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貧乏伯爵令嬢は婚活に夢を見ない  作者: 黒坂 志貴


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5.王子の事情

「ご令嬢方の受付も終わりそうよ、貴方もそろそろ準備なさいな」

バルコニーで遠眼鏡を手に王子を振り返ったのは、当ルーモスのロアンヌ王妃である。濃紺の髪を結い上げ、露出の少ないシックなドレスを纏い、落ち着いた雰囲気の中にも、どこか楽しそうな雰囲気が滲んでいる。

「珍しく浮かれてますね、母上」

母譲りの濃紺の髪に深い湖のような青い瞳、父譲りの一見冷たそうにも見える整った顔立ち。ほとんど人前に姿を現さなかったので気難しい引きこもり王子と噂されているが、実際は近隣諸国を巡る遊学から帰国したばかりの勉強&仕事熱心な真面目くんだ。

元々、生真面目で物静かであり、愛想もイマイチで口数も少ない。が、留守を引きこもりと噂されるのは心外である。


ため息交じりにサイドテーブルのグラスを手に取ると、水を一口飲む。はあ、とまた大きなため息が出た。

ゆっくりと近づき、王妃は王子の隣のソファに腰を下ろす。

「気に入りませんか?」

にっこりと微笑みながら聞かれると、返答に困る。結婚して子をもうけるのも王族の務めと理解はしているが、女性に対してあまり良い印象は無い。無口で無表情だったから、幼少期から遠巻きにヒソヒソと噂話をされるか、やたら距離感の近い無遠慮に圧倒されるかで、不特定多数の女性など正直億劫なのだ。将来的にはそうあるべきでも、今はぶっちゃけ面倒くさい。

「ふふ、婚約や結婚など、まだ早いとでも思っているんでしょう?」

あっさりと言い当てられて、なんだかバツが悪い。無言でいるのが図星と解釈されているのも、居心地が悪かった。


「殿下、諦めて観念なさい」

静けさをノックで破って入室してきたのは、ナンネン宰相だった。中肉中背、これといって特徴のない一般的な容姿だが、一つに束ねて背に流した豊かな白髪は一部の年配者に羨まれている。凡庸な見た目だが、先代王の時代から宰相として国を支える重鎮だ。

「ここルーモスは三つの強国に囲まれた弱小国、均衡を崩さず介入を許さず安定を保たねばなりません。実際にご遊学された殿下は実感されていると思いますが、幸い近隣のどの国も力任せの手段を選ばず交易や技術協力で共存共栄を目指す方針。されど、我が国の国力が落ち共存の価値なしと判断されれば存続は危ういのです」

それは実際の肌感覚から共感出来る。王族は国の柱、王子とその伴侶に対する関心は玉の輿イベントだと盛り上がる国内のそれとでは方向性が違うのだ。今後の関係も左右する王妃候補を、こんなお祭り騒ぎで決定するなど・・・。


って、国中から募って花嫁候補を決める舞踏会など、この母と宰相が単なるノリで企画した催しのはずがない。


「何か、お気づき?」

にっこりと微笑む王妃に向かい、

「当事者である僕が、仲間外れのような気がするだけです」

拗ねる王子を横目に王妃と宰相が顔を合わせ、こっくりと頷く。

「お花畑さん達にまとめて納得して頂かないとなりませんのでね、まあ手間を省くためです。安心なさいな、貴方に女性をあしらいながら品定めせよとは言いませんし、何より一途な気持ちは通じていますから」

ーは?なんか情報量が多いんですけど。ってかその、通じてるって何?いつ?誰に?

いや二人とも何なんですか、その含み笑いは!

反論を試みようとした瞬間、思い当たる彼女が脳裏をよぎり、頬が紅潮するのがわかる。なんだか急に恥ずかしさが押し寄せて、開きかけた口ごと手で顔を覆って俯いてしまった。

「ほっほっほ。殿下は分かりやすいですからな。しかし陛下の病状は落ち着いたものの、昔からあまり丈夫とは言えません。王弟ガーナミル様もとうに王位継承権を放棄され、ご本人にもその意思は無いと私どもは承知しておりますが、その存在感は大きく周辺諸国にとっては懸念事項、という訳です」

ーなるほど?だから早めに王妃候補を発表して後継者を認知させ、周辺諸国へ安心材料を提供したいのですね?

「で、あ、と、あの!」

なるべく平静を装ったつもりでも、動作はぎこちないし上手く言葉も出てこない。

「今日これから、僕が妃候補を選ぶんじゃないんですか?それに、通じているって、その」

しどろもどろになった息子を面白そうに見ながら、

「バルブレア伯爵令嬢のシルベーヌでしょう?貴方がまともに会話出来るのって、昔から一人しかいないじゃない」

ポン、と王妃の手が肩に触れた音が、ボン!、と爆発音が聞こえるかと思うくらいの衝撃を与えると同時に、王子は耳まで真っ赤になった。

「しっかりした彼女なら多くの意味で安心ですが、一部、面倒な勢力がありますので、まとめて黙って頂く方法を考えました」

ぺこりと宰相が頭を下げる。


王家に近く発言力も高い無視しづらい公爵や侯爵家に、年頃の合う娘がいる。家柄や体面、伝統や格式を重んじるあまり自らを特別だと思い込み、視野が狭くなった面倒な人たち。

百年余り戦争の無い平和な時代が続いたせいか、小国に対して大国が、同じ王家だからと無条件で対等に接してくれるのでは無いと理解できないらしい。

親がそんな調子なので、子も同じような思考になってしまっているのが、仕方ないのかもしれないが残念なところ。


それにしても。

シルベーヌの事は好きだけど、恋愛とか苦手分野だし一足飛びに婚約とか結婚とか言われても実感無いし、実際どうすればいいのかも分からない。

ってゆーか、今知ってしまって普通の顔で会う自信が無い・・・。


「あら、表向きは今から王子の花嫁探しよ。それ以外の人材発掘も兼ねていますけど」

ああ、やはり。独身女性とその周辺親族を煽っての内需拡大による経済効果を狙い、幅広い公募は国内外への平等運営アピールと好感度アップ、国内現勢力に対するけん制とアップデート情報の提供、身分に縛られない人材の発掘など、多くの効果を期待するための撒き餌。さらには公募と銘打ちながらのデキレース。

国と息子の将来を賭けた、てんこ盛り企画なんですね。


ほほほ、ふふふと微笑みながら息をするように毒を吐く王妃と宰相。

ええ、一部の問題一族には手を焼いていますからね。

会議で下の身分からの意見はもちろん、ここ数年は病弱な陛下や年老いた宰相も見下しがちと聞いています。

だいたいうちみたいな弱小国が何の努力もしないで強国に相手にされる訳ないことすら理解できない。

血統だの家柄だのにふんぞり返って相手を見下し、恥ずかしさのカケラも持ち合わせていない。

身分で要職に就けるからと勉強もしないで実務は部下に丸投げ、成功すれば自分の業績、失敗すれば部下の責任って厚かましさが常態化し過ぎ。

貴族というだけで贅沢に着飾って偉そうに命令することに慣れ過ぎて、自分では何一つできないことに気付かないとか、ハッキリ言って終わっています。

けれども聞く耳持たないんですよね、そーゆー輩は。

まずは気分よく土俵に上がって貰わないと、不都合を察知されると逃げられますし。


・・・余程腹にすえかねていると理解しましたが、まったく容赦のない本音トークですね。ついでに当事者置いてけぼり感が半端ないですし、先ほど赤らめた頬が青白く削げそうです。


「あら、あなたは心配しないで大丈夫。けれどダンスはなるべく、多くのご令嬢とね」


なかなか迫力のある微笑みだ。

王子はげんなりしながらも身支度を整え、会場近くの控えの間へと移動した。


読んでくださって、ありがとうございます。

あれこれ書き散らして、節操なく賞に応募したりしてみます。

楽しんでいただけると嬉しいです。

毎週金曜 6:20 更新中。

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