近くで聞いた声は 苛立つほど私を惹き付ける
父親と話していた国王の視線がフィリネグレイアに向けられた後、彼は父親にある提案をした。
「オイネット公、彼女と2人で話はしたいのだが、よろしいかな」
フィリネグレイアの嫌いな薄っぺらく胡散臭い微笑みをその顔にべったりと張り付けた国王が提案する。
「わかりました。では、私は退出させて頂きます」
腰を上げようとした父親を国王は止めた。
「いや、彼女に王宮の庭も見せてあげたいから、見ながら話をしたいんだ。公はここでゆっくり寛いでいてくれ。最近迷惑をかけたからね」
「もったいない御言葉、痛み入ります」
立ち上がって国王に深々と礼をする時、父親はフィリネグレイアに視線を向ける。
父親の言わんとしていることを分かっているフィリネグレイアは小さく肯き、国王の方を見る。
「フィリネグレイア姫、参りましょう。今の時期の我が王宮の庭は美しいと評判なのですよ」
差し出された手の上に自分のを重ね、フィリネグレイアは花咲くように笑いかけた。
「とても楽しみですわ」
ゆっくりと自分に合わせて歩く国王は庭の説明をしてくれている。
しかし、それがいつ本題に入ろうか図っているようで、フィリネグレイアにはじれったかった。
誰もいないのを確認して、睨むように国王を見る。
「国王陛下、わたくしにお話とはどのような事でしょうか」
土ではなく水中で根を育てる花々が美しく咲き誇っている場所で、フィリネグレイアは尋ねた。
「思ったより、貴女は自分の気持ちを優先させる人なのですね」
国王が浮かべた微笑みがその言葉に加わり、フィリネグレイアは不快でしょうがなかった。
「貴方に対して回りくどい事は無用だと判断したまでです」
この答えに、国王は微笑みを深くした。
「陛下、貴方はわたくしの意思を確認したいのですか?それなら不要です。わたくしは全て承知で貴方の偽りの妻となるために来ました」
「本当に貴女は、それで良いのですか?」
問うてきた国王にフィリネグレイアは心外だという表情をした。
「貴方がそれをわたくしに問うのですか?原因を作り出した当人であり、この道をわたくしに選ぶように仕向けた、貴方が」
食ってかかるフィエリネグレイアがおもしろいのか、先程のさわやかな微笑みとは違う笑みを浮かべていた。
フィリネグレイアがこの表情を見るのは3回目だが、こちらの方が自分の中で違和感がない。それはきっと始めに会った時の印象のせいだろう。
「それを言われると痛いですね」
そんな事思ってもないだろと心の中で思う。
「いやいや、本当に申し訳ないと思っているんですよ?私の我儘で貴女に負担をかけてしまいますし」
一瞬息が詰まったが、動揺を押し殺す。
「いえ、むしろ御礼を言いたいぐらいですわ」
にっこりと笑みを顔に張り付けて言うと、国王は驚いたような間抜けな表情をする。
「貴女とのこれからの生活が楽しみだ」
行き成り近づいてきたと思ったら、耳元でこう呟かれた。
これにはさすがに動揺し、身を反射的に引いてしまった。
顔が熱くなっていく。顔が赤くなっているだろうと予想できるが、混乱し始めた頭ではそれを対処する余裕がない。
むしろ叫ばなかった自分を褒めてあげたい。
「おや、今回は奇声を上げないんですね。エライエライ」
原因ににこやかに褒められて一気に頭が冷えたフィリネグレイアは、冷えたとこから沸々と怒りが湧き上がるのを感じた。
「わたくしは貴方と今まで生活してきた方々を尊敬します」
自分が出来る最大限の嫌味を含んだ声で言うが、どうやら相手には全く効いていないようで酷くしゃくだった。