国王と直接対決 その2
そろそろミュレアが来ても良いころだと思うのだが、なかなか彼女が現れない。どうかしたのだろう。
不安を感じた次の瞬間、執務室に扉を叩く高い音が響いた。
国王がトリウェルに視線を向け、彼が扉を開ける。開いた扉の向こうにはミュレアが立っていた。
「侍女の役目を勤めさせて頂いておりますミュレアにございます。フィリネグレイア様のお呼びを受けて参りました」
部屋の中に一歩入り、美しく礼をとる。そのままトリウェルと一緒に国王とフィリネグレイアの方へ向かって歩く。
彼女の姿を確認した後、フィリネグレイアは国王の方へ向き直る。
「ではミュレアも来ましたし、陛下にお聞きします」
最初の問いとは違い、今回は絶対の確信を持って問う。
「ミュレアの主人は陛下ですね」
行き成り爆弾を落としたフィリネグレイア。トリウェルとミュレアは固まった。何故そのような発言が出てくるのか。
国王は困ったような表情をした後、溜息交じりに返答を返す。
「彼女は貴女の屋敷から連れて来た侍女だと聞いていますが」
「ええ、そうです。ですが、貴方が我が家に送り込んだのでしょう」
フィリネグレイアの言葉についに国王は彼女の欲しい真実をさらけ出す。
「そっちの方をこんなに早く気づくなんて、本当に貴女は面白い」
笑いをこらえながら言う国王の喋り方は、先程までの大衆向けのものから、身内にだけに使う口調に変わった。
「ということは、わたくしの言ったことが正しいと受け取って良い、という事でしょうか」
「ああ、そうだ。ミュレアは5年前、俺がオイネット家に送り込んだ」
「ミュレア、今陛下がおっしゃったことに間違いはないわね」
フィリネグレイアの問いに、ミュレアはしっかりとした声で「はい」と答えた。
彼女の答えにフィリネグレイアは少しの寂しさを感じて、瞼を閉じた。
「ミュレアがわたくしの所に送り込まれてきたと行くことは、その頃から陛下はわたくしを王妃にと考えていたのですか」
「もしかしたらという可能性しかなかった。あの時まだ君はあいつと婚約中だったからな」
「何故、わたくしなのですか」
「貴女のあの言葉で興味がわいた。それから情報を集めて確信を得るためにミュレアを送り込んだ。直接話したのは数えるほどしかないが、いつも貴女は俺の思惑の上を行く。それが面白くてな。誰かの妻になってしまったらおいそれとちょっかいを出すことが出来なくなるだろ」
「そんな理由で、わたくしは王妃に抜擢されたのですか」
「それだけじゃないさ。それだけだったら側室で十分だ。貴女には大貴族の血筋を持ち、その上国務に興味があり十分な知能もある。仕事を支えるパートナーとして十分な資格があると判断したから、貴女を王妃として迎えることにした」
「では何故、男性の恋人がいると嘘を吐いたのですか。まさか本当に同性愛者ですか」
「またその質問か。貴女もしつこいな」
「腑に落ちないからです。分からない事があったら知る、それが貴方の信念じゃないですか」
「俺はそんな事、言った覚えはない」
「ええ、陛下からお聞きしたわけではありませんから」
国王は恐らくそれをフィリネグレイアに伝えたのだろう自分の部下を見つめた。当の本人は「自分何も知りません、言ってません、聞いた事もありません」といった雰囲気を不自然なほど振りまいて立っていた。
「まあ、この真実については後々話していくとして、そろそろ俺は仕事に戻る」
そう言って国王は立ち上がり机に向かった。
もう休憩時間が終わったのか、やはり半時は国王から情報を引き出すには短いか。
「ではわたくしはお暇します。お時間を頂きありがとうございました」
まだ納得いくまで話が出来たわけでないが、フィリネグレイアは大人しく引き下がった。だが、このまま終わるつもりもない。結局一番知りたい事をうやむやにされてしまったままなのだ。
「陛下、今後この時間帯にお邪魔してもよろしいでしょうか」
「人の休憩時間を奪うのか」
「わたくしが王妃となる為に必要となる情報を得る。つまり王妃となる為の勉強の一環だと思って諦めて下さい」
少し考えた後、国王はフィリネグレイアの申し出を受けた。
「良いだろう。但し夕方の半時だけだ」
「まだ婚儀まで十分時間がありますから、十分です。では失礼致します」
国王へ礼をとり、フィリネグレイアは退出した。彼女の後ろに続き、ミュレアも部屋を出て行った。