そうに笑った。


「お前の言う通り、アルフレアは俺の恋人じゃない」


 ようやく、国王がフィリネグレイアの問いに答えた。



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