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久しぶりの再会 お兄さまは心配です。


 しっかりと男性を見詰めて言うフィリネグレイア。

 男性はその眼差しの強さに安心する。もし彼女の決意が揺らいでしまっていたのならば、決してこの様な表情は出来なかっただろう。


「私が求めているものを手に入れるために、全てを覚悟して決断したのです。たとえ何があろうとも、わたくしはわたくしの意思の勤めを果たすだけです」


 フィリネグレイアがそういった声音からも、彼女の決意が感じられる。更に今の彼女の状態を詳しく掴んでおくため情報収集をしようと、男性は彼女に誘いを提案する。


「そうか。フィー、午後の予定は空いているかな?午後は陛下と過ごすつもりで予定を空けてもらったんだけど、どうやらあちらの方は忙しいみたいで無理だと突っぱねられてしまったんだ」


 先程まで居た国王の執務室では、何やら大量の書類に埋まっている己の主と彼を補佐する友人たちが物凄い速さで作業をしていた。これではいつものように彼にチェスの勝負を挑めないと男性は諦め、早々に退室してきたのである。


「申し訳ありません、ラオ兄さま。わたくしも午後から授業がありますので」


 フィリネグレイアも久しぶりに会えた男性と多く話をしたかったが、今後の予定があるので断る。だが、心のどこかで安どしている自分がいることを彼女が自覚していた。なぜなら、彼に己でも自覚していないことを掘り出されてしまいそうな予感がして、怖かったのだ。


「そうか、それは残念だけど仕方ないね」


 残念そうな笑顔を男性が浮かべたところで、彼らの会話を中断させる言葉をミュレアが放つ。


「お嬢様、そろそろお食事のお時間です」


 もうそんなに時間が経っていたのかと驚きながら、フィリネグレイアは目の前の男性との会話を終わらせる。


「それではラオ兄さま、わたくしはこれで失礼させて頂きます。また王宮にいらっしゃることがありましたら是非お声をおかけ下さい」


 綺麗な礼を男性に行う。

 男性にはそれが自分との会話を打ち切りたいと彼女が思っているように見えて、少しの淋しさを感じた。

 しかし、男性はそれを主張する権利をとうの昔に捨ててしまったのだと己を戒めた。自分が今の立場を手に入れるために、大切な彼女を切り捨てたんだ。一瞬男性に切ない感情が浮かんだが、それを自覚している男性は静かに目を閉じた。それでも、大切な妹のような存在の幸せを願ってやまない彼は一つの方法を思いつく。


「ああ、勉強に夢中になりすぎて体を壊さないよう気を付けるんだよ」


「ラオ兄さまもお身体には気を付けて下さい」


 そういうとフィリネグレイアはミュレアを引き連れて部屋へと戻って行った。彼女の後姿を見詰めながら、男性はずっと近くに感じていた気配に向かって周りに人が居ないことを確認してから言葉をかける。


「彼女のこと頼んだよ」


 自分の言葉に応えるような気配を感じた後、男性はフィリネグレイアの向かった方向と反対の方角へ体の向きを変え、歩き始める。少し先に進んだところで、男性は側近の一人であるイリアと出会った。


「あれ?こんなところでどうしたんだ。さっき執務室で忙しそうにしてたのに」


 男性の問いに、イリアと呼ばれた青年はいつも通りの無表情のまま答える。だが、その声音に少し不満の色が含まれていることが男性には分った。


「ここは執務室から見える位置ですよ」


 暗に己の主が、先程の2人の会話を見ていたと言って来た。あの忙殺されそうなほどの勢いで仕事をしていたのに、良く気づいたものだと男性は改めて感心した。


「あの人は、そんなに心配なら素直になればいいのに」


「それが出来ていれば優秀なあの方のことだ、こんな回りくどい方法をとりはしないだろう」


 どうして彼女に対してそれが出来ないのかとイリアは溜息を吐く。男性もそれには同意するが、イリアと違って既に諦めの域に達している。目頭を押さえて何やら耐えている青年に、男性は労わる様に肩をたたいた。


「まあ、不器用な主人を補佐するのも俺たちの役割という事かな。頑張りましょうよ、お互い。それじゃ、行こうか」


「帰られるのですか」


 イリアの問いに、男性はにやぁと人の悪い笑みを浮かべる。それを見たイリアは、この人何か迷惑な事を考えついたなと嫌な予感を覚えた。その予感は青年の当たってくれるな!というささやかな願いを打ち砕き、見事に命中する。


「いやぁ?面白いことになっているだろうあの人のと、こ、ろ」


 恐らくからかいに行くのだろう。唯でさえどっかのバカのせいで不機嫌なのに、これ以上は止めて欲しいものだとイリアは呆れた顔を男性に向けた。


「あの方で楽しまないでください。臣下でしょう、貴方は」


「大丈夫、ちょっとからかうだけだから」


 その“ちょっと”が厄介なのだが、もうそれを主張してもこの男性は止まらないだろう。出てきそうになった溜息を押しとどめて、イリアは執務室へと戻るため歩き始めた。




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