9.デキレース反省会
舞踏会翌日の人払いされたとある密室に、首謀者と当事者がひっそりと集まっていた。
「やはり漏れていましたね」
テヘペロ、と、おどけてみせるシルベーヌ。
「ホント、こういうトコロだけは耳も対応も早いわね」
ため息交じりに呆れ顔のロアンヌ王妃。
いつも派手に着飾って我先にと目立つアピールをするデュワーズ公爵令嬢やラフロイグ侯爵令嬢が妃を探すと銘打った舞踏会で控えめに振舞っていたのは、腕輪の効果を知っていたからだろう。
候補者全員の手に付けた白い花輪は、王宮直轄の組織で開発された魔法植物と言われる特殊な花で、人の持つ感情を色に表す。人を見下したり貶めたり、また嫉妬や不安などのマイナス感情が強くなれば青くなり、逆に親切にしたり誉めたり、感謝したり安心することで赤く変化するのだ。
それぞれの感情が強いほど色は濃くなり、危害を加えたりマイナスの一定レベルを超えると切れる仕組みになっていた。
王城へ着いた時点で、腕輪が無い者は強制退場、青くなっている者は王子と踊る機会の来ない庭園へと案内されていたのだ。
かの令嬢たちは、本来の性格からするとよくて庭園、へたをすれば退場もあり得るはずだったが、どこかで腕輪の情報が漏れたらしく、ちゃっかり広間へ通され、しっかり王子と踊っていたのだから抜け目がない。
腕輪の効果はつけている間だけだから、事前に知って対策できれば、その場しのぎでも通用してしまう。ここで振るい落とせれば楽だったが、長年、高位貴族なだけあって、そんな知恵だけは回るらしい。
「おかげで即決には至りませんでしたが、これから一年は親子共に学習していただく良い機会ですよ」
ほっほっほ、と余裕の笑顔なのはナンネン宰相。
「・・・で、どうして僕だけ除け者だったんですか?」
この三人には敵わないと、諦め顔のクラン王子。
「あらクラン、相談したって苦手分野じゃ出る幕ないでしょ?」
「あなたはドンと構えていればいいんですよ」
王妃とシルベーヌは、顔を見合わせてしれっと言ってのける。ああ、早くも二代に渡って尻敷かれパターン確定な感じ。まぁ大人しく流されるのも、信頼あってこそだ。
ここは三つの大国に囲まれた弱小国家ルーモス、大戦は歴史上の出来事となり、独立を保つ努力は薄れ、ほとんどの貴族をはじめ国民たちは、薄氷の上とも気づかず日々の平和をただ享受することに慣れてしまっている。
今はたまたま強国が三つ巴状態にあり、周辺国家と比べて唯一の先端技術を持つ魔法薬学を切り札に独立を保てているにすぎない。
国家たるもの常に自国の安泰と繁栄を目指して運営されており、バランスを保つ努力を怠ると、相手によっては攻め滅ばされることも属国として使役されることもあり得るのだ。
王国である以上、王族なんてその矢面に立ちながら国の舵取りを担う、失敗の許されない貧乏くじポジションでしかない。
なのに先日の舞踏会フィーバーから分かるように、ほとんどの国民にとって王族とは唯一無二の尊い存在で、王妃なんぞ人生勝ち組の玉の輿代名詞という認識でしかないのだ。
まさに平和ボケ、未来永劫その地位と権力は保証され、富は揺るがない前提な思考が蔓延しているらしい。
王族を中心に血縁の近しい家柄が政治の中枢を担っているが、血縁者だからと歴代に渡って等しく能力に恵まれているわけではない。
どころか、いつの間にかただ地位に胡坐をかく輩が、努力の代わりに権力を振りかざすようになってきている。
王子妃、いずれ王妃ともなれば王国の顔だ。某即売会で販売される自費出版本の釣り表紙じゃあるまいし、その場しのぎの容姿や取り繕った性格で選べるわけがない。
弱小国の王族なんて、実態は一生贅沢三昧な暮らしどころか、一生滅私奉公に近い。無知や勘違いで大勢を巻き込むリスクがあるのに、それすら理解できないお花畑に割って入るゆとりなどないのだ。
「一年で石頭を変革できるかしら?」
「年寄りは無理でも、若い子は柔軟で素直よ」
「そのための試験実施ですよ、実力差を思い知れば現実を見るでしょう」
あれこれと意見を出し合って調整し、離宮での王子妃決定スケジュールが決まる。これは舞踏会で選んだ候補から妃を決めるためではなく、妃はシルベーヌだと思い知らせるための離宮合宿である。
王子と愛をはぐくんだもの勝ち、などとおとぎ話レベルの勘違い令嬢には、コスメやグルメの動画ばっか見てないでニュースくらい見て勉強しろ、とゆーノリで思考を矯正する予定だ。
そうして特に身分も鼻っ柱も高いご令嬢たちに、自ら敵わないと身を引いてもらうための企画なのだ。
ついでに乏しい人材を補強できるような、原石発掘も兼ねている。身分や性別に捕らわれず能力を発揮できる仕組みを構築したいのだが、そのための人材も心許ないのが現状だ。
周囲の大国も、いつまでも友好的に静観してくれるとは限らない。友好国としての価値を示し、共存共栄できる国として信頼し続けてもらわねばならないのだ。
「このラミー・グレンリベットは面白そうだったわ」
最終候補者の書類を確認しながら、シルベーヌが取り上げる。
「グレンリベット・・・確か知恵者の先代が亡くなってから一気に転落した伯爵家ですね。この数年は、社交界でも名を聞かなくなっていましたが、年頃の令嬢がいたのですね」
書類を受け取り、ふうむと顎をなでながら眺める。実際に面識はほとんど無かったが、先代は実直で勤勉、野心とは無縁の穏やかな人物だったと記憶している。
「どんなところに興味を持ったのかしら?」
面白そうに王妃が尋ねる。
「すんごい美少女なのに、全く擦れてないの。というか、根っからの苦労人臭がしたわね」
う~ん、とシルベーヌは頬に人差し指を添えて思い出す。
「アラ、ギャップ萌え系?」
ほほほ、と楽しそうに王妃が笑った。
「ぷっ・・・そう、そんな感じです」
思わず吹き出して同意しつつ、
「けど、磨けば絶対光るわ。かなりの原石よ」
自信をもって推しにかかる。すっかりお気に入りの、絶対に身近に欲しいお友達候補になっているらしい。
「サーシャ・ハクシューは学問に目がないようですし、チェルシー・ボウモアは商家の娘で他国の情勢に詳しい、ポルテ・タリスカーは町の食堂で働いているそうだが、努力家で度胸がある。要は身分だけ高い残念令嬢たち以外は、見どころがあるということですな」
宰相がサクっとまとめると、
「ええ、なのに現状だと女のくせに生意気だと言われて浮かばれない少女たち、という訳ね。それはぜひ引き抜かなくちゃいけないわ」
王妃はにっこりと微笑んだ。相変わらず、同席しているだけで影の薄い王子は、会話に入る隙すらつかめない。
けれども、特に反対する必要もなさそうなので、無言で同意しておくことにしたところ、
「という訳よ、クラン?」
いきなり話が飛んできて、
「あ、ああ。それでいい」
短く返事をする。
三人は顔を見合わせて王子に向き直ると、王妃が念を押した。
「あなたの将来の話ですよ?婚約者はシルベーヌ、デュワーズ公爵家とラフロイグ侯爵家の発言力を削って、身分と性別に捕らわれない新体制の基礎を築くと言っているの」
三人にじっと見つめられながら王妃の言葉を反芻する途中で、シルベーヌの視線に耐えられずに赤面するクラン王子。
こ、こ、婚約者!僕の?って、そうですよね。うわ、嫌じゃないけど言葉にすると破壊力が増すというか、現実味を帯びるというか・・・って、現実!これ現実か!!
「「「はぁ」」」
真っ赤になった王子に向かって、ため息×3が漏れる。
「納得されているようでね」
「ホント、こっち方面は全く進歩ないわね」
「よろしくね、シルベーヌ。クラン、貴方は貴方の役目を果たしてくれればいいわ」
さっくりと流されて、解散した。今後の予定が決まればそれぞれ準備が忙しいので、気づけば思考の追いついていない王子が一人取り残されている。
いいのか?あんなアッサリ人生決められてるけど。
いや、王族、それも第一王子に生まれた時点で、ある程度の人生設計はされてるモンだろうけど。
なんだか色んなものがすっ飛ばされた気もするけど、人材不足弱小国の王子は仕事も多い。とりあえず、慣れた業務に邁進することにしよう。
急ぎ改めて整理すると、心の奥でドキドキしながら、いつもの真顔に戻っていた。
なんだろう、僕だけ振り回されて不公平な気がする。ううん、いつか仕返し出来るかな?
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