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癒えない傷に沈む前に 彼女は動き出す

 国王が去って行った後、ミュレアが温室まで迎えにやって来た。姉の様な存在であるミュレアを見た瞬間、溢れてくる涙をフィリネグレイアは押さえる事が出来なかった。止めどなく溢れてくる雫を受け止めるように両手で顔を覆う。


「お嬢様、どうされたのですか」


 めったに泣かない主が零した涙にミュレアは驚いて駆け寄る。少し前のめりになった背中をさすりながら眉間に皺を寄せるミュレアにフィリネグレイアは緊張の糸が切れただけだと小声で伝えた。


「陛下から好きなだけ温室に居ても良いとの伝言を頂きました。どうされますか?」


 部屋に戻るか、温室に留まるかの2択を提案するとフィリネグレイアは両手を顔から外す。


「もう少し、此処にいるわ」


「そうされた方がよろしいです。泣いて少し目が腫れていますから。濡れたタオルを持ってきます」


 一度退出しようとしたミュレアをフィリネグレイアは止めた。


「いいえ、いらないわ。それより、話を聞いて」


 先程の泣き顔から一変し、強い意志を宿した表情のフィリネグレイアを見てミュレアは居住まいを正す。


「何でしょう」


「国王陛下に私が恋人の情報を集めていると知られたわ」


「それがどうかしたのでしょうか」


「どうやら陛下の気に触ったのでしょう。これ以上詮索するなと脅されました」


 内心ミュレアは額に手を当てて天を仰ぎたくなった。


「それで貴女に貴族、平民、城内、王宮内問わず、人々の間で流れている国王とアルフレア様に関連する情報を集めてほしいのです。お願いできますか?ミュレア」


 国王に牽制されたというのに、彼女がその情報を欲しがる理由がミュレアには手に取る様に分った。だからこそ、主の望みを叶えるために己の出来ることをする。


「フィリネグレイア様の願いとあれば」


 侍女なら決してしない、直立に立ち左胸に右手を当てて礼したミュレアを見て、フィリネグレイアは笑みを浮かべて肯いた。その後すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「貴女はわたくし以上に忙しいのにまたこのような事を頼んでしまってごめんなさい。無理はしない事を約束して頂戴ね」


「はい、心得ています。でなければ、お嬢様は直ぐにご自分で行動しようとなさって余計私たちの心労が増えますから」


 溜息を吐いてそう言ったミュレアにフィリネグレイアは笑って受け流した。


「分っているならよろしい。わたくしが勝手な事をしないように無理せずしっかり働いてください。そうだわ、今度カベルに休養を取らせるようお兄様に伝えておくので二人でご両親にあいさつに行って下さい。周りも大分落ち着いてきましたし、ここ何年まともに里帰りしてないでしょう?領地に近いのにずっと王都にいるわたくしやお兄様に付きっきりだったんだから」


 カベルとはミュレアの弟であり、現在彼はフィリネグレイアの兄の右腕として活躍している。


「そうですね。新しい侍女の方々も大分なれたようですし、私が数日離れても問題ないかと思います」


 一週間ほど前、新しい侍女を募集し、新しくトーチェ、スチカ、フュレネイという少女が見習いといて入って来た。フィリネグレイアの侍女はミュレア一人であり、他に女官が専属で付いてくれてはいるが、どうしても彼女に負担がかかる。それに王妃の侍女が少ないのは問題だという事でオイネット公と宰相が手配してくれたのだ。


「では決まりね。戻ったら早速お兄様に手紙を書きます。それと思ったより早く解放されたから、明日の予習をしようと思うの。明日は確か地方行政の現状について主に行われるはずだから、関連資料を探したいのだけれど。今日は書庫を使用出来る日かしら」


「使用出来ます。午前中に確認しておきましたから、間違いありません」


「ではトーチェを連れて書庫へ向かいます。貴女は情報集めに力を入れて下さい」


「仰せのままに」


 これからの行動を決めたところで、フィリネグレイアは立ち上がり歩きだす。その後をミュレアが静かに付いて行く。

 最後までフィリネグレイアは気づかなかったが、その光景を見ながらぽつりと呟く人物が一人、温室の中に居た。


「まるで王と主を守る騎士の様だな」



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