7.ダンスパーティ
扉の内側に待機していたらしい侍女の一人に先導されて歩く白亜の城の中は意外にシンプル、長い廊下の中央にシックな絨毯が敷かれ、白い壁には等間隔に配した華美でない明かりが灯されているだけで、絵画や彫刻などの美術品は見当たらない。
名ばかり貧乏貴族なラミーにとっても、弁償不可能な高級品が並ぶより機能重視な設備は安心感があった。また仲間も一緒なので、気軽に話しやすい町娘たちや、貴族令嬢として頼りになりそうなシルベーヌの同行は心強い。
しばらく進むと壁の片側にいくつかの扉が並んでいるのが見え、そのうちの一つが開け放たれていた。
「こちらが舞踏会の会場、大広間です。中でご自由に、くつろいでお待ちください」
扉の前まで案内してくれた侍女が説明したあと、丁寧にお辞儀をして戻っていく。ふと見ると、後ろからも数人が別の侍女に先導されて歩いてくるのが見えた。
「ようこそ、舞踏会へ!」
さすがに妃候補探しの舞踏会、大広間は明るく華やかな雰囲気で、花の腕輪をつけた令嬢たちがたくさん集まっている。周囲のテーブルにはサンドウィッチやスコーン、フルーツや焼き菓子等が並べられ、可愛らしくもテンション上がる食べ放題コーナーのよう。一角はカフェのようにテーブルと椅子が置かれていて、一角にはいくつものソファがあり、自由にくつろげるようになっている。
ウェイター姿の給仕にスマートな動作でドリンクを手渡され、促されるままにテーブルの菓子を摘まむ。
「なにこれ、すっごく美味しい!」
「これとこっちのクッキーも可愛い!ええい、それも!」
「お皿にいくつかもらって、あっちのテーブルで食べない?」
「それいい!さんせーい!」
「じゃあ私、お腹空いたから軽食もらってくね」
美味しいものの前で緊張感も崩壊し、ワイワイきゃっきゃと盛り上がりながら、思い思いに見繕って皿を満たし、皆でひとつのテーブルを占拠する。そうして座ると、けっこうな時間、慣れないヒールで歩いたなと思い直した。ああ、椅子ってステキ。
「はあ、運動の後の一口サイコー!」
「ふふ、なんて立派な一口!」
「いいでしょ、あのラインナップで素通りなんて許されないわよ」
「すみませーん、リンゴジュースもう一つくださーい」
「そうよね、あ、私はブドウジュースお願いします」
ノリはすっかり女子会、まぁ実際に客は女子のみで目的が王子だからコイバナにも発展しがちで。
「そういえば例の職人見習いとはどうなの?」
「どうもしないわ、会話が無いどころか目も合わないもの。あなただってカッコイイって言ってた牧場主の息子はどうしたのよ」
「あ~・・彼ね、花売りの子と仲いいらしいのよね~」
「確かめた訳じゃないでしょ?」
「まぁそうだけど、ちょっと憧れてただけだし彼女いるなら仕方ないかな、って」
「わー、なんなのみんないつの間に!?私だけネタ無し??」
「あら、アンタは王子じゃないの?マジで狙ってるんでしょ~?」
「なわけ無いじゃない!現実味無さすぎ!」
幼馴染三人娘のマシンガン女子トークを聞き流しながら、シルベーヌはラミーにおっとりと微笑む。
「元気いっぱいで素敵ね」
「ええ、会話の内容はイマイチよく分からないトコロもあるけど、楽しい・・・ここは再度腹をくくって(今後の借金返済は頭痛いけど)今日は開き直って楽しむ!」
ナッツチョコを頬張って、ぐぐっとガッツポーズをした。清楚で可憐な美少女の素直さに、シルベーヌは思わずクスクスと上品に笑う。幼少期から今まで、数々の令嬢との会話で、本当に楽しくて笑えたのはいくらも無かったように思う。貴重な機会だ。
ふと顔を上げると、距離をとってデュワーズ公爵令嬢とラフロイグ侯爵令嬢がこちらをうかがっているのに気づく。そういえば、珍しく絡んでこない。華美過ぎない流行のドレスに羽飾り、淡いピンクの腕輪はいつもの自己主張激しめな彼女達と印象が違う。妃候補探しで気合が入らない訳ないだろうから、派手すぎて噂の陰キャ王子に引かれないようにする作戦かもしれない・・・。
ひとしきり食べて飲んで、ついでにみんなでトイレに行って戻ってくる頃には、日が陰り始めていた。
改めて見渡すと、本当に広い。入ってきた扉がある壁の反対側は壁も扉もガラス、外側は大きなバルコニーで、そこから続く螺旋階段を下りた先は中庭だった。ラミー達が座っている場所からはよく見えないが、美しく飾られた中庭も明かりが灯されてなかなか雰囲気のあるガーデンパーティ会場だ。同じように軽食や飲み物が用意され、テーブルや椅子も置かれている。
階段の手前にある入口から案内された、青の腕輪をつけた令嬢たちが案内された会場だった。
「国王陛下、並びに王妃陛下、王子殿下のおなりです」
ざわめきと共に紹介された三名と宰相が現れ、控えていた楽団が音楽を奏で始めた。用意された椅子に王と王妃が着席すると、いつの間にか近くにいたデュワーズ公爵令嬢が王子の前に進み出る。
「今宵はお招き、ありがとうございます。ブランテール・デュワーズです。クラン王子、お目にかかれて光栄です。よろしければ、最初のパートナーとなる栄誉をいただけませんか?」
華やかな明るい金の巻き毛、自信に満ちたエメラルドの瞳。露出は控えめながら胸と腰のラインを強調したドレスに洗練された動作は見事で、王家とも縁戚関係にある公爵家のご令嬢登場に、周囲は怯む。
ぶっちゃけ苦手な相手でも無下にする訳にいかず、王子はブランテールの手を取った。
(勝利は目前!)
微笑みの下の本気モードな炎に焼き尽くされそうだとげんなりしながら、広間の中央でワルツを踊る。
「わたくし、今日を本当に楽しみにしていましたのよ」
じっとりと至近距離で見つめられ、頬を染めながら誉め言葉を並べ立てる。王子は寒気と食い殺されそうな圧に耐えながら、口数少ない生返事でやり過ごす作戦で乗り切った。
舞踏会と言っても男性は王と宰相、給仕係くらいしかいない。ダンスのパートナーは王子のみ、ほんのり囲まれてはいるものの、さすがに我先にと人を押しのけてまでアピール出来ないので、控えめを装った水面下での心理戦のよう。
無礼講と言いつつも結局は、高位貴族たちが順に名乗り出てパートナーを務めていた。
シルベーヌは、一曲ごとに変わるパートナーと王子を見てぼうっとなっている町娘たちに声をかける。
「見てるだけじゃ退屈でしょ?踊って見ない?」
はっと我に返った娘たちだが、
「いや、あの、そんな」
「ムリムリムリ!」
「ダメ・・・破壊力ヤバすぎて立っていられない」
そういって一人がへたりこむと、二人が支えてそそくさと脇によけていく。
町娘たちは、夢が現実になると腰が砕けるものだと学習して、ナマ王子との距離は約5メートルが限界だった。
「あら、せっかくのチャンスでしたのに残念ですこと」
本当に残念そうな真顔で仲良くなった娘たちを見送り、シルベーヌはするりと優雅に王子の元へ歩み寄った。
壁の花になった娘たちとも中央へ進み出たシルベーヌとも距離が出来たラミー。その場に立ち尽くしたままダンスに見入っていると、曲の終盤になって二人が踊りながら近づいてくる。
「こちら、今日ご一緒したラミー・グレンリベット嬢よ。一曲、お付き合いくださいな」
にっこりと微笑みながら王子に紹介され、
「ようこそ。ラミー嬢、お手をどうぞ」
優雅な仕草で差し出された王子の手を取り、気づけば広間の中央に立っている。
よくわからないまま話したり踊ったりしたような気がするけど、思った以上に緊張して記憶が飛んでしまった。
ついでに時間も飛んでいたらしく、シルベーヌに肩をたたかれた時にはダンスも終了し、広場中央に立つ宰相がコホン、と咳ばらいをしていた。
読んでくださって、ありがとうございます。
あれこれ書き散らして、節操なく賞に応募したりしてみます。
楽しんでいただけると嬉しいです。
毎週金曜 6:20 更新中。




