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令嬢と庭師の会話 そして久しぶりの再会


 ミュレアを引き連れて先程庭師の姿を見た場所へ戻ると、まだ庭師は作業を行っていた。そのことを確認したフィリネグレイアは、いそいそと庭師のもとへ向かっていく。


「すみません」


 フィリネグレイアが声をかけると、庭師は作業の手を止め振り返る。そして彼女を見てその顔に驚きの色を浮かべるも、すぐにそれを笑顔に変えて穏やかに応えながら立ちあがった。


「こんにちは。何かご用でしょうか?お嬢さん」


 初めて会う貴族に対して少し軽い対応にフィリネグレイアは少し目を見開いたが、特に何も言わず笑顔を浮かべる。


「こんにちは。お仕事のお邪魔をしてしまって申し訳ありませんが、何をしてらっしゃるのか気になりまして」


「ああ、これですか?」


 庭師は振り返って自分が作業していた場所を見る。

 

「カポネラの苗を植えていたんです」


 庭師の言葉にフィリネグレイアは驚いた。


「まぁ、あのカポネラの苗をですか?育成が大変難しく人工的に育てることは出来ないと聞き及んでおりましたが」


 自然界でしか育たない植物を、人の手で育てることが出来たという事実にフィリネグレイアは目を輝かせる。己の手で自然と同じように命を育めるのは素晴らしいことだ。フィリネグレイアの反応に庭師は笑顔を浮かべたが、その表情には憂いの色が見える。素晴らしいことを実現しようとしているのに何故このような悲しい表情をしているのだろうか。


「本当は、この様に人の手で自然の理を変えてしまうようなことをして良いのだろうかと随分悩みました」


「自然の理、ですか?」


 庭師の言葉にフィリネグレイアは疑問を覚えた。


「はい。ここに植えてある植物はみなこの地でも病気などに気を付ければ、問題無く育つものです。しかし、この花は違います。これは魚すら住めないほどに澄んだ水があるところにしか生息しません。ですが、人の住む場所でそのような環境があるはずがない。だから人工的に育成出来なかった」


「つまり、貴方はこの植物の生態を変えた、ということですか」


 フィリネグレイアの発言に庭師は悲しそうにほほ笑んだ。


「ええ。もしかしたら、私はひどく罪深い事をしてしまったのかもしれません。いや、してしまったのでしょう。それでも」


 そう言って目を細めた庭師は、言葉をそれ以上続けずに口を閉ざした。それを見ていたフィリネグレイアは、無意識言葉を紡ぐ。


「それでも、やり遂げたい信念を、想いをお持ちになっていたのですね」


 彼女の言葉に庭師は唯ほほ笑んむだけで何も言わなかった。その様子にこれ以上作業の邪魔をしてはならないとと判断したフィリネグレイアは、庭師に礼を言う。


「お話を聞かせて下さってありがとうございます。午後から用事がありますのでこれで失礼させて頂きます。あまりご無理はされないようお気をつけ下さい」


「お気使いありがとうございます。またお会いできるのを楽しみにしています」


 庭師が今度は憂いのない清々しい笑顔で応えてくれた事にフィリネグレイアの顔にも自然と笑顔が浮かんだ。


「こちらこそ。ではまた」


 最後に礼をしてフィリネグレイアとミュレアは部屋へ戻るため城内へ戻った。





「そこにいるのは、もしかしてフィー?」


 部屋に戻る廊下の途中で背後から聞こえてきた声に、フィリネグレイアは驚きとともに反射的に体を反転させる。彼女の視線の先には神官の服装をした背の高い男性が立っていた。


「ラオ兄さま」


 ここにいるはずのない人物が目の前にいることに驚いたあまり、彼女は相手の名前を呟いた。

 そんな彼女に気付いているだろう男性は笑顔でフィリネグレイアに近づく。


「やっぱり、フィーか。それにミュレアも。久しぶりだな、元気そうでなによりだ」


「はい、お兄様もお元気そうで。お会いできて大変うれしいです」


「ご無沙汰しております」


 久しぶりに会えた、年の離れた兄として慕っていた青年。彼が昔と変わらず自分のことを愛称で呼んでくれたことが嬉しくて、フィリネグレイアは笑顔で答える。フィリネグレイアの後ろに付いて来ていたミュレアも、男性とフィリネグレイアの間に入らないよう体を脇にずらしてから深くお辞儀をする。


「ところでラオ兄さま、どうしてここにいらっしゃるのですか?」


 神官である彼は国教の本殿である大神殿で務めていると双子の兄から聞いていた。その彼が何故王宮にいるのだろうか。


「私は王宮によく来るよ?大神官様にこき使われていて、陛下への連絡役を任されているんだ」


 笑顔で兄から告げられた事実にフィリネグレイアは驚く。


「まあ。では、今ここにおられても大丈夫なのですか?国王陛下へのご連絡は」


「ああ、大丈夫。もう仕事が終わってね。フィーが王宮に入ったと陛下から伺ったから様子を見に来たんだ」


 男性の言葉にフィリネグレイアは微かに眉間に皺を寄せる。それを見た男性は話の方向を変えた。


「ロベルトから聞いていたが、本当にあの事を承諾したんだね」


 男性の声が、先程までとは打って変わり、厳しさを含んだものに変化した。なぜか体を固くしてフィリネグレイアは頷いて答える。


「はい。だから、わたくしが再びここにいるのです」







 表現のおかしいところがあったので修正。それに伴いところどころ書き変えました。

 誤字脱字などありましたら、教えていただけると有り難いです。

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