14.がんばれ、受験生!?その2
「私、ダンスって舞踏会前に母と一夜漬けした以来かも」
ホールに向かいながら、ぽそりとラミーがこぼす。
「そうなの?そんな即席に見えないくらい、上手だったわよ」
へ~っと感心しながらシルベーヌか答えると、
「日々の生活が常に差し迫ってたから、全く興味持てなくて」
両親は貴族思考だったけど、私は最低限の衣食住確保が最優先だったなぁ。むしろ、どうして雨漏りして壁が落ちる屋敷に住んで食糧庫に備蓄ゼロ状況なのに、ドレスだダンスだと言えてたのか理解できないのよね。
「ふふ、ラミーらしい。ご両親はラミーが大好きなのよ、ちょっと方向性はアレだったけどね」
うぐ、と思わず変顔になる美少女。繊細なレースをあしらった控えめなデザインが、より魅力を引き立てる。黙って佇むだけで目を引き、少し微笑んだら多くを虜にするだろうに、素直な表情がまた、たまらなく魅力的だと思う。
この個体値の良さ、労力も課金は惜しまないわ!
「実技も才能あるわよ、幼少期から多くの貴族令嬢を見て来た私が太鼓判押しちゃう!一緒に頑張りましょうね」
うふふ、と楽しそうなシルベーヌ。栗色の髪をゆるっとまとめて、緑を基調とした落ちついたドレスを纏い、不思議な存在感を持っている。特別美少女では無いが、その笑顔は安心感を与え言葉には説得力があり、以前からなんとなく感じたこれは包容力?
「シルベーヌって、オトコマエよね」
言い方!貴族令嬢に向かっては誉め言葉に聞こえないが、想いは伝わったようで。
「でしょ?惚れないでね、ヤケドするから」
ふふふ、クスクスと笑ってホール前で気を取り直して目を合わせて頷き合い、ドアを開けた。
他の候補生たちはそれぞれ昼食をとったあと、すでに着替えて一階のホールに集まっていた。最後かと思っていたら、急ぎ足でやってきたサーシャが滑り込む。昼休憩の間、夢中で本に没頭して昼食を取り損ね、午後イチの授業に遅刻寸前になってしまったらしい。
今日の実技はダンスだ。よほど自信があるのか、残念令嬢ズが服装からして張り切っていた。
特にブランテールは夜会のように髪を結い上げ、これでもかと宝石のついた派手なドレスを纏っている。気合が入れば入るほど悪趣味になっていくドレスは、どれも本人のデザインだそうだ。自慢げに語っているが周囲はドン引きし、特に商人の娘としてセンスもあり目も肥えたチェルシーなどは、「やっぱりアレでプロの仕事ってコトはないよね」と納得したようだった。ついでに名を挙げられていた、けっこう有名なデザイナーに同情する。どれだけ名をはせようと所詮は平民、どんなに理不尽でも大貴族には逆らえないのだ。
しばらくして講師のカトリーマム・チタが入ってきた。シンプルな簪ですっきりとまとめた緋色の髪、同じくシンプルなドレスの上半身は身体にピタリと沿ってバランスの良いラインが際立ち、スカート部分はゆったりとしたシルエットで美しい動作に優雅に揺れる。
自然と視線が集まるのも納得、存在にも華のある四十を過ぎた美魔女だ。
「お待たせしました、午後の授業を始めます。今日は先週お伝えした通り、ダンスの基本をやっていきましょう。ハイ、皆さん間隔をあけて広がってください」
ホール中央を中心に、動いてもぶつからないよう散らばっていく。講師のカトリーマムが合図をすると、ピアノ演奏が始まった。音楽に合わせてゆったりした基本動作を、講師のマネをして全員でステップを踏む。
見よう見まねでたどたどしい者、危なげなく軽やかな者、思わず目を見張る者と様々だ。一通り覚えたであろう頃に、カトリーマムは見本をやめて全体を見ながら移動していく。
そんな中、どこからかお腹の虫の泣く音がする。出所がわかるとパンパン、とカトリーマムが大きく手を打ち、全員が動きを止めた。
「はい、結構です。次は一人ずつ中央に出てやってみてください。他の方はこちらまで下がって、椅子にかけていてください。持参したお水は飲んでいただいて構いません。そうですね・・・最初はシルベーヌさんから!」
そうしてカトリーマムはサーシャを最後尾に誘導し、椅子に座ったのを確認すると、
「少しはお腹にいれなさい、水も飲むのよ」
小さく伝えて、一口サイズのクッキーをいくつか渡した。腹の虫のヌシと、その理由も察しがついているようだ。
「妃候補たるもの健康管理も大切です、試験だけでなく食事や睡眠もおろそかにしないように」
部屋付きの侍女にも伝えておかないといけませんね、なんて対応している間に、二番目のブランテールが終わっていたらしい。
「先生、アタクシのステップはいかがでしたか?」
迫力の爆乳をさらに強調するド派手なドレスでポーズを取りながら、さあ誉めろと強要を込めた問いかけに、真面目に相手をするのが面倒に感じるカトリーマム。
「堂々として斬新な動作でしたよ。基本ステップに取り入れたアレンジはアナタのオリジナルかしら?はい、次の方どうぞ」
ほぼマトモに見ていなかったが、本音をマイルドに変換した感想を笑顔で述べる。クセは強いものの一応基本はできているし、本人が望まない指導で手間をかけることも無いと割り切って流す。ブランテールはこれまで周囲に誉めそやされてきたせいか賞賛に値する出来と自信を持っているようだが、忖度無しだとごく普通の技術で普通に合格をあげられるレベルだ。と、そのまま言っても不満だろう。
それにコンクールや大会ではないので、ここで特別に秀でていても最終結果にそれほど影響しない。
ダンスのレベルは高いに越したことはないが、他に優先順位の高い項目があるので王太子妃や王妃に求めるのは、公の場で失礼でない程度のスキルで良い。国の代表たるもの全てにおいて一流、なんて人外の理想を押し付ける輩もいるが、完璧超人がホイホイ存在するものか!勝手にろくでもない期待を抱く者の価値観はさておき、この離宮合宿では現実主義な王室の基本姿勢を反映して実技の合格ラインは低いので、聞く耳を持たない相手に無駄な時間も労力も使わない。
華麗なるスルースキル。付けた成績が気に入らなければ、話を聞く気になるかしら?って、ならないでしょうね、めんどくさ。
次々と入れ替わって、ステップを披露していく。カトリーマムは残念令嬢の時と違い、興味深く見ていた。
今まで指導を受けたことが無いと聞いていたラミー・グレンリベットは飲み込みが早いし動きも良い。商家のチェルシー・ボウモアは平民とは言え国内でも屈指の資産家、しっかりと基礎教育を受けて安定している。食堂で働いていたポルテ・タリスカーと運動全般が苦手だというサーシャ・ハクシューも、まだぎこちないが合宿期間終了までには形に出来るだろう。
さすが最終選考に残るだけある令嬢たち、舞踏会で失礼のない程度に踊るなら問題ないわね。と思いつつ、どうせ練習するなら上手くなって欲しいし目標もあるといいわよね。芸は身を助けるって言うし、妃になってもならなくても役立つ可能性はあるもの。
でもって面倒くさそうな令嬢ズも、前向きに努力はしてほしいのよね。
そんな願いを込めてか、
「また王子殿下と踊れるように、しっかり練習していきましょうネ」
実技のシメは、たいてい『王子』入りの魔法ワード。残念令嬢たちの機嫌がよくなり、周囲への当たりが柔らかかくなる。その他の令嬢たちも平和に過ごせるし励みにもなるので、午後の授業のシメは実は密かに感謝されているらしい。
ちなみに午後の実技二つ目は多目的室での刺繍で、シメは、
「腕を磨いて王子殿下にプレゼント出来れば、きっと喜んでいただけますよ」
だった。
実際の王子訪問は早くても数か月先なので、いつまで通用するか分からないが・・・。
「何かご用?」
居残って刺繍をするサーシャが、片づけ中のシルベーヌと目が合って声を放つ。あからさまとは言わないけど、ちょっとトゲを含んだ印象だ。
「うわ、サーシャさん上手!勉強も出来るし、年下なのにスゴイのね」
そんな微妙な空気を知ってか知らずか、手元を見て思わず声を上げるラミー。
「努力するためにここに来たんだから当然よ、気が散るから静かにしてくださる?」
ピシャリと言い放って、作業を続けている。ふわふわピンク髪で小柄な彼女は、険しい顔で一人でいることが多い。なかなか声をかける機会も無いし、かけたところで会話も続かないようだ。
「ごめんなさい、すぐに退室するわ」
荷物をまとめ終わったシルベーヌが、ラミーを促す。
「じゃあ、お先に」
一生懸命なのは分かるが、頑なで取り付く島もない。午前授業のあとも昼食を忘れるくらいだったし、危なっかしくて心配だけど、こうも拒絶されるとショックでもある。
何かきっかけがあるといいのにな、と思うラミーとシルベーヌに対して、サーシャは呑気につるんでる人たちとは慣れ合えない、とやや敵視しているようだった。
読んでくださって、ありがとうございます。
今回も、長くなってしまいました。
「恋愛」ジャンル詐欺、いつまでやるんだろう・・・。
あれこれ書き散らして、節操なく賞に応募したりしています。
楽しんでいただけると嬉しいです。




