情報収集をするために
翌日、朝ミュレアに会ってフィリネグレイアは大変驚いた。
何故か彼女が疲れ切った顔をしていたのだ。こんな彼女を見るなど珍しい。疑問に思い、彼女に問いかけてみたが何でもないとはぐらかすだけで、何も答えてもらえなかった。無理だけはするなと念を押すと笑顔で答えたので、とりあえずフィリネグレイアは彼女が話してくれるまで待つことに決めた。
さて、今日も今日とて王妃として必要な知識を付ける為、書庫へと向かう。
「おはようございます、クロード様。今日も宜しくお願い致します」
やって来たクロードへ既に椅子に座っていたフィリネグレイアは、いつも通り立ち上がり挨拶をする。
「おはようございます。本日もがんばりましょう」
そう言ってクロードは席に着く。それに続いてフィリネグレイアも席につくが、彼を見て国王の事を思い出し、フィリネグレイアは思わず気分が悪くなった。
自分が悪いと言えば悪いが、、昨日の出来事を思い出して憂鬱になるのだ。昨日の反省を生かし、今日から行動を始めようというのに、この調子では先が思いやられる。
昨日決めたことを実行するために、今日の午前の授業が終わってから、フィリネグレイアはクロードに問いかけた。
「あの、今日陛下にお会いすることが出来るでしょうか」
「陛下にお会いになられるのですか?そうですね、一番のお勧めは昼と夕方の休憩時ですね。半時ほど休憩を取られていますから、政務に影響は無いかと思います」
フィリネグレイアは仕事の邪魔とならないようにしたいだろうというクロードの配慮から、政務の間の休憩時間に会ってみたらどうかと勧められる。
「分かりました。でしたら明日の夕方にお目通りをお願いしてみます。」
国王はいつも突然フィリネグレイアのもとに現れるが、彼女はそうも出来ない。あちらはれっきとしたこの国の最高権力者であり、此方は唯の婚約者だ。彼に会うためには事前に連絡をしなければならないだろう。一回執務室に乗り込んでやってみたいが、今後の活動に支障をきたしそうだ。それにこれ以上国王の不興を買いたくない。
「お力になれたのでしたら幸いです」
笑顔で答えるクロードに、フィリネグレイアも国王の事を考え沈みそうになった気持ちを押し上げて一応笑顔で答える。この人はトリウェルのように優しい人柄に思えるが、実際は冷たい人だとフィリネグレイアは感じた。国王が浮かべる笑みと同じように、時折その笑みに温かみが無いのだ。
お礼を言いフィリネグレイアは迎えに来たトリエとともに部屋に戻った。部屋に戻り、彼女はすぐにフュレイネに国王の目通りをお願いできないかという事を伝えに行ってもらった。
その後、昼食をとり終わる頃に国王からの使いが面会の了承の返事を持ってきた。
昼食を終え、フィリネグレイアは午後の授業のため準備を始めた。午後は久しぶりにトリウェルが講師だ。彼は三日に一度経済の講師をしてくれる。
彼も授業を書庫で行うので、再びトリエとともに書庫へと向かった。書庫へ到着すると既にトリウェルが席に着いていた。
「トリウェル様、お待たせしてすみません」
講師をしてくれる彼らよりも先に来るといのが礼義だと考えている彼女は申し訳なく思い、彼に謝罪した。だが、特に気にしたようでもなく、トリウェルはフィリネグレイアを迎えた。
「いえ、調べたいことがあったので早めに来ただけですから気にしないで下さい」
「はい、ありがとうございます」
やはりトリウェルの笑顔は人の心を温かくするなとフィリネグレイアは思う。
「それでは始めましょうか」
トリウェルの言葉に頷き講義を始めた。彼の講義は穏やかに、そして時折彼が入れる話によって面白く進む。クロードや他の人の講義は淡々と事実や問題を出してくるやり方で、フィリネグレイアは内容に興味があるので大変面白いが、勉強が苦手な人たちにとっては苦痛となる授業のやり方だろう。彼は幼い子供たちに教えるのが上手いのではないだろうかと、フィリネグレイアは密かに考えていた。
「今日はこの辺で終わりにしましょうか」
トリエウェルが本日の授業の終わりを告げた。
「ありがとうございました」
「どういたしまして、フィリネグレイア様はの見込みが良いですからこちらは大変嬉しいです」
トリウェルのほめ言葉に、彼女は薄っすらと頬を染めて笑顔になる。
「そういえばこの後陛下の執務室に来られるとミュレアから聞いたのですが、一緒に向かいませんか?」
突然の申し出に、フィリネグレイアは固まった。忘れてはいなかったが、彼の口からその情報が出でくるとは思わなかった。しかし、断る理由もなければ、一旦部屋に戻ってから執務室へ行くにも微妙な時間だった為、フィリネグレイアはその申し出を了承する。
迎えに来たトリエに、トリウェルと共に国王の執務室へ向かうと言い、更にミュレアも執務室へ来るように彼女に言伝を頼んだ。
そうしてトリウェルと2人で国王の執務室へ向かっているわけだが、目的地に着く前に、フィリネグレイアにははっきりさせておきたいことがあった。
「トリウェル様、今日の面会の事をどなたからお聞きになりましたか」
静かに問いただすフィリネグレイアの様子に、トリウェルは背筋に悪寒が走った。
「え?それは、連絡が来たときに私も執務室にいましたので」
「そうですか、ありがとうございます」
トリウェルが出す少し困った雰囲気を無視してフィリネグレイアは先へ進む。フィリネグレイアの態度がいつもと違う事に、トリウェルは不安を覚えた。これから向かう先にいるあの人から、理不尽な怒りを受けないように気を付けなければと。