国王と直接対決、その後 侍女の暴露
部屋に戻るで、フィリネグレイアとミュレアは一言も言葉を交わさなかった。
「みんなちょっと席をはずしてもらえる」
フィリネグレイアは直ぐに部屋にいた女官や侍女たちを下がらせる。そして部屋の中でミュレアと2人っきりになったところで口を開く。
「ミュレア、わたくしはずっと貴女が心からわたくしを主として仕えてくれていると思っていました。それはわたくしの勘違いだったのかしら」
ミュレアの方を見ずに、彼女に背を向けたまま問いかける。その姿を見たミュレアは胸が痛んだ。あれはフィリネグレイアが悲しみを胸に秘めながらも己自身を守ろうと必死に耐えている姿だ。彼女をそこまで追い詰めた原因はあの上司だが、自分もその要因である事にミュレアは痛みとその中に少しの嬉しさがあった。
「確かに私は国王陛下の命を受け、お嬢様に仕える事になりました。私はその命を受け、良かったと思っています」
ここで口を閉じて間を開けたが、フィリネグレイアは何も反応しない。そのままミュレアは言葉を続ける。
「私は許される限り、フィリネグレイア様に心からお仕えします。例え陛下から暇を頂いても、フィリネグレイア様のお許しがある限り、お傍でお仕えさせて頂きます」
ミュレアの言葉にフィリネグレイアの身体が震えた。
滅多にフィリネグレイアの名前を呼ばないミュレアが彼女の名前を呼ぶ時、それは大事な事を伝える時。
フィリネグレイアはやっと彼女の方を向く。その表情は泣きそうに歪められながら、笑みも含んでいた。
「良かった。貴女がわたくしから離れていくのかと不安だったの」
その言葉に、漸くミュレアは安堵した。
この後、ソファーに2人そろって座り、ミュレアは包み隠さず全てをフィリネグレイアに伝えた。自分の生家は代々王家や国家にとって重要な人物を守る盾として存在していた事。母親が国王の乳母として城に上がり、国王とは乳姉弟である事など。
「元々、陛下からフィリネグレイア様にバレた時は全て話すように言いわれておりました」
全てを暴露したミュレアは、今までフィリネグレイアが見たことないほど晴れ晴れとした表情を浮かべた。
「もっと早くわたくしが気づいていれば、ミュレアの心労を取り除けたのに。力の足りない主人でミュレアには苦労をかけ、申し訳ないわ。貴女が今朝疲れた顔をしていたのもわたくしが原因だったのかしら」
「フィリネグレイア様にお仕え出来たこの5年間とても充実した良い日々でした。今朝は自分の無力さに嫌気がさしていたもので。ご心配をおかけして申し訳ありません」
彼女の言葉に首を振り、フィリネグレイアはミュレアの右手を取り、握りしめながらミュレアの瞳を見つめる。
「これからも宜しくお願いしますね、ミュレア」
そう言うフィリネグレイアに応えるよう、ミュレアは自分の左手をフィリネグレイアの手の上に置く。
「こちらこそ、宜しくお願い致します」
しばらく見つめあっていたが、どちらからともなく小さく噴き出して笑いあう。
「で、ミュレアだけじゃないのでしょう?わたくしの世話役として入ってきている、陛下の部下は」
「はい」
簡単に肯定するミュレア。一旦バレた後のミュレアのその潔さに、フィリネグレイアは呆れてしまう。
「わたくしの予想だと、サヴィアローシャだと思うのだけれど」
「これ以上は私からお教えする事は出来ません。本人にお聞きください」
どうやら自分の事を聞かれれば話すが、他の人の情報は知っていても話すつもりが無いようだ。
先程の和やかな雰囲気が取り払われてしまった事にフィリネグレイアは苦笑した。
ひとまずこれ以上ミュレアから情報を引き出すのは諦め、フィリネグレイアは気持ちを切り替える。
「これ以上みんなの仕事を中断させても申し訳ないわね。夕食の時間まで庭園を散策してくるわ」
「かしこまりました。お供いたします」
ミュレアが着いて行こうとしたが、フィリネグレイアはそれを拒否した。
「いいえ、一人で行くわ。貴女を行き成り呼んでしまったから仕事が残っているでしょう?護衛の方もいるみたいだし、わたくし一人でも大丈夫」
ミュレアが止めるのも聞かず、フィリネグレイアは一人で部屋を出て庭園へと向かった。
その後ろ姿を見送りながら、ミュレアは寂しさを感じた。
たとえ、きっかけが国王の命令によるものだとしても、フィリネグレイアに仕えたとこ、彼女との間に生まれた絆は自分にとって掛替えのないモノとなっている。
それが消えてしまったとは決して思っていない。だが、全てを打ち明けたとしても彼女との間に壁が出来てしまっているのは仕方がない。
溜息を吐いた後、ミュレアは気持ちを切り替えて仕事に戻った。