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我はスライム! ~とあるスライムによる学園観察日記~  作者: おきくと二郎
【第2章】「王立魔法学院のオス個体たちの求愛行動がヤバすぎて理解不能だった話wwww」
9/21

【第9話】フラグ建築士

 今日は朝から、学院内の恋愛の「気配」を感じ取ることに集中してみた。

 エルヴィン君とリリア嬢以外にも、恋愛中、もしくは恋愛予備軍のペアがたくさんいるはずだ。


 そして俺は、とんでもないものを発見した。

「恋愛フラグ」である。


 中庭のベンチで、一人の女子学生が本を読んでいる。

 そこに、一人の男子学生がやってきて、わざとらしく同じベンチの端に座った。

「あ、その本、僕も読んだことあります」

「え?あ、はい...」

「面白いですよね。特に第三章の魔法理論のところ」

「そうですね...私もそこが一番興味深いと思いました」


 おお、これは「共通の趣味アピール作戦」だ!

 男子学生(オス個体B)は、偶然を装って接触のきっかけを作り出している。

 でも女子学生(メス個体B)の反応は微妙だ。礼儀正しく応対しているが、特別な関心は示していない。

 オス個体Bはそれに気づかず、話を続ける。


「今度新刊が出るらしいですよ」

「そうなんですか」

「もしよろしければ、一緒に本屋さんに見に行きませんか?」


 きた!誘いの瞬間だ!

 でもメス個体Bの表情が曇った。


「あ、えーっ

「あ、えーっと...ちょっと忙しくて...」

「そうですか...残念です。また今度機会があれば...」

「はい...それでは失礼します」


 メス個体Bは本を閉じて、そそくさと立ち去ってしまった。

 オス個体Bは一人ベンチに残される。肩を落として、がっかりしている。

 うーん、これはフラグ建築の失敗例だな。


 オス個体Bの戦略を分析してみよう。

①まず、共通の話題で接近。これは悪くないアプローチだ。

②次に、共通の活動への誘い。これも基本的な恋愛戦略。


 でも何がいけなかったんだろう?

 観察していて気づいたのは、タイミングの問題かもしれない。

 メス個体Bは一人で読書を楽しんでいた。つまり、「一人の時間」を求めていた可能性が高い。

 そこに突然話しかけて、さらに誘いまでするのは、相手のペースを無視した行動だったのかもしれない。

 エルヴィン君の場合は、リリア嬢が困っている時に助けを申し出た。相手のニーズに応える形でアプローチした。

 でもオス個体Bは、自分の話したい気持ちを優先して、相手の状況を読めなかった。


 恋愛における「空気を読む」能力の重要性を実感した瞬間だった。

 その後、食堂で別のパターンを発見。

 テーブルで楽しそうに談笑している男女の混合グループ。その中に、明らかに『特別な関係』の二人がいる。


「今度の課題、難しいよね」

「大丈夫、一緒にやろうよ」

「ありがとう、助かる」

 表面的には普通の会話だが、二人の間に流れる空気が違う。

 視線の交わり方、座る距離、話しかける頻度。全てが他の友達とは微妙に異なっている。

 これが「暗黙の特別関係」ってやつか。

 まだ告白していないが、お互いに特別な感情があることを薄々感じている段階。


 周りの友達も気づいているようで、時々意味深な視線を交わしている。

「あの二人、いい感じだよね」

「うん、お似合いだと思う」

「でもまだ付き合ってないんでしょ?」

「もうすぐじゃない?」

 恋愛は個人的な体験でありながら、周囲の人々も巻き込む社会的な現象。

 友達が恋愛を応援したり、噂したりすることで、当人たちの関係にも影響が生まれる。

 これを「恋愛の社会的圧力」と名付けよう。

 良い方向に働けば背中を押してくれるが、悪い方向に働けば関係を壊すこともありそうだ。



 午後、図書館でエルヴィン君とリリア嬢の続きを観察。

 今日は昨日約束していた「一緒にお昼」の日だ。

 二人は図書館の隅のテーブルで、お弁当を広げている。


「僕の手作りなんです。よかったら、おかずを少し...」

「ありがとうございます。私も、パンを作ってきました」

「えー、自分で作ったんですか?すごい!」

 

 食べ物の共有。これも重要な恋愛行動だ。

 動物界でも、〈食べ物を分け合うこと〉は親密さの表現として使われる。

 でも人間の場合は、単なる栄養供給ではなく、「心遣い」や「技能のアピール」といった複層的な意味がある。

 エルヴィン君は自分の手料理を分けることで、自分の家庭的な背景をアピールしている。


 リリア嬢は自作のパンで、自分の家事能力をアピールしている。

 お互いに「将来のパートナーとしての価値」を暗示しているんだな。


「故郷はどちらなんですか?」

「王都から馬車で半日ほどの小さな町です。リリアさんは?」

「私は王都の生まれです。でも、小さな町って素敵ですね」

「そうですか?僕は都会に憧れてたんですが...」


 互いの背景を探り合っている。これも恋愛の重要なプロセスだ。

 相手がどんな環境で育ち、どんな価値観を持っているかを理解しようとしている。

 長期的な関係を考えるなら、価値観の一致は重要な要素だからな。

「将来はどんな魔法使いになりたいですか?」

「故郷に戻って、みんなの役に立ちたいと思っています。リリアさんは?」

「私は...まだはっきりとは決まっていませんが、研究者になりたいかもしれません」

 互いの将来設計も確認している。

 これは実用的な情報収集でもあり、同時に相手に自分の価値観を伝える行為でもある。

 エルヴィン君の「人の役に立ちたい」という価値観と、リリア嬢の「知識を追求したい」という価値観。

 一見異なるようだが、どちらも建設的で前向きな目標だ。

 価値観が完全に一致する必要はないが、互いを尊重できる範囲内での相違であることが大切なんだろうな。


「エルヴィン君って、優しいんですね」

「そんなことないです...ただ、人が困ってるのを見ると放っておけなくて」

「それが優しさだと思います」


 リリア嬢がエルヴィン君の人格を評価している。これは重要な進展だ。

 恋愛は外見的な魅力から始まることが多いが、最終的には人格的な魅力で決まる。

 リリア嬢がエルヴィン君の内面を見て、好意的に評価している。これは良いサインだ。


「リリアさんも、いつも真面目に勉強されてて、尊敬します」

「真面目すぎて、つまらないかもしれませんが...」

「そんなことありません!目標に向かって努力する姿が素敵です」


 エルヴィン君も、リリア嬢の人格を褒めている。

 お互いの良い面を見つけ、言葉にして伝え合っている。

 これが「相互承認」ってやつか。

 恋愛における重要な要素の一つだな。相手から認められることで、自己肯定感が高まり、相手への好感度も増す。

 正のフィードバックループが形成されている。

 昼食後、二人は一緒に図書館を出た。


「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」

「こちらこそ。また今度、ご一緒できれば...」

「はい、ぜひ」


 自然な流れで次の約束に繋がっている。

 これは順調な恋愛の進展パターンだ。

 一回の接触が次の接触を生み、関係が段階的に深まっていく。


 夕方、別の恋愛パターンを発見。

 学院の屋上で、一人の女子学生が夕日を見ている。

 そこに男子学生がやってきて、無言で隣に立った。

 二人はしばらく黙って夕日を眺めている。


「きれいだね」

「うん」

「今日も一日お疲れさま」

「ありがとう。君も」


 短い会話だが、二人の間には深い理解がある。

 これは既に恋人同士なのか?それとも、言葉にならない特別な関係?

 観察していると、どうやら後者らしい。

 二人は長い間の友達で、最近お互いを異性として意識し始めた段階のようだ。

「最近、君といると、なんだか落ち着くんだ」

「私も...変だよね?」

「変じゃないよ。自然なことだと思う」

「うん...」


 これは「友情から恋愛感情への転換点」だ!

 長年の友情が恋愛感情に発展する瞬間を目撃している。

 エルヴィン君とリリア嬢のような「一目惚れからのアプローチ」とは全く違うパターンだ。

 既に相手のことをよく知っているからこそ、慎重に関係を変化させようとしている。


「僕たち、ずっと友達だったけど...」

「うん...」

「もしかして、それ以上の関係になれるかもしれないと思うんだ」

「私も...同じこと考えてた」


 友情ベースの恋愛の特徴は、相互理解が既に深いことだ。

 告白の際のリスクも低い。しかし、最悪の場合、友人関係も失う可能性がある。でも逆に、関係を変化させることへの慎重さもある。

 友情を失うリスクを考えると、なかなか踏み出せない。

 この二人は、そのジレンマを乗り越えようとしている。

 今日一日たくさんの観察を終えて、俺は恋愛のパターンについて新しい発見をした。


 恋愛には複数の発展パターンがある:


一目惚れ型:視覚的魅力からスタート(エルヴィン君パターン)

共通趣味型:趣味や関心事からスタート(失敗したオス個体Bパターン)

友情発展型:長期の友情が恋愛に転化(屋上カップルパターン)

環境共有型:同じ環境で自然に親密になる(食堂グループパターン)


 それぞれに特徴があり、成功の条件も異なる。

一目惚れ型は情熱的だが、相手を理解する時間が必要。

共通趣味型は自然だが、相手のタイミングを読む能力が重要。

友情発展型は安定的だが、関係変化への勇気が必要。

環境共有型は自然だが、周囲の影響を受けやすい。

人間の恋愛は、本当に多様だ。


 そして、どのパターンでも共通して重要なのは:

・相手への思いやり

・相互理解の努力

・適切なタイミング

・継続的なコミュニケーション

 これらの要素が揃った時、恋愛は美しく発展していく。

 逆に、これらが欠けると、どんなに強い感情があっても失敗してしまう。

 恋愛は感情だけじゃない。技術でもあり、芸術でもあり、学問でもある。

 俺の恋愛研究は、まだまだ続く!

 明日はどんな新しいパターンに出会えるかな?

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