8.お妃は誰の手に?
咳ばらいをした宰相は、よく通る優しい低音で名を告げる。
「ブランテール・デュワーズ嬢、こちらへお越しください」
ざわめきと歓声の中、堂々と進んで宰相の隣に並んだブランテールは、王と王妃、王子に向かって優雅に礼をとり、勝ち誇った微笑みを浮かべている。絶妙の間合い、妃確定を確信して口を開こうとした瞬間を見計らったようにゴホンと大きめの咳払い、そうしてすぐに低音ヴォイスが響いた。
「続きまして、シルベーヌ・バルブレア嬢、エリーゼ・ラフロイグ嬢、サーシャ・ハクシュー嬢、チェルシー・ボウモア嬢、ポルテ・タリスカー嬢、ラミー・グレンリベット嬢、以上の方々もこちらへお越しください」
大きな怒りマークを頭上に乗せたブランテールをよそに、さらにざわめきが大きくなり、呼ばれた令嬢たちが颯爽と、また恐る恐る宰相の元へ向かう。
シルベーヌは思わずクスリと笑みをこぼし、早とちりで怒るご令嬢も鳩に豆鉄砲な繊細美少女も面白いわね、と思いながら穏やかな笑顔でラミーに近づくと、
「あら、一緒に呼ばれるなんて光栄ですね!行きましょう、ラミー」
嬉しそうにポン、と肩をたたいた。
シルベーヌに促されて、ラミーはおぼつかない足を叱咤激励しつつ中央へ向かう。
お妃って一人じゃないの?ってか、なんで私が呼ばれるの?選ばれてしまったら、どうすればいいのかしら??
ぐるぐるとまとまらない思考のまま宰相の横へ一列に並ばされ、続く言葉をよく理解できなかった。
「たいへん心苦しいのですが、一度でお一人には絞り切れず、この中で希望される方々に、これから1年間の王妃選抜試験を受けて頂きたいと思います。離宮で勉学と淑女教育に励みながら、王子殿下と仲を深めていただきたいのです」
妃候補を決める舞踏会とか言って、今日はまさかの予選?これから勉強して試験受けて、もう一度妃を決める?
さすがに某童話のように、一目惚れじゃ決められないのか。ある意味、納得できるようなできないような・・・って、結果が出るまで一年もかかるの!?
ああ、借金どうしよう。
詳細は後日連絡と言われて解散し、それぞれ帰路につく。
「また会えるなんて嬉しいわ、それじゃあ離宮でね!」
本気で王子を狙うと言っていたのに、ライバルに向かって妙に嬉しそうなシルベーヌって不思議だ。
「さすが!二人とも頑張ってね」
「今日は楽しかった、応援してるよ~」
「良い思い出ができたわ、ありがとう!」
非日常なレジャーを楽しんだ後のように爽やかに去る元気な三人娘は、友達ってことでいいのかな?
仕事の相談とか、のってもらえるかもしない貴重な人脈として期待するよ?
町娘たちより沁みついた貧乏性で一攫千金を狙えない貧民メンタル、ここにきても地道な小銭稼ぎしか思いつかないし、その伝手になり得る相手を有難く想う。
割り切って楽しんだ後は、借金返済に向けて仕事に邁進!と、覚悟を決めて臨んだのに中途半端な結果になってしまった。
ってか、追加試験を受けるとなると、もしかして借金てんこ盛り追加?
いや、もうダメでしょ。負け続けて限界借金で逆転狙いだなんで、どこのギャンブラーよ。ドツボなだけだから!
ここは辞退して地道に返済計画練るところでしょ!!それに商人だって、これ以上、返済の当てもない借金をさせる訳ないしね。
舞踏会から一週間、思考がいまいち追いつかないので、自宅や身の回り品やらの修繕とか食料調達の日常に戻り、使用人スタイルで働きまくる。
そうして自室で一人、百面相をしながら現実シュミレーションをして、なんとか落ち着いた朝、正式に辞退の返事をしようと覚悟を決めて朝食の場に行く。
「さすがラミー、よくやったわ」
「ははは、候補の中では一番の美人だ。決まったも同然だな」
相変わらずの両親は、いきなりカラフルな花を飛ばして出鼻を挫きに来る。勝手に都合の良い解釈をして盛り上がり続けていたのは知っているが、もうそろそろ現実を見てもらおう。
「もう、王子ももったいつけないでいいのに」
「まったくだ、だがうちより爵位の高い令嬢に気を遣ったんだろう」
黙って朝食を終えると、この根拠レスな自信に満ちた笑顔に対抗するべく、ラミーは無言で暗雲を背負う。
「ラ、ラミー。どうしんたんだい?急に」
「そうよ、可愛いお顔が台無しよ?」
両親は相変わらずのテンションで、不思議なものを見るような、困ったような表情をしつつなだめてくる。しかしここは、闇の力を借りてでも圧をかけないと!一年も借金放置したら、どれだけ金利が嵩むのか考えるだけでも恐ろしい。
「私、王妃選抜試験は辞退します」
妃は一人よ?候補の令嬢達は私より立派な人ばかりじゃない。ついでに手ぶらで離宮になんて行けないだろうし、より借金ダメージが広がる予感しかない。
「ですのでお父様、正式に手続きをお願いします」
よし、言い切った!多少の反論はあるだろうけど、負けないわ。勝算の無い賭けを、これ以上続けても仕方ないんだから。
「まぁラミー、あなた何言ってるの?」
「安心しなさい、正式な返信ならとうにしてある、準備品も来月までには揃えられるさ」
暗雲の威力も削げ、せっかくの闇の力も浄化されそうなお花畑パワー。
「え?正式な返信って、まさか・・・」
「決まっているだろう、妃候補の最終選考だよ。一年は長いし私たちも寂しいが、仕方ない」
「いよいよ来月、離宮へ出発ね。頑張って、ラミーちゃん!」
ダメだ、暗雲が払われたどころか虹が出てるよ。
「舞踏会翌日に届いた最終選考案内には、即日返信したさ!善は急げと言うからね」
「ええ、任せて。もちろん案内は熟読して、準備は進めているわ」
咲き誇る花畑に天使のラッパまで響いてるよ。普段から書類は溜めこんで督促順に返信するような父が、まさかの即レス。
私がモヤモヤと考え込んで借金返済シュミレーションなんてやってるうちに、勝手に話が進んでいた。反論されても粘って勝利を勝ち取るどころか、覚悟を決めた時点で既に出遅れていたなんて・・・。
数日後、相変わらずうさんくさい笑顔全開の商人は、最終選考用に持参するよう通達のあったらしい品々を持ってやってきた。
「この度は最終選考へのご参加、おめでとうございます。こちら、ご注文の品を揃えて参りました」
ぺかーっと輝く衣類や文具、日用品の数々。舞踏会の衣装一式の返済目処もたたないのに、こんなに気前よく追加発注できるとか、どんな神経してるの。
ふうっと気が遠のいてよろけたところを、父が支えた。
「おや、そんなに嬉しいかい?ラミーが気にすると思って、グレードも品数も控えめにしておいたよ」
「異国の限定品も魅力的だけど、プチプラだってラミーちゃんなら高見えしちゃうものね」
さすがはラミー、私たちの娘サイコー、万歳!と浮かれる両親の背後で、血の涙を流しながら執事とメイドが、お嬢様がんばって!の応援旗を掲げていた。
王宮へ参加の返信をした時点で逃げ場はない。勉強出来ると言っていたし、妃は無理でもなんとか割のいい働き口は見つけられるかもしれない。
キリキリ痛む胃を鷲掴み、今までロクにやってこなかった貴族としてのたしなみとやらを、可能な限り習得してやろうと腹をくくる。
離宮での試験は王族が判定するのだろうし、目をかけてもらえたら妃でなくとも借金返済のチャンスはあるかもしれない。
舞踏会のドレスだけなら町娘たちの店や工房に頼み込んでバイトもありかと考えたけれど、追加分までは到底払いきれないだろう。
一年の合宿生活で成果を上げられるよう、死に物狂いで勉強するわ。ああもう、かかってきなさい選考試験!
ゴゴゴと灼熱の炎を背負い、一人、部屋の窓から美しく輝く月に誓った。
読んでくださって、ありがとうございます。
あれこれ書き散らして、節操なく賞に応募したりしてみます。
楽しんでいただけると嬉しいです。
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