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思っていた以上に心が不安定になっているようです



 ミュレアが何か言いたそうにしていたのは分かっていたが、今はなんだか無性に一人になりたかった。

 庭園に辿り着き、フィリネグレイアは一人で散策を開始する。少し進んだ所で、彼女は先日庭園で会った庭師を見つけた。


「こんにちは」


 フィリネグレイアは近寄って行き、庭師に声をかけた。庭師は作業の手を止めて振り返る。


「おや、こんにちは。今日はお一人でどうされたのですか?」


「こんにちは。一人で庭園を散策したいと我が儘を言って、侍女を置いてきました」


 悪戯をしてきた事をこっそりと教えているような気分になる。


「思っていたよりも、自由な人なのですね」


「それは貴方様にも言える事ではありませんでしょうか?」


「おや、お気づきでしたか」


「最初は気づきませんでしたが、ご挨拶に伺った際に」


「はは、私の変装は意外と分らないでしょう?」


「はい」


 明るく答える庭師につられ、フィリネグレイアの顔にも自然と笑みが浮かんだ。


「この事は内密に。あの子に知られるとそれ経由であの人に知られてしまう」


 これはフィリネグレイアにだけ向けた言葉ではなく、見えない人物にも向けた言葉であった。

 その事に気付きながらも、フィリネグレイアはそれを両方に覚られないよう、気を付ける。


「はい、分かりました。その代わりにこちらにいらした際はこのような機会を頂けると嬉しいのですが」


「私にそのような要求をしてくる人は、珍しい」


 笑いを含みながら庭師は答える。


「ずうずうしのは理解しています。それでも」


 言葉が続かないフィリネグレイアに庭師はニッコリと笑いかける。


「咎めているのではありませんよ。むしろ私としては大変嬉しい申し出です。こちらに来る際は事前に貴女に連絡を入れますね」


 庭師の答えに、フィリネグレイアは安堵した。


「ありがとうございます。ところで、カポネラの苗は元気に育っていますでしょうか」


「残念ながら半分はやはり枯れてしまいました。残ったものもその殆どに病気が付いてしまっている状態なので、どれほど残るか」


「もしお許しを頂けるなら、わたくしもお手伝いさせていただけませんでしょうか」


 突然の申し出に庭師は驚くことなく、静かに彼女を見つめている。


「理由をお聞きしても?」


 説明しようにも自分の感情が上手く言い表せない彼女は、少しの沈黙の後にぽつりと一言呟くように言う。


「わたくしも抗いたいのだと、思います」


「何に、ですか」


 静かに問いかける言葉にフィリネグレイアは自分が感じている事を言葉にしようと努力するが、上手くいかなかった。


「それは・・・すみません。今は何と言っていいか分からないんです」


 絞り出すように言葉を言うフィリネグレイアの表情は今にも泣きそうになっている。それを見た庭師は思わず彼女の頭を撫でた。


「謝る事はないですよ。でも、それが何であるのか知ることは貴女にとって大事な事だ。ゆっくりとそれが何であるのか知っていけば良い」


 庭師のその優しい言葉に、フィリネグレイアは重くのしかかっていたモノが軽くなったように感じた。


「はい、ありがとうございます」


「こちらこそ。先程の貴女の申し出ですが、ありがたくお受けします。この子たちの事宜しくお願いします」


 それからカポネラの花の世話についての注意事項などを聞いた後、庭師は時間が来たと言って帰っていった。フィリネグレイアはその姿を静かに見送る。

 これから授業だけでなく、カポネラの世話もする事が出来るようになり、忙しくなりそうだ。それは決して負担ではなく、むしろ自分の気持ちを見つめる良い機会になると感じていた。

 

 

 

 庭師と別れた後、彼女は周りに人の姿が見えないのを確認してから言葉を放つ。


「アルフレア様、近くにいらっしゃいますか?お話したい事があります。姿を見せて頂けないでしょうか」


 問いかけるが返答が無い。だが、これは想定内だったので彼女は特に気にしていなかった。ただじっと彼が現れるのを待つ。

 すると、一人の青年がやって来た。書庫で出会ったあの騎士団の青年である。


「フィリネグレイア様、貴女は御自分の立場をわきまえていらっしゃると思っていました。今ここで私と会うのは」


 アルフレアはフィリネグレイアを睨むように見つめている。そこには怒りが感じ取れた。その事に気づいていながら、あえてフィリネグレイアは彼の言葉を遮る。


「分かっています。でも、貴方様にどうしても伝えたい事と聞きたい事があるのです」


 フィリネグレイアの強い意思を感じ取ったアルフレアは、とりあえず彼女の話を聞いてみることにした。

「先程わたくしが会っていた人の事は、陛下に報告しない下さい」


 彼女の言葉にアルフレアは答えないが、それにもフィリネグレイアは何も言わない。彼が仕えている人は他の誰でもない、あの国王だ。自分の命令を聞く理由は無い。

 彼が返事をする前にフィリネグレイアは再び口を開いた。


「アルフレア様、わたくしは陛下の妻となります」


 フィリネグレイアは静かにアルフレアに告げる。これは戦線布告のようなものだ。



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