6.分かれ道
城は近くに見えても、歩くとけっこうな距離がある。それもドレスにヒールなんて慣れないものを身に着けていると、体感でいつもの半分以下に機動力が落ちた気がした。
「ゆっくり歩きましょうか、怪我でもしたらたいへんですもの」
先頭を歩くシルベーヌが、振り向いてウィンクする。
「お天気も良くて、素敵なお散歩日和ですね」
楽しく歌うような口調も、くるくると変わる表情も、とても魅力的な女性だ。明るく人懐こい笑顔で、皆に気さくに話しかけてくれる。
「はい、王宮のお庭を散歩できるなんで、夢みたいです」
「うん、帰って家族に自慢する!よく見ておかなくちゃ」
しばらく続いた木立を抜けると、綺麗に整えられた広い場所に出た。上部の視界が開けて、青空に映える美しい白亜の城が見えた。
背丈よりも少し大きく整えられた様々なバラの迷路のような庭園で、あちこちに配置された小さな花壇、馬や羊など動物を象った石像、それらをリボンで飾ったり結んだりしたオブジェで複数ある通路を塞ぎ、曲がりくねって複雑ながらも一本道になっている。
博物館の順路のように鑑賞しながら進むと会話も弾み、最初は貴族相手に戸惑っていた平民の少女たちも、次第に打ち解けてきた。
「あら、このウサギは三匹仲が良いのね!とっても可愛らしいわ」
「私はさっきの立ち上がった馬がカッコよくて好き」
「ねえ、騎士様や妖精の像は無いのかしら?」
「こっちは小さなバラを白鳥に飾り付けたみたい!」
「リボンの飾りも、色や形がたくさんあって見ているだけで楽しいわ」
あれこれ言いあいながら、きゃっきゃと盛り上がる。
小さな発見や互いの感想も視点が違って面白く、脳内ツッコミに慣れ過ぎてまともな会話をしてこなかったラミーには、初体験の楽しい時間になった。
この先背負う借金は気が重いけど、来てよかったなと思い始めている。
「それよりこっちに・・きゃあっ!」
慌てて石を踏んで転びそうになった少女を、とっさにラミーが受け止める。腕っぷしには自信があったけど、履きなれないヒールで少しよろけてしまった。
「大丈夫?」
転ばずに済んだ少女は支えてくれた美少女を見て、浮かれ天国から墜落したように顔面蒼白。忘れかけていた身分差を思い出して、城に入る前に吐かれた暴言が脳裏に蘇った。貴族令嬢にタメ口きいて世話をかけるとか終わったんじゃ・・・!?
「あ、の・・」
そっと離れて、恥ずかしさと申し訳なさと恐怖で、物凄い勢いで頭を下げる。
「申し訳ありません!!」
助けたラミーがその豹変ぶりに驚いていると、
「今日は身分なんて関係ないのよ、怪我もなく衣装も無事で良かったわ」
シルベーヌが少女に微笑みかける。
「うん、私も大丈夫よ。ヒールは慣れないからバランスが難しいね」
ラミーは少女の豹変した理由に納得しつつも、皆と会えて嬉しかったことを伝え、改めて楽しく過ごそうと笑いあった。
アレは恥ずかしい貴族代表ですよ、うん。
少女たちは同じ通りに住む幼馴染で、それぞれ家族で営む小規模なパン屋、仕立て屋、木工工房の娘。家業や家事を手伝うのが日常で、王子様の妃候補なんて夢物語だけど王宮に入る機会なんて今回を逃したら一生無い!と、緊張と期待を胸に勇気を出して来たらしい。
けれども、いざ来てみると圧倒されるばかり。場違い感で委縮して泣いて帰りたくなっていたところを、シルベーヌやラミーに声をかけてもらえて感謝している、と興奮しながら口々に伝えてくれる。
ラミーも、身分は伯爵だけれど没落した貧乏貴族でボロ屋敷住まい、王子妃なんてガラじゃないけど両親に強く勧められて来たと打ち明けた。
「あら、じゃあ皆さんは本気で妃になる気は無いんですか?」
シルベーヌが聞くと、
「なれたらすごいな、とは思うけどねぇ」
「そうそう、正直、想像もつかないっていうか・・・」
「ねえ?実際にお城を見るだけでも緊張しちゃうもの」
「お花畑脳な両親は本気ですけどね、私じゃ務まらないことくらい分かりますから」
それぞれ、賑やかしエンジョイ勢な回答ばかりだった。
「そう言う、シルベーヌは本気なの?」
ラミーが軽い気持ちで聞くと、
「もちろんよ、私はクラン王子が好きだし力になりたいもの!」
思いのほか、力強い回答に驚いて目をぱちくりちしてしまう。ラミーはしばらくしてシルベーヌの前にグーを突き出し、親指を立てて笑った。
イイネ!
その自信に満ちた宣言に嫌味は無く、一瞬置いて少女たちも口々に応援してくれる。頼もしい代表選手一名を選んだような誇らしい気分で、またわいわいと盛り上がりながら進んでいった。
少し道幅が広くなり、曲がりくねっていた道がまっすぐに伸びている。真ん中に立て看板、後ろにゲートのパターンでいくつか続いているようだ。さらに奥には、城の入口へと続く階段も見える。
一つ目の看板には、
【今の気持ちはいかがですか?】
と書いてあり、後ろにある2つのゲートにはそれぞれ【楽しい】、【疲れた】と書かれている。
五人は顔を見合わせて笑い、
「決まってるよね」
「当然!」
と、迷いなく【楽しい】のゲートをくぐる。
次の看板には、
【今日、新たに友人は出来ましたか?】
と書いてあり、後ろにある2つのゲートには、それぞれ【はい】、【いいえ】と書かれている。
再び五人で顔を合わせて笑うと、
「もちろん!」
またしても迷うことなく、【はい】のゲートをくぐった。
最後の看板には、
【舞踏会に参加しますか?】
とあり、後ろのゲートは【はい】と【いいえ】の二択。
当然、みんなで楽しみたいので【はい】のゲートをくぐると、城の入口へと続く階段の前に、ゴールゲートとそこへ向かう着飾った人々が見えた。
質問ゲートの後は、どの道を進んだ者も同じゴールゲートへ向かうらしい。すっかり仲良くなった五人は、和気あいあいと話しながら歩いていく。
そんな五人を横目に、
「あら、ライバル同士なのに仲がよろしいこと!」
などと冷たい目と言葉をくれながら足早に抜かしていく令嬢、さらに後ろから、
「私が先よ!」
「あなた足を痛めていたんじゃないの?王子様のお相手は私にお任せなさいな」
別に先着順でもあるまいに、言い争いながらかけてゆく令嬢たちもいた。
ゴールゲートには少し列が出来ていて、順に受付で渡された花の腕輪を確認しているようだ。すっかり存在を忘れていたけど、無事につけていた。って、あれ?
「ピンクになってる!?」
「ほんとだ、私も!」
ふと列の前をみると、先ほど抜かしていった令嬢のは、ブルーになっている。渡された時は白かったが、時間とともに色が変わるのかもしれない。さすが王宮の花。
ゴールゲートには紳士が二人いて、令嬢たちの腕輪を確認している。そういえば、通行証と言われたっけ。
あまりいないようだが不注意か事故か、失くしてしまった人は城に入れないので、兵士に案内されて城外へと連れ出されてしまうそうだ。
無事に通行証の確認が終わると階段を上るように言われ、混雑の緩和だろうか、ブルーの人は手前の扉、ピンクの人は奥の扉から入るように指示があった。
仲良し五人は全員がピンク、ラミーと平民少女たちは、ここまで来てバラバラにならずに良かったと胸をなでおろす。うっかり一人だけ別にでもなったら、緊張で訳が分からなくなるかもしれない。
扉の前には身分の高そうな兵士が二人、扉を開けて促され、シルベーヌを先頭に中へと入っていった。
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